Global Wind (グローバル・ウインド)

中央支部 後藤さえ

 2019年3月23日土曜日、中央区の綿商会館にて、中央支部国際部のセミナーが開催されました。対象は、ちょうどこの時期に中小企業診断士試験に合格し、実務補習を経て登録したばかりの「若手」診断士や、海外展開支援に今後取り組んでいきたい!という海外展開支援初級組の皆さん。本セミナー実行委員は綿密に内容を企画し、二人の講師に登壇を依頼、その二人の活躍を知る多くのベテラン診断士も参加して、総勢84名と国際部セミナーとしては、ここ数年で最大規模の集客でした。
そしてもちろん、内容も三好康司会員担当の海外展開支援業務入門、丸山芳子講師担当の海外支援業務ケーススタディ、共に非常に充実した内容で、大多数の参加者が満足のセミナーであったという事後アンケート結果がそれを如実に物語っていました。
 今回は、晴れて「中小企業診断士という資格ホルダー」になった初々しい皆さんの胸に刻まれたであろう二人の講師の「プロコン」としての仕事の取組み、生き様、そして感じたことを書いていきたいと思います。

第一部 海外展開支援業務入門 三好康司会員

一言でいうと、顧客の「その先のアクション」に狙いを定めた完全You attitude!!

 とにかく人柄の良さが講義の一時間、ずっとオーラとなって表れていました。一言ひとこと、言葉を選びながら、反応を確かめながらの表現に、おもわず聞いているほうも背筋を伸ばして頷いていたくなるような丁寧さ。クライアント企業さまのお困りごとに対応するのが我々中小企業診断士の仕事でありながら、どうしても前職のキャリアを「教える」という上から目線になりがちです。すると、はじめは自分たちではできないから教えてもらうんだ、と思っていた経営者さんでも、気持ちよく受け取ることはできず、いくらアドバイスが正しくても次のアクションにはつながりません。三好会員の講義は、お客様の目線に自分が膝を折って合わせ、「その会社に良くなってもらいたい」という気持ちを前面に出されているんだろうな~と想像させる言葉遣いでしたし、経験のまだ浅い新人中小企業診断士に対し、「海外展開支援の経験が初めは無くてもいいんですよ」との言葉で相手を安心させ、やる気を起こさせる魔法のような講義でした。

 こうした心から相手のことを想う気持ちを持ち続けること、コツコツと地道に経営支援を続けることが経営者さんのハートに響き、経営者や従業員にアクションを起こさせ、会社の業容改善につながるんだろうな、と感じ取れました。だからこそ、JETROの海外展開支援で60件もの実績を積まれているのだと、納得しました。診断士資格を取得されてからの努力が並々ではなかったことも想像に難くありません。

【第一部】三好会員の講義は満員
【第一部】三好会員の講義は満員
 さらに参加者を喜ばせたのが「ハンドブック」や「メモ」です。今回のセミナーでは、講義中に映写した資料は印刷・配布せず、しっかり厚めの紙でできた24ページの海外展開支援業務(入門編)ハンドブックが配布されました。通常、セミナーでは映写されたPPTを印刷して配布するものですが、角を一か所ホッチキスで留めただけのセミナー冊子は、バラけやすく、折れたり、落書き(メモ!?)したりして、実はその数日後「多少、見る」程度で、後々使われなくなるものです(私だけ?!)。しかし、基本的なことは繰り返し見て、覚えてほしい、というお客様思いの気遣いが、繰り返し使える「ハンドブック」、その時の記憶をしっかり留める「メモ」を準備するに至らしめたんだ、と、またここでも感動しました。セミナーの実行委員を何度も担当すると、印刷費を抑えたいということしか考えなくなりますが、はじめに「ハンドブックを作りたい」とお聞きし、「そんなコストのかかること!」と思った自分が恥ずかしくなりました。今回のこの講義で、勇気と記憶を植え付けてもらった診断士は、きっとたくさんおられることと確信しています。

第二部 海外支援業務ケーススタディ 丸山芳子講師
 
 本セミナーは第一部が基礎入門編、第二部が事例の応用編、という組み立てでしたが、中小企業診断士としての働き方としても、まさに第一部が診断士として、人として守らなければならない「基本のき」を、そして第二部では「中小企業診断士事業」という、一見形や決まりのないものを、いかに自分のものにしていくのかという応用編を示されました。

 一言でいうと、「仕事は待っていてもらうものではない。他の人がやらないことを自分が進んで探し、磨き上げ、誰かの何かのために、自分で創りあげていくものなんだ」ということを数々の画像で印象付けながらお話しして下さったセミナー後半だったと思います。

 丸山講師のお話も、映写するスライドを印刷して配られませんでした。参加者は映写画像や講師のお顔を見て、テンポのよい語り口のお話を聞き、時々名指しされるクイズがあって、集中せざるを得なくなるような手法を使われていました。おそらく、「お話ししたいのは知識や情報ではなく、考え方、行動なんですよ!」ということなんだろうな~と解釈しております。

 引き込まれるお話の中で、これはなかなかできないことだと感じたことが三つありました。
一つは英語がはじめは得意ではなかった、ということ。得意ではないけれど、海外で仕事したい、だから勉強する!というシンプルな動機とチャレンジ精神、その継続が不可能を可能にしたのでしょう。「もうこの年になって」と自分がチャレンジすることを諦めてしまっては、企業さんにイノベーションを焚きつけられないですよね。海外展開支援はしたいけれど、外国語ができないとだめなのかな…と悩む診断士は多くおられることでしょう。「英語ができないから、海外展開支援ができない」とあきらめる人、「英語ができないから、海外展開支援をするために勉強しよう」と挑戦する人は、ここで分岐するんだ、と思いました。本当に上手でなくても、まず一歩を踏み出すことが大事ですよね。

 二つ目は未経験業種への取組です。今回のセミナーでは、或る地域での事業者の事例がお話しされましたが、その事業者の属する業界については、彼女は全く経験が無かった、と仰っていました。診断士同士の会話で「ご専門は?」「私は●●業界出身で…」というやりとりがよくあります。確かに会社員時代に培った経験は、次の数年で得られるものとは比較にならないでしょう。でもそれが、経営コンサルティングに直結するかどうかは、運や営業活動にも大きく左右されます。それよりも、一から、いや、ゼロから、この企業さんが、この地でうまく行くように、業界について調べ、研究することで、慣れ親しんだ業界での目線とは異なる、第三者としての冷静な目線を持つことができるのでしょう。本当に血のにじむ努力は必要でしょうけれど。

 三つめは、自己投資です。独立すると、お給料が入ってこない、だから手っ取り早く、いまできることから収入を得ないと!と気持ちは動きがちですが、丸山講師はここまで来るのに、かなりの投資を実施されたとのことです。でも、よく考えてみれば、製造業も失敗を繰り返しながら試作し、商品化してもマーケティングをし、と、回収までには時間と労力とお金を投資するものですよね。コンサルティング業も同じなのでしょう。他と違う付加価値を身に着けるためには、努力も我慢も人一倍しないといけない、ということだと思います。

【第二部】丸山講師の講義は笑いで一杯
【第二部】丸山講師の講義は笑いで一杯
 三好会員の、相手を洞察し先読みする力、丁寧さ、アクションを促す工夫、そして丸山講師のチャレンジと行動力と自己研鑽。中小企業診断士は、強みは必要だけれど、やっぱり総合力が大事なんだなぁと、改めて確認させていただいた国際部セミナーでした。講師の先生方、ありがとうございました!

 
■ 後藤 さえ(ごとう さえ)
日本語教師、総合商社、ITベンチャーを経て2007年中小企業診断士登録。
2008年シンガポール渡航、現地で独立。2010年上海転居、京都府上海ビジネスサポートセンターのビジネスアドバイザー、
2013年帰国後株式会社チアーマンサポート設立。
㈱チアーマンサポート:http://www.cheerman-support.co.jp
ちょっとITプロジェクト:https://www.chotto-it.com/