Global Wind (グローバル・ウインド)

中央支部・国際部 田島 悟

1 はじめに
01 2012年2月から2019年1月まで、JICA専門家としてガーナでの中小零細製造業のカイゼン活動に従事して、最近すべてのプロジェクトが終了しました。
 活動が終了した機会に、このプロジェクトの総括をしたいと思います。ガーナは右の図にあるようにアフリカのやや西よりの海岸沿いにあります。

2 ガーナの特徴
① 安全な国
02ガーナはアフリカの中ではかなり安全な国です。昼間日本人が1人で街中を歩いてもほとんど危険は感じません。またキリスト教徒とイスラム教徒が仲良く共存していることも特徴で、宗教が原因のテロ行為は全くありません。
黄熱病の研究のためにガーナの首都のアクラに住み、自らが黄熱病にかかってガーナで亡くなった野口英世はガーナ人であれば誰でも知っています。右の写真はガーナの首都のアクラにある野口英世公園にある野口英世の銅像です。

② ガーナとチョコレート
日本人であればガーナと聞くとまずチョコレートを思い出します。これは日本がカカオ豆の約75%をガーナから輸入しているためです。そのため1964年にロッテが発売した「ガーナチョコレート」はメジャーなブランド名になっています。しかし実際は、ガーナでのチョコレートの生産は微々たるものです。

③ 親日的な国
03ガーナ人は日本人に対しては極めて親日的です。レベルが高い日本車などのハイテク製品を開発・生産できる優秀な国民という印象があるからかもしれません。ガーナでは日本人はホワイトピープル(白人)と呼ばれます。アフリカ人から見ると、欧米人もアジア人も肌が白いという点では同じ分類になるのだと思います。子供たちは日本人が珍しいらしく、子供の写真を撮ってあげると大喜びします。右の写真はその1枚です。

3 第1フェイズの活動
 案件名:「ガーナ国小零細企業向けBDS強化による品質・生産性向上プロジェクト」
 実施期間:2012年2月~2015年3月
 このプロジェクトは、ガーナの中小零細企業に対して、工場カイゼン専門家3名が、ガーナ人経営指導員(公務員で中小企業の経営指導をする専門家)と一緒に2カ月間でそれぞれ3社の企業に対して企業診断と実際の工場カイゼンを行い品質と生産性を高める活動です。ガーナ人の工場カイゼン人材を育成することに重点を置いています。企業診断は、SWOT分析や助言の提示などの点で中小企業診断士が実務補習で行う企業診断に近く、診断士としての知識と経験をフルに活用できます。
その後の実際の工場カイゼンでは、ガーナ人にカイゼンノウハウを教えることと、品質や生産性の向上を数値で示すことが重視されました。

*実際のカイゼン事例
① 薬草ドリンク企業の事例

カイゼン前:膨大な中間仕掛
カイゼン前:膨大な中間仕掛
カイゼン前は上の写真のように数名の作業者がビンに入った薬草ドリンクを個装箱に入れ、100個ずつ大きな段ボール箱に入れていました。標準作業時間もなく1日の標準生産個数も決まっていませんでした。個装箱は事前に100個以上組立てられていて、典型的な在庫のムダが発生していました。

カイゼンの実施:
 個々の作業の実際の時間を測定した結果、1人の作業者がすべての作業行うセル生産方式がベストな生産方式であることが判明しました。そのため、下の写真のようなセル生産用の作業台を製作しました。

カイゼン後:セル生産の作業台
カイゼン後:セル生産の作業台
また、標準作業時間を決め、タイムスタディーの結果から100個入りの大きな段ボール箱1つを1時間で作るように決めました。
カイゼン前は1人1人の作業量が決まっていなかったので、プロダクションマネージャが外出した場合に作業者同士がおしゃべりをしてしまうことがありましたが、カイゼン後は常に仕事をし続ける習慣ができたため、生産性が3倍以上に向上しました。

② 飲料水(ビニール袋入り)の製造・販売会社でのQCサークル(小集団活動)の事例
ビニール袋入りの飲料水製造会社では、水を袋に入れる時やその後の工場内搬送の時に袋に小さな穴があき、不良品になることが多く不良率は約10%でした。

QCサークル活動
QCサークル活動
特性要因図の演習
特性要因図の演習
そこで、全社員に対して特性要因図を中心としたQC7つ道具の研修を実施した後に、QCサークル活動を実施しました。

カイゼンの実施:
QCサークル活動の中では以下のことを実施しました。
① 機械の毎日のメインテナンス
② 不良を出さない作業者はどのような工夫をしているのかを全員で研究して、理想的な作業方法を発見してそれを作業標準としました。

上記の活動の結果、カイゼン前は約10%あった不良率が6カ月後には約1%に減少しました。

4 第2フェイズの活動
 案件名:「国家カイゼンプロジェクト」
 実施期間:2015年9月~2019年1月
第2フェイズになるとカイゼン実施地域が大幅に増え、国の約半分の州でカイゼンを実施しました。第1フェイズでは日本人専門家とガーナ人経営指導員(公務員)が1対1で工場カイゼンを行ったわけですが、第2フェイズではガーナ人カイゼン指導者を大量に養成する必要があったことから、日本人1人に対してガーナ人指導員が6人~9人ついて企業診断と工場カイゼンを行いました。
また設備保全や生産管理板などの比較的高度なカイゼン手法(高度カイゼン)と5Sや目で見る管理などの基礎的なカイゼン手法(基礎カイゼン)とに分け、大都市では高度カイゼンを主に実施して、中小の都市では基礎カイゼンを主に実施するというスキームでした。

目で見る管理:掲示板
目で見る管理:掲示板
5Sの事例:整頓ボード
5Sの事例:整頓ボード
 ここでは、中小の都市で行った基礎カイゼンの事例を書きます。
基礎カイゼンではほとんどの企業で5Sと目で見る管理を実施します。
机や椅子などの木工製品を作っている右の写真の企業では、この2項目を徹底的に行いました。
5S活動では、工具を板に配置してその形を油性ペンで板に書いた「整頓ボード」を作りました。また、目で見る管理では、作業標準、スキルマップ、組織図、ビジョンとミッション、5S委員会、QC委員会などをA3の紙に印刷し、ラミネートしたものを掲示板に表示しました。日本の企業では当たり前のこともガーナの中小零細企業ではこれまで全く行われていなかったので、これを実施するだけでも画期的なことだと思われました。
その結果、製品を買いにくる顧客からは、管理レベルが高い企業だと思われ、売り上げが90%向上しました。
 第2フェイズ全体では、ガーナ人だけで行った自力カイゼンも含めて、187社でカイゼン活動を行いました。

*田島 悟(たじま さとる)
ブレークスルー株式会社 代表取締役社長。
東洋大学大学院 経営学研究科 中小企業診断士登録養成コース講師。
中小企業診断士。全国通訳案内士(英語)。

1982年、早稲田大学理工学部を卒業。同年キヤノン株式会社に入社。
生産管理、本社生産企画センター、研修部門講師などを経て2007年同社を退社。
2008年ブレークスルー株式会社を設立、代表取締役社長に就任。
以来、国内外のコンサルティングや研修等に従事。
主な著書:「生産管理の基本としくみ」(アニモ出版)
     「生産管理の基本が面白いほどわかる本」(KADOKAWA)