グローバル・ウインド「伝統産業における海外展開事例 ~国内シェアNo1の畳縁メーカーの取組み紹介~」(2019年03月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
中央支部・国際部 清板 智子
今回は、海外から注目を浴びている日本の伝統産業の取組みについてご紹介したいと思います。
いきなりですが、こちらの小物は、何でできているかおわかりでしょうか。
日本人なら一度は目にしたことがあるものを使って作られています。
・・・
正解は…畳縁(“たたみべり”と読みます)です。
たたみべり?とピンとこない方、ご安心ください。こちらをご覧になれば、イメージできるはずです。
そうです。畳の縁に施されている布(上記画像の赤い部分)が、畳縁です。
畳縁は、畳を彩る装飾と共に、畳表(たたみおもて)の角の摩耗を防ぐ、畳を敷き合わせる際にできる隙間を“しめる”機能を兼ね備えているものです。畳が貴人にのみ用いられた平安時代には、身分によって模様や色が決められていたようですが、現代では誰もが自由に選ぶことができ、素材や柄・色など非常に豊富な種類があります。
畳は、千数百年の歴史がある日本の「畳文化」に欠かせないものとなっています。しかし、和室離れの影響により畳そのものの需要は減少の一途をたどっています。熊本県い草生産販売振興協会の調査によると、い草で作る畳表の年間需要量は、1993年の4500万畳から2008年には1720万畳と、3分の1に減少しており、さらに直近では1000万畳を下回っていると言われています。
このような市場の縮小に負けず、畳縁の魅力を発信し続け、海外からも注目を浴びている企業があります。こちらの企業が、どのようにして海外から注目を浴びるに至ったか、専務への取材を通して感じた気づきを企業の紹介とともにお伝えしたいと思います。
◆どのような企業か?
岡山県倉敷市に本社・工場を構える、髙田織物株式会社
http://www.ohmiyaberi.co.jp/
明治25年創業の120年以上の歴史があり、国内シェア35%を超える最大手の畳縁メーカーです。
高度な技術力と最新鋭の設備をもち、定番品だけで1000種類を超える畳縁を扱っています。また、斬新なデザインも積極的に取り入れられており、このような絵柄も柔軟な発想とともに、高い技術力と最新鋭の設備で制作されています。
◆どのような事業を行っているのか?
主事業としては、建材としての畳縁の製造・販売です。自社で製造した畳縁を卸し、畳施工店にむけて販売されています。
こちらとは別に、一般の消費者向けに、畳縁で作った小物などのグッズやハンドメイド用しての畳縁の生地を、実店舗・オンラインで販売されています。ただし、こちらはあくまでも主事業である畳縁の売上を拡大していくためのPR(髙田織物という社名や、商品のラインナップを一般の方に知っていただくため)の活動、という意味合いが大きいそうですが、こちらが海外から注目を浴びている取り組みでもあります。
▼建材としての販売ルート
▼ハンドメイド用の生地や小物の販売ルート
◆なぜ、畳縁そのものを使ったビジネスを考えたか?
建材としての畳縁は、ロール単位で畳店へ出荷されますが、生産や出荷工程においてどうしても廃材がでてしまう。この廃材を使って何かできないかと考え、小物をつくり始めたのがきっかけのようです。そして、地域の祭りや工場見学の来場者へ、畳縁を使った作成した小物入れや雑貨を提供していたところ、評判がよかったため、本格的に事業展開に踏み切った。また、工場見学の来場者からは、「グッズだけではなく、自分でも小物を作りたいから畳縁を販売してほしい」との要望を受けるようになり、畳縁そのものの販売も行うようになられたようです。
アイデアを形にし、小さく初めて、顧客の声を取り入れながら育てていくという、スモールビジネスを体現されています。
◆ハンドメイド用として消費者へ販売するルートを確立して、どのような変化があった?
2つの良い変化があったようです。
ひとつは、従業員含めて誇りとやりがいをより持てるようになったこと。
建材として販売する畳縁は、問屋に卸すため、施主さんの反応を直接みることはできないが、ハンドメイド用として消費者に販売する分においては、自分たちが作った商品が目の前のお客様が喜んで買っていく姿を見られるので、やりがいを感じられるようになったようです。
もうひとつは、素材としての可能性を感じられるようになったこと。
畳縁を使った作品は常にいろんな方のアイデアを取り入れて試行していく中で、想像がつかないものが次々と出来上がってくるので、素材としての可能性を感じられるようになったという。
丈夫・軽量・しなやかという畳縁の特徴から、現在ではベルトや御祝い事の袱紗など、多様な使い方を考案されています。
◆海外向けの対応として、どのようなことを行っている?
大きく3つあるようです。
1.HPやプロモーションビデオ、各種パンフレットの多言語対応、SNSでの発信
一つ目はHPや会社案内の多言語対応です。日本語では当然制作されていますが、英語やフランス語の会社案内も行われています。そして、特徴的なのは、畳縁そのものの紹介に加えて、畳の文化や、綿花栽培から発展した倉敷市における繊維産業・街の歴史についても丁寧に紹介しているところです。伝統文化、産業を時代に適応させながらも地域産業を守っていこうという企業姿勢が表れていると感じます。
また、海外においては、畳=日本文化のひとつ として認識されており、畳縁に興味を持つ方は日本の歴史や文化への造詣が深い方が多く、畳についている生地=畳縁 ということで、海外の方への最初の説明はとてもしやすいとのこと。
また、限られた人手の中ですが、担当者をつけて、SNSでの広報・発信もきめ細やかな運用を行われています。 単に言語対応だけではなく、PR内容に工夫を施し、共感を得る取り組みは他の中小企業においても、参考になるものと思います。
2.工場見学の受け入れ
2つ目は、畳縁工場見学へアメリカやニュージーランドなど海外からの見学者を積極的に受け入れていることです。お世辞にもアクセスがよいとは言えない場所にも関わらず、2018年においては10人以上の団体客だけでも78組、1500人以上が国内外から訪れています。
どのように海外の方は、工場見学の存在を知り、足を運ぶのか?というと、
県や行政、旅行会社へ工場見学の存在を知ってもらい、ご紹介してもらう事が多いようです。また、地域の新聞やTVの取材対応や、専門誌への掲載などのメディア対応についても積極的に行っており、担当クルーの方が「同じ局内の別の企画で紹介できそう!」ということで、広めてもらえることがしばしばあるといいます。
実際に見学された方からは、
・身近なようであまり意識したことのない畳縁が大量に織られるので面白い
・従業員の対応が親切
・清掃が行き届いた工場で驚いた
という感想をもらうようです。
今でこそ、ちょっとした観光スポットにもなっている工場見学ですが、以前は今ほど積極的には誘致はしておらず、問い合わせがあった時に社長が受けて、一人で案内をしている程度だったようです。畳縁を知っていただく活動として一般消費者向けの事業を開始して以降は、担当者を設けて積極的に行うようになってようです。強い意志と丁寧なPR活動との積み重ねが、海外との縁をつくっていった事例として参考になります。
3.海外でのワークショップや展示会の開催
3つ目は、海外でのワークショップや展示会への参加です。
市や県や国のバックアップを受けながら台湾やフランスなどで行われる展示会に出展したり、現地の方へのテストマーケティングを実施されたりしています。
取り組みのひとつを紹介します。
フランス・パリのショールーム「Discover Japan pairs」に、倉敷市のポップアップショールーム「Kurashiki Japan」を期間限定で出店する際に、出店企業に名乗りを上げ、選出されています。これは、倉敷市の「くらしき地域資源活性化事業(海外販路開拓支援)」として、現地バイヤー等とのビジネスマッチング支援やバイヤー・消費者を対象としたテストマーケティング支援を行う取り組みを活用したものです。髙田織物は、昨年度に続いて2年連続して選出されています。
<Kurashiki Japanについて>
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/news/article611.html
公的機関からの支援を受けるために、事業計画はもちろん必要ですが、熱意・誠意をセットで伝えていくことがポイントのようです。
また、専務からは
「もともと海外展開はしたいと思っていた。ただ、国内でも当初は販売に苦労しただけに、海外で売れるという確証もなかった。なので、日本と同じように、雑貨のPRだけではなく、同時に、畳縁を素材として提供しレシピ(使い方)も見ていただきながら販売していくことにした。まだ始まったばかりでどうなるかわからないけど、修正しながら軌道に乗せていきたい。」
と語っていただきました。
◆海外と日本のお客様の違いはある?
国によって多少、色・柄の好みの違いはあるようですが、雑貨などは値段が手ごろなこともあり、畳縁の生地も手芸用としての活用方法を見ていただくと納得して購入いただけるのだそうです。自分用に買われる方、プレゼント用に買われる方など、目的はまちまち。
海外の方を接する際も、日本人と大きな違いはなく、商品や素材だけを販売するのではなくて、自社や産地(倉敷・児島)の歴史、商品が生まれた背景などを丁寧に伝える工夫をされています。
◆今後の展望ついて
熱く想いを語っていただいたので、そのままお伝えします。
「持続可能性というキーワードを大切にしている。伝統を絶やすことなく安定供給を図っていくために、仕入先を育てることや、社員を獲得し育成することや、市場を作っていくことを大切にしている。
今後取り組みたいこととしては、今の流れを大切にしながら海外でも認めてもらって、その価値を日本国内にも広げて、畳縁に関心を持つ人をもっと増やしたい。その結果、新用途の部分だけではなく、本来の畳に使っていただく部分においても、1畳あたりの付加価値をより高められるような商材へと育てることで、住環境を豊かにすることに貢献していきたい。」
話を伺う中で印象的だったのは、海外だからといって特別なことをしているわけではなく、
国内での取組み基礎ができていれば、公的機関のバックアップを得やすく、海外へも適用できるということ。
国によって絵柄や色味の好みはあるけれども、作り手の想いや歴史・文化というブレない軸を丁寧に伝えることで、「古いが新しい」というコンセプトの共感を生み、伝統産業として認知・注目されているのだと感じました。
中小企業にとって独自にチャネル構築することは、非常に大きなチャレンジです。
斬新な発想で畳縁の価値を再定義し、伝統産業や文化の継承に対する熱い想いをもって、果敢に取り組む姿勢は、私自身として大変刺激になりました。
畳縁に触れたい方は、新橋にあるアンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」でも実物を手に取ることができます。個人的なオススメは、畳縁でデザインされたご祝儀袋です。
機会がありましたら、春のお祝い時に、手にとられてはいかがでしょうか。
■清板智子(せいた ともこ)
大手マーケティングリサーチ会社で一貫してサービス/システムの企画・開発に従事し、現在は、流通業のお客様を主に担当する。
診断士は2014年度合格、2015年4月に登録し、補助金支援や業務コンサルで活動中。支援企業における補助金採択率は100%。
東京都中小企業診断士協会中央支部 国際部 所属