グローバル・ウインド「インドネシアで企業経営を支援してみる!」(2020年04月)
グローバル・ウインド
中央支部 国際部 有吉 啓介
◇答えられる診断士になろう!今すぐに!
今朝、顧問先企業の社長から電話が入った、「インドネシアに進出した企業の経営を支援してくれないか?!」という内容だった。どう答えるだろうか。
「中小企業診断士たるや、即答すべき!」と諸先輩方から教わった通りに、「YES」と答えるだろうか? わたしなら、もちろん答えは「YES!」だ。
何が出来れば「YES !」と答えられるのだろう?
もちろん、インドネシアをよく知っていれば、ふたつ返事で答えられる。インドネシアで企業を支援する、ということは正確に言えば、インドネシアにいるヒトたちを相手に仕事をするということになる。中小企業診断士としての十分な技量を見込んでという前提はある。だから考慮するポイントは、自分はインドネシアにいるヒトたちが、どんなヒトたちであるかを分かっているだろうか、ということが重要になる。
「YES!」と即答できる中小企業診断士になるために、インドネシアにいるヒトたちを理解するヒントとなる情報、つまり現場で、「なぜ、そう考え行動する(しない)の!?」、と言いたくなる前に、状況が理解できるようになるために、インドネシアに暮らすヒトたちの顕著な特徴として、良い点を3つ、ちょっと残念な点を1つを限られた紙面でお伝えしたい。
1.生まれた時からダイバシティー!
インドネシアという国を、まず知ることが非常に重要ということは、すでに分っている。紙面の関係がありJETROのホームページにあった2018年概略(下図)を見ておいてほしい。
(出典:JETROホームページhttps://www.jetro.go.jp/ext_images/world/gtir/2019/09.pdf)
◇人口が多い
最初に気付くのは、人口が多い。これを市場規模と見ると日本の約2倍ある。また、国度が広い。南北の幅が米国の東海岸から西海岸までと、ほぼ同じ長さがある。さらに経済成長率も高い。これらを見ただけでも、進出したい気になる経営者がいてもおかしくない。
では、インドネシアをアジアの近隣国と比べて、どんな経済環境にあるか見てみよう。
これもJETROのHPから「各国・地域データ比較(https://www.jetro.go.jp/world/search/compare.html)」でタイ、マレーシア、ベトナムを加えた4カ国並べた下図を見れば、一目で分かる。インドネシアは人口が多いので、一人当たりの数字を見ると、ほとんどの項目で他国より劣っている。これがある意味で根源的な問題になっている。
◇教育水準の向上が課題
実は、他国に比べて国民所得が低い。結果的に、子供の教育にお金を回せないという状況を作っている。国の大きな課題は教育水準を上げることである。
首都ジャカルタの街を歩けば分かる。仕事の無いヒトたち、明らかに一所懸命に働いてないヒトたちが沢山いて、一日中ブラブラしている。後述するが、インドネシアの風土面が絡んでいるという論もある。
世界銀行の統計に拠れば、インドネシアの教育への政府支出は対GDP比で約3.6%。世界平均4.6%、近隣のベトナム4.2% 、マレーシア4.5%よりも低い。
(*出典:世界銀行「Government expenditure on education, total (% of GDP),2018」)
採用で優秀なヒトを選ぶのは難しい。人選びは根気がいる。教育を受けただけではなく、真面目である、柔軟性がある、理解力が高い等、の評価項目を十分に満たすヒトが来るまで諦めてはいけない。私はジャカルタにある100人強の企業で毎週面接をした。毎週である。
◇建国5原則の背景に「ダイバシティー」あり
話を元に戻そう。ここに暮らすヒトたちを知るには、一つには宗教の面がある。最大の特徴は世界で一番多くイスラム教徒がいる。総人口の9割弱、2億3千万人と言われる。しかし、国はイスラム教を国教にはしてはいない。1945年にインドネシア共和国として、独立した際に、建国5原則(1.唯一神信仰、2人道主義、3国家統一、4民主主義、5社会的公正)を定めて、少数派のヒトたちへの配慮を盛り込んでいる。
この国は多民族国家で約700の民族から成り、建国の志には「ダイバシティー」を盛り込んでいるので、国民は違いに対する耐性が高い(ように見える)。生まれた時から「ダイバシティー」の中で生きている。日本人は生まれた時から真逆な環境で生きてきたヒトが多い。ここではパラダイム・シフトではなく、パラダイム・チェンジが必要となる。
2.寛容である
お分かりの通り、宗教の違い以上に、民族の違いから文化や言語においても大きな違いが一国の中にある。建国5原則にある国家統一、社会的公正、に沿って、お互いが寛容になることが大切だと、理解して行動する努力をしている。それが国民性を形づくっている。
人柄については、そのヒトが育った気候と風土を聞けば分かると言われる。
この国は熱帯性気候に属し、大都市のジャカルタの真ん中にもジャングルがある。都心から車で15~20分も走れば、森やジャングルで一杯の風景を目にする。街中にも野生のバナナやマンゴなどの果実が成っていて、都市に住む貧しいヒトたちでさえ、飢えを感じることはない。
この気候と風土が、この国のヒトたちを陽気で、明るく、のんびり、とした性質にさせている。目を合せて、こちらが笑みを浮べると、ニッコリ笑顔が返ってくる。それを見ると、「オー!なんといいヒトたちなんだ」と気付く。つき合ってみると確かに、ここのヒトたちは楽観的で、寛容な考え方を持っていることが解る。
◇喜捨(サガット)
イスラムの教えにより、巡礼期の最後の日に犠牲祭がある。これは神に牛やヤギの生贄を捧げて祝う祭りである。街のモスクや広場で祈りと共に解体され、その肉が貧しい人々に配られる。これを「喜捨」と呼び。このイスラムの教えは慈善であり、功徳として見なされる。与える側も受け取る側も、当然として行われる慣習で供物を与え、受け取るのである。
しかし、これが日常、例えば仕事の場に入ってくるとややこしい。富める者が与える事と経営者と労働者の間では異なる関係である。経営として判断する軸は、絶対にぶらしてはいけない。確りと切り分けて判断することを教えることも経営支援の一つとである。
3.基本的に純粋で真面目である
この国には大都市が少ない。首都ジャカルタが34百万人の大都市で、国民の13%程が暮らしているが、この国は多くの島に分かれ、多くのヒトたちは、中小都市や村々に散らばって暮らしている。よって、都市から離れた所に暮らすヒトたちが多いことから、純粋で真面目なヒトたちが多い。人口が適度に分散され、また所得が低いので、家族は大人数である。さらに親族間の関係も濃く、地域ごとに相互援助関係が構築されている。昔の日本もそうであったような大家族の暮らしを地方で垣間見ることができる。
他方、親族内において、誰かが面倒をみてくれる環境が成り立ち易く、面倒を見て貰える側は、家事等の生活活動を適当に済ませるヒトたちもいる。子供の頃から諸事何事も無く育ったヒトもいて、都会の社会で厳しくされて、純粋なマシュマロのような心が傷ついてしまう場合がある。大家族の中でヒトとの付き合いが大切であることを理解して、律儀なヒトは多いと感じる。
企業では、採用や評価活動が忙しているなかで、人材育成やEQ教育も継続して行うことが大変重要となる。ヒト対ヒトの対応をうまく行いながら、関係性を高めることで、能力を引き出したり、離職率を下げたりすることができる。
社員が増えてくると、ある時点からヒトたちというマスの管理が必要になり、宗教への対応として礼拝の時間を就業中に置くなどの処遇が必要である。お互いに心を平安にして、効率的に仕事ができる。
4.計画を立てる・計画通りに行うことは苦手である
経営では重要な能力である、リスクを捉えて、対処を深く考えること。これを身に付けているヒトは少ない。日本や西欧に暮らすと、四季を過ごす中に寒い季節があるので、その時期に備えて毎年怠りなく、先を見越して計画を立て、準備する事に長ける様になる。一方、この国の気候は、雨季が11~2月にあるが、屋外で寝ていても死ぬことはない位に年中平均気温が高い。飢える事もなく、計画を立てて行動することが苦手になる。モノゴトが流れ始めて、または切羽詰まってから、緩く行動するヒトが多いのである。スポーツでもそうだが、日常の練習で出来ていないことは、本番でも出来ないのである。
◇インフラのデザインも苦手
街にでると、社会インフラの整備に為政者のやり方にも同様のことを感じる。例えば、交通システムは車を優先し、ヒトを後回しにして作ったことが表れている。多くの横断歩道には信号がない。それ以上に広い道路の交差点には横断歩道がないところも大変多い。
そんな日常環境で暮らしていると、リスク対処への気付きも少なくなる。「気付き」という感性に基づく行動力を育てることも大変重要である。
◇正確でなくも、イイじゃないか!?
この国に大小で17千の島があると言う。ひところは13千の島がある、とも言われた。誰もホントの島の数を知らないかも知れないと言われる。この背景には、この国のヒトたちは島を数えることに意義があるとは思っていないと感じる。国土がどこ迄あるのかを知る、つまり国境を決めることことは大変に重要だ。しかし、国境に関係のない内海にある島々を数える事には興味が無いようだ。内部にあることをはっきりさせること、内側のお互いの課題や問題をクリアにすることが、そこから問題を生んだり、解決を長引かせたりすることを経験から学んできたことが理由かもと思ってしまう。
◆まとめ
自分を認めてもらう為には、他者も認めること、ひいては、他者との違いを容認しながら、互いに前進していくことが、「ダイバシティー」であると、インドネシアに暮らすヒトたちは、歴史を経て、そんな考えを日常的なものとして、さらに捉え直した考え方を根付かせてきたと思う。
前進しながらも変わっていくインドネシア。そこに暮らすヒトたちと、うまく仕事をやっていけるよう、ここに記したセグメンテーション軸を背景とした特徴を理解され、企業支援を行って戴ければと思う。
だから、このような依頼が来たら即答してほしい。大変楽しみだと申し添えて。
■有吉 啓介(ありよし けいすけ)
神戸市出身、横国大経済学部卒。総合商社に入社。全社IT部へ配属を経て英国ロンドンにある統括会社へ欧州中東アフリカ域 IT統括として赴任。帰国後、IT関連の営業部へ移り、後にジャカルタにあるIT企業へ経営者として赴任。現在は営業部でDXやRPA推進に携わる。東京協会中央支部国際部・ビジネス創造部。2019年11月診断士登録。