グローバル・ウインド「外国人をはじめ、日本人同士でも使える異文化適応力(CQ)のご紹介」(2021年3月)
国際部 松島 大介
CQ、CQ、こちら・・・・と聞いて、ピンと来た方、そのCQではありません。
そのCQは、無線通信での呼び出し略符号ですね。
今回お伝えするCQのCは、文化、つまり、カルチャーのCです。
CQとは、Cultural Intelligence Quotientの略で、多様な文化的背景に効果的に対応し協働する能力のことです。異文化適応力とも言われ、IQ的にいうと文化の知能指数ともいえます。初めて聞く人もいるとは思いますが、私はIQ、EQの次にくるのがCQだと考えています。
IQ、EQがでてきたので、ちょっとだけ復習してみましょう。
IQ(知能指数)とは、Intelligence Quotientの略で、『頭の回転の速さ、学術成績、職業上の地位、特定分野での傑出』などを意味し、一般的にはビジネスに必要な体系的な知識や専門性を指し、仕事のできる人はIQが高いと言われてきました。また、EQ(こころの知能指数)とは、Emotional Quotientの略で、『共感力、対人的能力』を意味しています。そして、IQとEQが高い人が、優れたリーダーと考えられてきました。
異文化と聞くと、どうしても、日本と中国、アメリカ、フランス、タイといった海外の国の文化のイメージをしてしまいますが、日本人同士でも異文化はたくさんあります。職場の同僚でも、価値観が違う人、何を考えているか分からない人はいませんか? 夫婦で長く付き合っていても、何かしたら課題にぶつかっているのであれば、それは二人の間に異文化があるといえます。CQを高めることは、外国人だけではなく、会社の同僚、家族、親戚といったところでも、使える能力となります。
しかし、日本人同士だとやはり文化的背景が似たところが多く、気付きにくいのかもしれないので、今回はわかりやすく、国別の文化研究したものをベースに述べたいと思います。
異文化研究には、いろんな軸で切り口をつくって研究がなされており、その軸(切り口)のことを次元と呼ぶことにします。異文化研修においては、2次元のSchwartzとHall、6次元のHofstede、7次元のTrompenaars、9次元のGLOBE(Global Leadership and Organizational Behavior Effectiveness)プロジェクト、2次元文化地図のInglehart/Welze、8次元のカルチャーマップのErin Meyerなどがあります。
この中でも、異文化研究の基準をつくったのは、Schwartz、Hall、Hofstedeの3人と言われています。
今回は、異文化研究の基準づくりのベースとなった1人であるHofstedeつまり、ホスステード博士の6次元モデルについて述べたいと思います。ホスステード博士のモデルは、国際経営では最も権威あるJIBS(Journal of International Business)の過去数十年の引用ランキングで世界No1、つまり国際経営で最も広く使われており、そして、専門家のレビューを常に受け科学的に検証されているという特徴があります。
ホスステード博士は元々、IBMヨーロッパの人事リサーチマネージャーでした。そこで、当時のIBMの事務所がある72カ国、20言語でIBM従業員意識調査を実施したことにより、従業員の意識や行動の違いは、職種や性別・年齢などの属性ではなく、国別の文化の違いが原因だということを発見しました。その後、IBMを離れ、現在のIMD(スイスにある国際経営開発研究所かつビジネススクール)で、研究を続け、国の文化を初めて数値化しました。
ホスステード博士のモデルで使っている6次元は、人類共通の6つの課題を6つの軸として定義された以下になります。
出典:異文化エキスパート養成講座資料
参考までに、6次元の日本語と英語略、英語名を掲載すると以下のようになります。
1 権力格差(PDI: Power Distance)
2 集団主義/個人主義(IDV: Individualism)
3 女性性/男性性(MAS: Masculinity)
4 不確実性の回避(UAI: Uncertainty Avoidance)
5 短期志向/長期志向(LTO: Short vs Long Term Orientation)
6 人生の楽しみ方(IVR: Indulgence vs Restraint)
この6次元が意味するところは、以下の図のようになります。
出典:異文化エキスパート養成講座資料
そして、その数値の意味合いとしては以下のようになります。
出典:異文化エキスパート養成講座資料
人によって表現を変えていることもありますが、以下のとおりとなります。
今回は、この数値がどのように使われて、どういう風に活用されていくのを簡単に紹介していきたいと思います。例えば、日本とタイではどういう風に違うのかという点でお話ししたいと思います。
日本を数値化すると、100点満点で以下のとおりとなります。
ということになります。
なお、この点数は、世界中で行われた集計結果を元に統計的に出した結果の平均点と思って頂きたいと思います。そのため、日本人でも、例えば権力格差がかなり強い人(例えば、上からの命令は絶対に従う人ようにビラミッド階層のような階層を重視する人)もいれば、弱い人(例えば、親子といったところでも平等を重視する人)もいますので、私は違うから、これは間違っていると考えないでください。
次に、タイの数値を見てみると、
ということになります。
では、日本とタイを比べてみると、大きく異なるのは黄色のセルの4つとなります。 権力格差と集団主義/個人主義は相関関係が強いのですが、このことから、年上や目上の方への忠誠心は日本よりも強く、集団で物事を考えることが強いということがわかります。
女性性が強いということからも、弱者を助ける寛容な社会が理想であり、仕事よりも家庭を重視する傾向が強いということになります。また、短期的志向が強いので、貯蓄より消費、仕事の成果がすぐに給与に結びつかないと満足しないというような傾向があります。
では、実際にどういう風に役立つのかというと、仮にタイの会社の社長となった場合、どういう風に現地のタイ人と接することが必要となるのかを考えてみましょう。
十分にタイについての情報があれば良いのですが、そうではない場合、現地で試行錯誤をすることになると思います。しかし、このようなスコアがあれば、まずは平均的なタイ人の傾向が見えてくるので、試行錯誤の範囲を少なくすることができます。
権力格差がやや強いことから、社長としての威厳を日本以上に保つ必要があります。そのため、例えば、社長が従業員の仕事である掃除をしたり、従業員と一緒に食事をする(社長であれば、グレードの高い場所で、より良質な食事をしているはずとの考えと逆)という行動はタイ人から見れば、違和感を感じる傾向があるので注意を要するかもしれないということが分かります。
また、集団主義傾向が強いということからも、例えば、仲間内小グループ(たとえば同じ出身地でグループを作っているなど)の長が会社を退職するときは、そのグループメンバーも一緒に退職して、グループの長についていく傾向が強いのではないかということがわかります。つまり、従業員をまとめ上げるためには、グループの長を抑えることが重要であり、グループ長の面子も大切にしなければならず、人事も能力だけで考えるのではなく、周りとのパワーバランスを考える必要があるということに気が付くと思います。
女性が強いということから、家族になにかあったら、仕事よりも家庭を優先させなければ、不満に繋がるのではないかと推測できます。例えば、「家族が病気になったので、仕事を休ませて欲しい」と要望されたにも拘わらず、「君がいないと仕事が回らないんだ。どうすればいいんだ」ということをいったとすれば、会社は私の家族よりも仕事なのね。そんな理解のない会社では働けないと思う傾向があると考えられます。
また、不確実性の回避は日本人よりも低いということなので、上から言われたことを、失敗しないようにいろいろと調べず、リスクもあまり深く考えずに、まずはやってみようという気持ちが強いという傾向があるかもしれないなということも分かります。そのため、なんでこんなミスをするんだということを日本人としては感じるかもしれません。
短期的志向が強いので、年に2回のボーナスというよりは、例えば新型コロナウイルスの影響で、マスク工場を24時間のフル活動をさせることで忙しくなったのであれば、家庭よりも仕事をとってくれたことに対して、特別ボーナスを翌月とかすぐにあげておく必要があるかなということもわかります。また、短期的に儲かるかもしれないギャンブルが好きな人が多いかもと考えてもよいかと思います。
こういうような状況を考えてみると、社長としてどういうリーダーシップを取るべきなのかということを考えるときには、すべての軸をベースに複数の次元を使って考える必要があります。社長の威厳を保ちつつ(権力主義)、会社の長として、従業員を仕事中心ではなく、家族のような温かみやおもいやりを持って(女性性)、集団をまとめていく(集団主義)。従業員に対しては、仕事の失敗にも寛容(不確実性の回避がやや低め)でしっかりとフォローができ(女性性・集団主義)、社長として、従業員を引っ張っていく(権力主義・集団主義)リーダーが望ましいというのではないかということがわかります。個人的にはタイの前国王は正にその具現者だなと感じています。
このように、国毎の文化が数値化されていることで、なぜタイはこうなんだと現地でカルチャーショックを受けて、悶々と悩みつづけ、試行錯誤を延々と進めるのではなく、現地人はこういうものなのではないかという気持ちを事前に持つことで、性格的に我慢できないというのは残るかもしれませんが、現地経営者や駐在員の精神的ストレス軽減にも繋がっていくと考えられます。
こういう見方ができるようになってくると、このようなスコアがなくても、日本人同士、たとえ夫婦であっても、この人はこういう人なのではないかという仮説検証的な見方ができ、関係性の向上にも繋げることができる可能性がでてきます。これは、文化は12歳までの育った環境に大きな影響を受けるといわれていることから、同じ日本人同士でも、異文化になるということになるのです。ジェネレーションギャップもその一つになるのかもしれません。日本人同士であっても、異文化と付き合うことになるのです。つまり、CQ=多様な文化的背景に効果的に対応し協働する能力といわれる所以です。
ビジネスでいうとイノベーションの源泉の1つが、すでにある商品の掛け合わせといわれておりますが、まさに、人と人とのイノベーションを起こすきっかけになり、今後、人と人の違いを認め合い、理解することで、より良い世の中にするためのベースになっていくものと私は信じています。
本来であれば、文化とはなにか、CQ能力を強化する方法など述べないとといけないところですが、今回はホフステードの⑥次元のモデルの国別スコアに見方の1つを紹介させていただきました。6次元を始め、そのベースとなっている文化の考え方にご興味がある方は、巻末で詳細する参考文献を読んで頂くようお願いします。
参考までに、世界のスコアを文化地図的に表現すると、以下のようになります。青が0 黄色が50 赤が100となり、灰色はデータがないことを示しています。スコア出典:G.ホスステード著 多文化世界より作成
最後にホスステード博士の言葉を伝えて、おしまいにしたいと思います。
人間のサバイバルは、違う考えを持つ人と 協働する力にかかっている。」
ヘールト・ホフステード 1980年
【参考文献】
経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法 宮森 千嘉子 (著), 宮林 隆吉 (著)
https://www.amazon.co.jp//dp/4820726986
多文化世界 — 違いを学び未来への道を探る 原書第3版
G.ホフステード (著),
https://www.amazon.co.jp/dp/4641173893
■松島 大介(まつしま だいすけ)
2012年11月中小企業診断士登録、東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属
株式会社国際協力データサービス 代表取締役
異文化エキスパート養成講座 第1期生
2030SDGsゲーム 公認ファシリテーター
■松島 大介(まつしま だいすけ)
2012年11月中小企業診断士登録、東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属株式会社国際協力データサービス 代表取締役異文化エキスパート養成講座 第1期生2030SDGsゲーム 公認ファシリテーター