グローバル・ウインド

中央支部・国際部 安井哲雄

3. ウズベキスタン  (前編より続く)

(1)ウズベキスタンと日本
 第2次世界大戦の終わりに、ソ連軍によって多数の日本人捕虜がシベリアに抑留されました。その一部はシベリアから中央アジアに送られ抑留生活を送りました。ウズベキスタンもその一つです。
 ウズベキスタンの首都タシケントにナヴォイ・オペラ・バレエ劇場があります。この劇場はタシケントに抑留された日本人捕虜の強制労働によって造られた建物の一つです。1996年4月にタシケントで大地震が発生しタシケントの市街地は崩壊しましたが、「日本人が建てたナヴォイ・オペラ・バレエ劇場は、地震のときにはびくともしなかった」という誉め言葉が伝わっているそうです。また、1996年にカリモフ大統領が、建設に関わった日本人を称えるプレートを劇場に設置しました。その際の指示は「彼らは恩人だ、間違っても『捕虜』と書くな」というものでした(出典:ウィキペディア)。
このプレートには、次の言葉が銘記されています。
 「1945年から1946年にかけて極東から強制移送された数百名の日本国民が、このアリシェル・ナヴォイ名称劇場の建設に参加し、その完成に貢献した。」
(写真「日本人捕虜記念プレート」参照)

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ナヴォイ・オペラ・バレエ劇場(正面 2019年5月撮影)

 

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日本人捕虜記念プレート  (2019年5月撮影)

 
 日本人捕虜の抑留生活では、冬の厳しい寒さ、食料・栄養の不足と過重強制労働に伴い、多数の抑留者が体力の消耗と病気で失命しました。タシケント市の南西にあるムスリム墓地の一角に、79名の日本人捕虜が埋葬されている墓地があります。簡素ですが、静寂した雰囲気がたたずみ、墓参された日本人が捧げたと思われる飲み物や供え物がありました。今回で三度目の墓地訪問でしたが、ガイドなしで行ったため広大な墓地で道に迷い、墓地で会った現地の方に道を聞き、ようやく目指す日本人墓地に辿り着きました。訪れる度に、70年前の捕虜の方のことが偲ばれます。 皆さんがタシケントを訪問する時には、ナヴォイ劇場と日本人抑留者墓地に寄ってみてはいかがでしょうか。

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モスレム墓地への入口(2019年5月撮影)

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入口近辺の花屋(2019年5月撮影)

 
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日本人抑留者の墓地(2019年5月撮影)

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日本人抑留者の墓地(2019年5月撮影)

 

(2) 民族の多様性と複雑な歴史
 ウズベキスタンでは様々な民族や人種が混ざり合っています。主要民族のウズベク人が全人口の83.8%(2018年)を占め、その他はタジク人、カザフ人、ロシア人、カラカルパク人、タタール人などの少数民族が住んでいます。ソ連時代にはロシア人(人口の12.5%、1970年)やウクライナ人が住んでいましたが、ウズベキスタンが独立した後に急減しています。
 帝政ロシア~旧ソ連ではユダヤ人が多く住んでいましたが、反ユダヤ主義が広がり、ユダヤ人に対する差別や迫害が起きました。1989年時点のソ連邦ウズベキスタン共和国には94,900人のユダヤ人が居住していましたが、ソ連解体でウズベキスタンが独立した後の2007年には5,000人以下にまで減少しています。その原因は、ブハラ・ユダヤ人の多くがウズベキスタン独立の際にイスラエルやアメリカ合衆国へと出国・移住したためとのことです。ウズベキスタンのユダヤ人は二つの異なるコミュニティがあります。古くからウズベキスタンに居住し信仰心の高いブハラ・ユダヤ人のコミュニティと、積極的で現代的なドイツ系ユダヤ人とその子孫のコミュニティです。現在ウズベキスタンに居住しているユダヤ人の大部分はドイツ系ユダヤ人の子孫といわれます。
 単一民族社会の日本では少子高齢化が進み、今後、外国人の流入の増加は必然と考えられますが、現実には様々な課題を抱えています。これからの日本では社会の多様性を尊重し外国出身者との共生社会づくりに正面から取組むことが大変重要と思います。

(3) ウズベキスタンと観光
i) 主な観光地
 ウズベキスタンは中央アジアの中心部にあり、昔のシルクロードの要衝として、歴史、文化と世界遺産、エキゾチックなロマンの香りに溢れ、世界の観光客の注目を浴びています。  
 主な観光地は、タシケント、サマルカンド、ブハラ、ヒヴァ、アラル海(ヌクス)などです。残念ながら、私はアラル海に行ったことがありません。
ウズベキスタン地図:https://www.nationsonline.org/oneworld/map/uzbekistan-political-map.htm

Fig1
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Fig3
Fig4
Fig5

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(ご参考)  ウズベキスタン観光動画 (YouTube)  
— アメリカ人旅行ユーチューバー兄弟が案内するウズベキスタン
タシケント    https://www.youtube.com/watch?v=xiJVQZmLaHE
サマルカンド   https://www.youtube.com/watch?v=R7eEylfmDnk&t=65s
ブハラ      https://www.youtube.com/watch?v=qWnpzkhQubc&t=736s
ヒヴァ      https://www.youtube.com/watch?v=pn8mVsDceEw
アラル海(消えゆく塩湖) https://www.youtube.com/watch?v=hCeprlqbneE

ii) ウズベキスタンのインバウンド観光事情
 ウズベキスタンを訪問する外国人観光客は、2016年207万人、2017年269万人(前年比32.7%増)、2018年534万人(前年比99%増)と急増しています。年間では、8月が最多で584,434人、2月が最小で264,936人、3月~12月の間は毎月40万人を超えます。 
インバウンド観光客の国は、中央アジアの国が86.1%を占め、他のCIS国7.70%、その他6.20%であり、CIS圏が圧倒的に多いです。
 ウズベキスタン来訪の目的は、①知人・親戚に会うため:88.1%と大半を占めます。その他は、②休暇・余暇・休憩:8.6%、③ビジネス・専門的な目的:1.1%、④医療・健康改善:1.0%、⑤ショッピング:1.0%、 ⑥教育・トレーニング:0.2%です。
 宿泊日数では、1~9泊が79%と最多、次に10~39日が19.8%、40~99日が0.9%、100日以上は0.3%に過ぎません。訪問地は、Tashkent 58%、Samarkand 31%、Bukhara 25.6%、Khiva 13.3%、Termez 6.5%、Nukus 4.5%となっています。
 ウズベキスタンでは、2019年1月5日のウズベキスタン大統領令5611「観光発展促進における補助的手段」にて、2025年までの観光発展構想が承認されています。
 その内容は、投資、観光インフラの発展、交通サービスの改善、観光各セグメントを志向した観光商品の多様化、観光マーケッティングの強化、観光各分野の専門家の育成と質の向上となっています。具体的な2025年の目標は下表のとおりです。
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iii) ウズベキスタン観光IT スタートアップ
- UZBEKISTAN PASS – National tourist service(ウズベキスタン初のSmart travel)

 UZBEKISTAN PASSは2018年から、一つのインターネットポータルサイトを通じて、外国人旅行客と国内旅行客に対する双方向のオンラインサービスを提供しているスタートアップ企業です。ウズベキスタンではこの分野の最初で、且つ唯一のサービス提供者です。
 私は、2019年5月にタシケント市のUZBEKISTAN PASS 社を訪問し、社長にインタビュー調査をしました。社長はウズベキスタン政府経済省の官僚でしたが、観光産業の発展のためにITを活用した観光関連サービスの提供を考え、一念発起してUZBEKISTAN PASSを立ち上げました。事業開始に際して大統領から、こうした観光客へのサービスに支持を得たとのことです。同社の20人程度のスタッフは観光産業のマーケティング担当とITエンジニアで構成されており、若くて意気軒高な雰囲気でした。
 提供サービスの内容は、ウズベキスタンのガイド情報、ホテル・レストラン等の施設の検索、電子地図と移動支援のナビゲーター、旅行中の商品やサービスの割引サービス、オンラインのホテル予約・パッケージツアーの購入・ガイドや交通の発注、飛行機や鉄道の切符購入、3D Securityによる銀行インターフェースの翻訳、特定条件下での払い戻し保証、SOSボタンによる旅行者の安全保証、KAPITALBANK銀行ATMサービスの現金引き出し等であり、スマートフォンに無料のUZ PASS Mobileアプリをダウンロードすれば利用できます。情報は11か国語(ロシア語、ウズベク語、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、トルコ語、中国語、韓国語、日本語)に対応しています。
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 また、トラベルキット(紙媒体の旅行ガイド・情報冊子)を発行、無料配布しています。
更に、関係先と提携してSim cardや旅行保険を販売しています。将来的には、博物館やイベントの共通e-チケット、長距離バス運賃チケットのオンライン販売、UZ PASSサービスを利用した観光客の到着時登録の可能性があります。 (WWW.UZPASS.COM)
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               無料配布のUZBEKISTAN PASS Travel Kit

 タシケントンではウーバーのようなスマートフォン・携帯によるタクシーの予約、送迎、スマホでの料金決済のサービスがあり、便利です。
 ITに関連して思い出しましたが、2013年にウズベキスタンの会議に招聘された折、会議関連プログラムの一環で、タシケント市内の高校を訪問しました。その学校ではITと英語を重点的に教育しており、若い学生がグループで教育の成果を英語のパワーポイントを使ってプレゼンしていました。プレゼンのコンテンツも英語も良かったと記憶しています。尚、その学校は韓国資本による投資・運営で、案内してくれた校長は韓国系の女性でした。この例のように、若い時からのIT教育が実を結んでおり、IT関連のサービスのスタートアップが益々発展、成長していくことが期待されます。

(4) 一帯一路

 一帯一路構想(One Belt, One Road Initiative)は、2013年に中国の習近平主席により提唱されたシルクロードの広域経済圏構想であり、中国の長期国家戦略です。「一帯」は、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く「シルクロード経済ベルト」を意味し、「一路」は中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀の海上シルクロード」を指します。
 一帯一路構想では、一帯一路の新興国におけるインフラ開発投資(道路、港、鉄道、電力、電力・電気通信、パイプライン等)を進め、中国企業の海外進出・投資と貿易・サプライチェーンを促進しています。そのために、中国が豊富に持つ外貨資金残高を使って、新興国に開発資金を融資してきました。その一方で、一帯一路構想は、中国の地政学的・軍事的な勢力圏を拡大させて既存の国際秩序に挑戦するための手段であるという見方が強まっています。当初、中国の開発援助は財務力の乏しい新興国から歓迎されましたが、マレーシア、パキスタン、モルディブ、スリランカなどで過剰債務の返済不能となり、中国の覇権・拡張への警戒や債務見直しなど摩擦が起きています。
中国の援助の特徴として、被援助国にメリットとデメリットがあるとされています。
〈メリット〉 「①援助・融資のための調査や審査が迅速に行われ、被援助国には都合が良い。 ②融資は中国企業が開発を行い、短期間で建設工事を行う。建設工事費は価格競争力がある。その反面で、
〈デメリット・問題〉 ③高金利の融資、④建設工事の遅延の発生、⑤工事の事故の発生、⑥過剰債務の発生、⑦汚職事件の発生
更に、一帯一路イニシアティブは経済圏のみならず、中国の通貨・元の流通拡大、ハイテクIT産業の進出による技術覇権や、軍事を含む勢力圏の拡大を目標とした総合戦略と見做されます。
 今日のウズベキスタンと中国の関係は、鉄道・交通の連結、中国からの投資や通商が増加し、ウズベキスタンと中国の間の貿易では輸出、輸入ともに中国がトップの重要な貿易相手国で、両国の経済関係は深化しています。しかし、中国の一帯一路がウズベキスタンにもたらす長期的な影響については、今後の動向を観察する必要があります。
 今後、日本と中央アジアや中国との関わりを考えるうえで、一帯一路の本質と内容を観察し、見極めていくことが肝要と思います。
以下のURLのシンガポールメディアの動画報道は、わかりやすく参考になります。
How will China’s Belt and Road initiative impact Uzbekistan? | The New Silk Road | Full Episode 2019/10/3 Mediacorp (Singapore)
https://www.youtube.com/watch?v=2YFdN7cw_cU

 次回のグローバルウィンドでは、「中央アジアと一帯一路 その3 キルギス」(2020年10月)をご紹介いたします。

■ 安井哲雄 (やすいてつお)
中小企業診断士、東京都中小企業診断士協会・中央支部会員。中央支部国際部アドバイザー。 
平成11年4月初期登録。株式会社商船三井を定年退職後2010年に独立し、グローカル経営事務所主幸。株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ シニアコンサルタント。