国際部 野手 文華

 2021年3月6日土曜日、中央支部国際部のオープンセミナー「コロナ時代の中小企業の海外展開~コロナ禍を生き抜く!中小企業 海外ビジネスの展望~」をテーマに開催しました。国際部オープンセミナーとしては初のオンライン開催となりましたが、全国の中小企業診断協会に呼びかけたところ100名を超える参加申し込みをいただき、コロナ禍における海外展開について関心の高さが伺えました。セミナーのサポートとして参加した立場から、当日の概要についてご報告させていただきます。

講演1 「コロナ禍における我が国中小企業の海外展開」
日本貿易振興機構(ジェトロ)理事 北川浩伸氏

 ジェトロ理事の北川浩伸様に、我が国中小企業の海外展開ならびに主要国のコロナ対応に関して、中小企業への影響、グローバルリスクに対応した事業計画への見直しや課題、公的機関の支援策といった観点から、ご講演いただきました。

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 主要国・地域のコロナ感染策としては、何らかの形で移動や営業活動の制限などが設けられるなどの対策が講じられています。一方で、中国・台湾・ベトナムなどは徹底した封じ込め政策により、国内での経済活動制限は概ね解除されており、中国では主要観光スポットで賑わいが見られるようになるほど、国内の経済活動は活発化しています。

感染が落ち着けば海外展開を加速したい日本の中小企業の意欲は依然高い(「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」)
 日本企業の海外展開への対応という点からは、ジェトロが2020年10~12月に実施し2月に発表した「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」をもとに、最新情報を報告いただきました。海外進出・輸出への取り組みとして、「既存の海外拠点の拡大」を図る企業は縮小傾向にあるものの、「新たに海外進出をしたい」という企業は、コロナ以前と比べて衰えておらず、感染が落ち着けば海外展開を加速したい中小企業の意欲は依然高いことが分かりました。一方で、リスク分散意識の高まりにより、検討対象の国・地域を増やす企業が増えており、中国、ベトナム、米国といった国が注目されています。中小企業では、EC利用への取り組み意欲が高いといった傾向もみられました。

2020年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2021年2月)
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/01/3f6c5dc298a628be.html

現地に行く前でもオンラインで十分情報収集が可能
 またコロナ禍においては、海外ビジネスチャンスを広げていくための期間、と捉えて準備することの重要性を示唆いただきました。オンラインでも十分な情報収集が可能になっており、例えばジェトロのホームページでは、国・地域別の統計・法規制・税制、進出の際の手続き方法等、多岐にわたる情報が得られるほか、ウェビナーや動画などが掲載されています。その他にも、越境ECに取り組む中小企業向け支援策として、各国のECサイトと連携できる「JAPAN MALL」、バーチャル展示会への出展支援、世界の優良バイヤーとマッチングできる「Japan Street」の開設など、コロナに対応した取り組みも積極的に行っています。ジェトロ以外でも、各公的機関で様々な海外展開支援が実施されており、それぞれの支援事業を上手に活用することで、コロナによる海外展開のハードルを下げることが可能となります。施策については質問でも多く寄せられ、関心の高さがうかがえました。

講演2「After コロナ最前線! ビジネスが動きだしたベトナムの最新事情」
Spice Up Vietnam Co., Ltd. Managing Director
株式会社インタークリエーションズ代表取締役/中小企業診断士 三宅秀晃会員

 三宅さんは2012年~2020年までベトナムに在住し、2018年からは海外研修・海外インターン・観光フリーペーパー事業に注力されていました。中小企業診断士でありながら、実際にビジネスをされ、コロナによる影響を直に受けた実体験をもとに、ベトナムにおける最新のコロナ対策や現状、ビジネスチャンス・リスクなどについてお話いただきました。
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ベトナムの徹底したコロナ対策と現地からのリアルな声
 ベトナムでは、長期にわたり何度も市中感染者をゼロに抑え込むなど、早期から徹底的な感染封じ込め政策が行われてきました。陽性者の追跡や情報公開、罰則を徹底し、感染者が発生したら省・市・街区・建物全体が封鎖されるといった措置が施されてきました。違反に対する罰則の例では、接触者の報告義務違反には5~10万円、緊急事態下での3人以上の集会には15~20万円と、ベトナムの平均月収が数万円であることを考慮すると、非常に厳しい規定であることがわかります。
その対策が功を奏し、飲食・宿泊業以外でのコロナの影響は、ほとんどみられず、国内経済は活発、輸出額も増加しています。こうしたことから、コロナ禍でも無印良品・ユニクロ・吉野家といった例のように、ベトナム国内市場への進出・拡大を図る動きもみられています。
 実際にベトナムで働く日系企業の声では「基本的には出勤が継続され、リモートとなるケースは少ない」「国内出張も制限はない(ただしオンライン商談は増えた)」とあまり影響を受けていないことがわかります。反対に変化を感じた点として「日本からの出張者が来ないため、現地従業員のモチベーション低下がみられる会社もある」と、マネジメントへの課題があがりました。
 このようにベトナム経済は、コロナに負けず力強く伸び続けていますが、一方で、ベトナムへの入国は厳しく制限され、高額な渡航関連費用や、現地法人のスポンサー企業を必要とするなど、海外からの進出にはリスクとチャンスをしっかりと見極めていくことが重要になります。

パネルディスカッション
パネリスト:北川浩伸氏、三宅秀晃会員、三好康司会員
進行:小林隆会員

 基調講演の講師2名(北川浩伸氏、三宅秀晃会員)及び、JETROエキスパートとして中小企業の海外展開を最前線で支援する中小企業診断士(三好康司会員)がパネリストとなり、With コロナ・Afterコロナ時代の中小企業の海外展開について、公的機関、中小企業事業者、海外支援コンサルタントそれぞれの立場からお話いただきました。
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 コロナ禍による海外事業への影響について「製造業でのサプライチェーン再構築の課題」、「各業種での変化」、「現地企業とのコミュニケーション対応」、「新たなビジネスチャンスの可能性」、「IoT導入の現状」といった様々な観点から、具体的な例を交えて、情報共有いただきました。

不確実な時代だからこそ基本的なことをしていく
 Afterコロナのビジネスに関しては、「不確実な時代となっている中、先を予見することは難しい。どのような状況でも対応できるよう、情報収集を徹底的に行い、バリューを磨いたり、迅速な意思決定の体制を整えたりといった、基本的なことをやっていくしかない」「この国はこうだ、という固定観念やイメージを持ちがちであるが、それをいかに取り払うかも大切。例えばベトナムといっても、ハノイ・ホーチミンといった都市部はかなり発展しているが、それを理解して来る人は少ない。今までの常識にとらわれず、様々な角度から数値・情報を集めて、自分なりの考えを持つことが重要である」「ジェトロ以外にも海外展開支援する公的機関も多くあり、それぞれの方針に合致するものが必ずあるはずなので、ぜひ上手く組み合わせて活用していただきたい」といったお話がありました。
オンライン商談会も、この1年で急速に浸透してきました。対面では情感・情緒や、におい・見た目など五感で訴えられるものがあったものの、オンラインでは論理性・リズムが大切になるなど、オンラインと対面の効果の違いをしっかり認識して準備することも重要となります。中小企業では、デジタル化のための人材が不足している中、IT活用のためのサポートも、ますます求められる世の中になってきます。
 全体を通して「チャンスが来た時にすぐ動けるよう、しっかりと準備していくことが、今後に大きくつながる」というメッセージが印象的でした。中小企業診断士としてどのように関わっていくか、についてのヒントも多く得られたのではないかと思います。

 当日実施したアンケートでは、たくさんの方々から高評価をいただきました。
 講演に関しては、「知りたい最新情報が濃くまとまっていた」「ご経験及び具体的なデータに基づいた説明で非常に分かり易かった」「日本にいながら、現地の状況を把握・分析する具体的なノウハウを聞けた」との声がありました。
 パネルディスカッションでは、「中小企業の海外展開における各種情報交換が参考になった」「積極的にパネラーの方々が経験に基づく発言をされ、有意義だった」「具体的な海外展開の支援がイメージできた」といった温かいコメントをいただきました。
 講師・パネラーとしてご登壇くださった方々、ご参加いただいた皆様のおかげで、充実したセミナーとなりました。この場を借りて御礼申し上げます。