グローバル・ウインド「メキシコと自動車産業」(2021年2月)
国際部 土佐林 義孝
2020年は新型コロナウィウルス感染症の影響で海外旅行、海外出張の機会はなくなりました。私は、自動車業界向けに営業をしており、メキシコ向け輸出に関わっています。メキシコでは日系の自動車会社の進出が多いです。なぜメキシコなのか。日本からは、遠く離れていて、あまり情報が入ってこないメキシコについて、メキシコの紹介と合わせて書かせていただきます。
・「メキシコ」について
自動車関係で、メキシコ向けに仕事をしている話をすると、中国やタイではないのかと聞かれます。東アジア、東南アジアの情報は入ってくるのですが、中南米に位置するメキシコについての情報はなかなか入ってこないようです。自動車業界では、トヨタや日産などの完成車メーカーだけでなく、自動車部品メーカーが多数進出しています。まずは、メキシコについて紹介していきます。
●メキシコの位置
メキシコは、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家である。北にアメリカ合衆国と南東にグアテマラ、ベリーズと国境を接し、西は太平洋、東はメキシコ湾とカリブ海に面する。首都はメキシコシティ。メキシコの総人口は約1億3,000万人(2016年時点)で、スペイン語圏においてはもっとも人口の多い国である。米国と国境を接しているため、メキシコから北米への移民が多く、一時期トランプ前大統領が、国境に壁を建設ということで話題になった。
●メキシコの産業
カリブ海沿岸地域を中心にして油田が多く、第二次世界大戦頃より国営石油会社のペメックスを中心とした石油が大きな外貨獲得源になっている。鉱物では銀やオパールの産地としても中世から世界的に有名である。電線に使える銅はグルポ・メヒコが採掘している。ほかにも水産業や観光業、製塩やビールなどが大きな外貨獲得源になっている。20世紀前半より工業化が進んでおり、自動車や製鉄、家電製品の生産などが盛んである。特に1994年1月1日に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効したあとは、その安価な労働力を生かしてアメリカやカナダ向けの自動車や家電製品の生産が増加している。しかし、その反面経済の対米依存度が以前にもまして増えたため、NAFTA加盟国以外との経済連携を進めており、2004年9月17日には日本との間で、関税・非関税障壁の除去・低減や最恵国待遇の付与を含む包括的経済連携「日本・メキシコ経済連携協定」について正式に合意した。
●メキシコの食文化
一般的に辛いことで知られているメキシコ料理は世界的に 人気があり、特に隣国のアメリカではアメリカ風に独自にアレンジされたタコスやブリートがファストフードとして広く普及している。主食はマサと呼ばれる粉を練ってのばして焼いた薄いパンのようなもので、トルティーヤと呼ばれる。北部では小麦粉、中部・南部ではトウモロコシの粉を使ったものが主流である。基本的には豆やトウモロコシ、鳥肉を原材料に使ったメニューが主体になっており、ほかにも米や魚類、牛肉なども使われることが多く、一見単純に見えて繊細な味がその人気の理由とされている。
近年はカップラーメンがメキシコ国内で広く普及しており、中でも東洋水産の「マルちゃん」ブランドが市場シェアの約85パーセントを占めるまでに成長している。パッケージは下記のようになっている。
左がエビ・ライム、右がエビ・チリ味。ピンクを基調に、緑や黄色とメキシコのイメージに合ったカラフルな配色になっている。
メキシコは蒸留酒であるテキーラの一大産地として有名であるが、それはハリスコ州グアダラハラ市近郊のテキーラという地域に1700年代から作られている地酒であり、国民にもっとも愛される酒となっており、近年は海外にも愛好家を増やしている。また、ビールの特産地としても知られており、コロナビールやXX(ドス・エキス)などの著名なブランドが世界中に輸出されている。メキシコでは、毎食時、テキーラを飲むが、日本で飲むよりも酔いは少ない。
私自身メキシコに出張し、トルティーヤやテキーラ、コロナビールにトライしましたが、メキシコでおすすめなのが、現地の言葉では「アラチェラ」というハラミステーキです。特製のタレに漬け込んでおり、非常に柔らかくおいしくて、メキシコ出張時は、2日に1度はこのハラミステーキを食べていました。
・メキシコの自動車産業
1994年のNAFTA発効以降、メキシコの自動車産業は大きく成長を遂げ、メキシコ最大の産業となる。巨大な北米自由市場の一員となったことで、世界中の自動車メーカーがメキシコに進出し、生産拠点を構えることになった。世界最大のマーケットであるアメリカに隣接し、かつ中南米にアクセスしやすいという地理的に有利な条件や、40カ国以上の国々との自由貿易協定を締結していること、安く質の高い労働力で生産ができること、政治・経済ともに比較的安定していることなどを背景に、外資の参入が進み自動車産業は飛躍的に発展。米国が販売の市場と、新商品開発拠点となり、メキシコで自動車を製造するという水平分業が行われています。家電などでは、日本が販売市場で新商品開発、中国が生産拠点という構図と似ています。メキシコは北米向けの生産拠点誘致のため、マキラドーラ制度(1965年に制定された、製品を輸出する場合、当該製品を製造する際に用いた原材料・部品、機械などを無関税で輸入できる保税加工制度)を導入してきました。
メキシコにおいて乗用車の生産を行っている企業はGM、フォード、クライスラー、フォルクスワーゲン、アウディ、日産自動車、本田技研工業、トヨタ自動車、マツダであり、日系自動車産業の対メキシコ直接投資についても、2016年までは自動車部品メーカーおよび関連産業のメキシコ進出を含め非常に盛んになっていた。
JETROによると、自動車生産上位国の生産台数推移(全体、日系)で、実はメキシコは上位を占めている。(以下の「世界の自動車生産上位国の生産台数推移」参照)
出典:JETRO「依然として進出余地が大きいメキシコの自動車部品産業」より
日産自動車は2017年には年間82万台を生産しており、24.2%のシェアを占めるメキシコ最大の自動車メーカーとなっていましたが、2018年には日産が76万台に減少し、2019年度は67万台まで減少。2018年にGMが83万台となったため、第2位となっています。日産に比べると進出が遅かった本田技研工業、トヨタ自動車も生産台数を伸ばしており、2014年には、マツダもメキシコにおいて生産を開始しています。
メキシコの自動車生産台数 (輸出用の生産台数を含む)
出典:自動車産業ポータルMARKLINES
・メキシコ人と一緒に仕事をしてみて
メキシコ人にどのようなイメージをお持ちですか。明るくラテン系で、歌や踊りが好きな国民性をイメージするかと思います。もちろん、そのようなイメージは、週末の姿で、自動車産業に従事するメキシコ人は、非常にまじめで、よくメモをとり、よく質問します。日本人以上に、上司の意向に従う傾向があるとも感じています。仕事は仕事、私生活は私生活という割り切りがしっかりしていて、過度に真面目過ぎないメキシコの人たちを、私は好きですね。現にメキシコで駐在員をした方は、メキシコの国民性にひかれて、メキシコで暮らしたいというコメントも耳にします。仕事でしか関りがなかったのですが、観光でもメキシコに行ってみたいと思います。
■土佐林 義孝(とさばやし よしたか)
1981年生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業。機械の総合商社に営業職として入社。OEM製品の開発輸入、ブランド製品の海外市場開拓輸出取引、自動車部品/リチウムイオン電池向け生産ライン用の設備新規開拓を担当。2018年中小企業診断士試験合格、2019年5月登録の企業内診断士。東京協会中央支部所属。