グローバル・ウインド

中央支部・国際部 横山 茂生

筆者は、2016年3月に中小企業診断士登録後、2017年に国際部に入部しました。企業内診断士ですが、週末や年休取得ベースでコンサルタント活動を行っています。一般社団法人マネジメントプログレス協会(以下、MPAという。)なる組織に参加し、ベトナムでの製造業向けのKAIZEN・Coaching活動に参画しています。今回は2018年5月にハイフォンで参加した食品加工業Viet Truong社(非日系現地企業)のお話をご紹介します。

MPAの活動

筆者の所属するMPAは勤務先鉄鋼メーカーの本社原料部門勤務時代の先輩コンサルタントが設立した組織です。産業界や公共部門で長年勤務した業務経験を通じて身に着けた技術士等の各自の専門分野での技術やノウハウを利用して、世界の成長著しい国々の若い人々が自律的に活躍して成長できるように支援することを目指しています。
具体的な中核分野は、製造業及びサービス業における生産・品質管理技術とマネジメントの実践的改善・向上に関するノウハウの提供(5S及びKAIZEN等の研修とコンサルティング)としています。
今後、MPAはASEAN諸国、ユーラシア大陸と活動拠点を広げる予定ですが、設立後間もない現在はベトナムで活動を開始しています。ベトナムでのパートナーはIMT(Institute of Management and Technology)であり、その幹部メンバーがAOTS(一般財団法人海外産業人財育成協会=開発途上国の産業人材研修を行う日本の機関)で研修を受けたベトナム国の同窓会組織メンバーである関係にあります。

IMTのクライアント企業の一つViet Truong 社

筆者は2018年5月に1週間、MPAの2名の先輩コンサルタントと共に、ベトナム国ハイフォンにあるViet Truong社の魚肉すり身加工と鶏肉加工を事業とする食品加工業の2工場の診断に参画しました。

【同社の魚肉すり身加工工場のゲストハウス玄関】
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日本でも蒲鉾、はんぺん等の練りモノ商品が、おせち料理を始め多くの日本料理に利用されており、包装紙裏面の原材料名として「魚肉(たら、ぐち、たい)」等の記載があります。
日本のすり身輸入のうちベトナムは第5位にあり、Viet Truong社説明では日本向けには日本水産や紀文向けに輸出しているとのことでした。
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Viet Truongのすり身加工工場の診断

この工場の製造工程は下表の通りであり、新しい設備と安価で豊富な労働力によって最終製品SURIMIと副産物Fish Mealを製造し、SURIMIはビニル袋に包装、秤量後に冷凍保存され、大型トラックで出荷します。同社は(非日系)現地民間企業で日本人社員はいません。一連の製造工程を見学し、適宜、責任者に英語を介しての質疑応答で必要な確認を行い、見学終了後に会議室で英語・越語通訳を介して工場長、製造課長らとのインタビューで更に深堀りすべき論点の確認を進めました。
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【7つの無駄教材】          【ディスカッション風景】
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「生産管理」で登場する「7つの無駄」の観点から各工程の問題点、原因、対策、効果を纏める方式としました。以下の写真と纏め(例)は「Cut and Separate」工程に関するものです。

【魚の頭部や内臓を作業員がナイフで切断し背骨付き切り身を分別する工程写真】
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【同工程の問題点、原因、対策、効果纏め】
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例えばこの「Cut and Separate」工程について、我々は現状の作業台での人海戦術的な作業実態に対して、コンベア付きの作業台の設備導入を提案しました。

【導入設備イメージ図】
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感想と纏め

今回、筆者がMPAのKAIZENコンサルに参画したViet Truong社は、親族オーナー経営(長男が社長、次男が副社長、母親が会長)で、魚肉すり身加工と鶏肉加工の2本柱を事業とし、安価で豊富な労働力を活用しつつ、主要生産設備にも積極的に投資をしてきている伸び盛りの企業という印象でした。SURIMI工場は、原料魚の仕入れに有利な川沿いに立地(また鶏肉加工工場は中国からのトレーラー搬入・搬出に有利なハイフォン市内工業団地に立地)しており、従業員の確保がしやすく、同社経営陣のIMTとの人的な緊密度もあり、また見学訪問者受け入れも活発であり、いい意味でオーナーのガバナンスは効いている企業であると感じました。一方、工程内で発生する価値を産まない作業や不要な仕掛品発生が見受けられ生産性改善の余地は、まだあり、経営者がそれを現場管理者と十分には対話が出来ていないことに気づきました。

今回のKAIZEN診断では、前述の工程の他にも以下の点を発見し、その改善策の提示も行いました。
1.原料魚の選別(分別)を前工程で厳密に行えば、後工程(Separator)での黒い身を選り分ける手作業が省略可能になる。
2.Separatorから排出された骨皮尾が飛び出てConveyerに入らず、それを一人専従でConveyerに投入する無駄があり、設備改善で解決できる。
3.液状になった製品の「あく」取りを人手で行っており、装置の導入で作業レスが実現可能となる。

2019年度、筆者は上述のMPAの先輩コンサルタントら数名と共にSkype会議で生産管理に関する英語教材の作成に参画しました。海外のクライアントへのコンサルティング実践で使えるマテリアル製作の過程で得たノウハウを今後の活動に活かして参りたいと思います。また、橋梁・鋼構造製造子会社への在勤中に、ベトナムは、同国の国営鋼板加工企業への出資検討の業務で数回、出張した経験もあり、コーヒーや食べ物も美味しく、コンサルタントとしても関わりが深くなっていくものと期待しています。

【朝食後ハイフォン市内コーヒー店で】
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■横山茂生(よこやま しげお)
1980年一橋大学商学部卒業後、新日本製鐵(株)~日鉄エンジニアリング㈱勤務。入社後通産省と経団連が設立した貿易大学に留学。一貫して原料・資機材購買、作業外注契約、工事下請負契約を担当。国交省発注工事の元請として羽田空港再拡張プロジェクト班でD滑走路島桟橋部を構成する鋼製ジャケット製造工場のアドミ担当、橋梁・海洋構造物製造子会社で調達部長を務めた後、エンジ本体の調達企画部に戻り、購買契約関連の法令・規程遵守、海外ベンダー(越、印、中国、尼、比)倒産時の各国倒産法制対応マニュアルの作成・維持管理を担当中。企業内診断士。2016年3月中小企業診断士登録。