グローバル・ウインド「日本ではあまり知られていないロシア紀行~ウファ編」(2018年09月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
中央支部・国際部 城ヶ﨑 寛
5月から8月にかけては欧州に近いロシアであるモスクワ周辺地域では、長い冬のような雪もなく、訪問視察にふさわしい季節です。ワールドカップサッカー直前の6月上旬に仕事でロシアのバシコルトスタン共和国のウファに立ち寄りましたので、この自然あふれた美しい都市をレポートします。
(1) ウファとは
ロシア連邦には、22の共和国が存在します。共和国とは、その土地に住んでいるロシア人ではない人々が郷土としている地域に称され、この地では昔は半遊牧民であったバシキール人が人口の約30%を占めています。バシキール人はモンゴル系の人もいて、日本人としてはどこか親近感を感じる民族です。ウファはそのバシコルトスタン共和国の首都にあたります。人口104万人でロシアでは11番目に大きな都市です。モスクワの南東飛行機で2時間の距離の場所ですが、なんと時差がモスクワと2時間あります。ロシア国内便の基本ルートは、モスクワをハブ空港として放射状に空路が発達しているため、地方都市間の移動は一度モスクワを経由することが多いです。このため、航空会社の関係で、私はモスクワにある二つの空港のうち、古くから存在するシェレメーチェヴォ空港の常連客となっていました。
訪れてまず気づくのは、演劇場の多さです。小劇場といった雰囲気の劇場から、大ホールまで、日本の感覚では、コンビニエンスストアのように多くの演劇場があることに驚かされました。地元の方にお聞きすると、娯楽があまりないからだそうです。文化レベルの高さがうかがえます。
(2)伝統のある共和国のシンボルとして
ウファは、大自然に囲まれた緑あふれる都市で、アジアとヨーロッパの間を分けるウラル山脈の西100キロメートルに位置しています。バシコルトスタン共和国全体が自然の宝庫であり、大自然の暮らしやすい土地の原始時代から続く人の営みの遺跡が残っており、観光資源に事欠かきません。
まず、宿泊したホテルの近くに近年作成された7人の少女像の噴水があります。この7人の少女は姉妹なのですが、隣国であるタタール人にさらわれて、逃げる途中に6人が犠牲となり、1人しか生き残ることができなかったという悲しい説話をもっています。その言い伝えをモチーフに作成された少女像であるということを解説いただいてからは、単なる観光地のオブジェというよりも、悲しい歴史を含む深い郷土愛を感じるようになりました。
つづいてウファ一番のシンボル的存在であり、この地域の精神的支柱を理解するのに欠かせないサラヴァト・ユラーエフの銅像です。この銅像は、1773年から1775年に発生した農奴の反乱「プガチョフの乱」で農民側に味方し、捉えられて処刑され民族的英雄となったサラヴァト・ユラーエフを称える銅像です。銅像が向いた側には広い森と川が横たわり、大きな共和国全体を守る英雄の風格を備えています。また、足元には、ロシア民族を代表する女性像とバシキール民族を代表する女性像が並立し、二つの民族の結束をちかう場となっています。民族の誇りと、ロシアによる政治的統一を象徴しており、ロシア連邦が多民族国家の連邦国家である姿を理解するためには象徴的でわかりやすいモニュメントとなっています。
(3)宗教的側面
宗教的な面では、イスラム教のモスクが欠かせません。こちらのモスクはロシアでも古い部類に入るモスクで、1830年に建築されています。ロシア国内は基本的にはロシア正教というキリスト教徒がほとんどで、イスラム教の信者は、過去の歴史の中でしばしば信仰の危機を乗り越えてきました。その中でもこのモスクはツカイェブ・モスクといい、遠い異国の異教徒である日本人の私をオープンに受け入れてくれました。女性はスカーフをして顔だけを見えるようにする必要があります。このスカーフも外国からの訪問客を意識しておしゃれなものが準備されていました。中では、イスラム教の礼拝が行われており、メッカの方角に向かって礼拝をしているイスラム教徒の方が複数いました。ウラマー(イスラム法学者)の方(モスクの管理者らしい)が、ご丁重に挨拶され、宗教的儀礼の場らしく荘厳な雰囲気の中で見学しました。この地では、ロシア正教とイスラム教が見事に平和共存していました。
(4)戦没者慰霊公園
「ビクトリアパーク」という名で、第二次世界大戦でファシストと戦った戦没者慰霊をしている非常に大きな公園(約60ha)がありました。英雄の銅像があちらこちらに見受けられましたが、特徴的なことは、特に階級が上でなくても、個人的に勇敢にたたかった人や、市民の盾となるような活躍をした方に対して非常に敬意をもって英雄視している点です。また、戦時中に活躍してきたT型戦車や潜水艦の古い筐体が公園に展示されており、男の子たちがまるで公園の遊具のように戦車の砲身にぶら下がったり、潜水艦の潜望鏡を除く部分に上って行ったりしていたことです。地元の親子にとっては整備された無料のテーマパークのような状態でした。これもボルガ=ウラル油田から豊富な石油資源の恩恵を受けて政府の財政が豊かである関係なのでしょうか?手入れが行き渡り、財政的に余裕のある雰囲気で運営されています。
(5)自然の観光資源
その他地元の観光業者おすすめの自然の観光資源をご紹介します。バシキール地方には太古の昔から人類の祖先が住んでいた痕跡が残っています。この写真はこの地域に存在するクロマニオン人時代のカポーヴァ洞窟壁画です。放射性炭素分析によりと、1万6000年前の人類の遺跡らしいです。
また、素晴らしい自然も残されており、下の写真は透明度の高い洞窟の中の青い湖です。
こうした素晴らしい自然と歴史を感じさせる観光資源をロシアのバシコルトスタン共和国のウファで体験されたい方は、地元の旅行会社をご紹介しますので、ご連絡お待ちいたしております。基本はロシア語で英語は通じませんので、日本語からロシア語への通訳も併せてお願いすることをお忘れなく。
■城ヶ﨑 寛(じょうがさき ひろし)
博士(システム情報科学) 公立はこだて未来大学博士後期課程 2017年3月修了。早稲田大学理工学部電気工学科 1987年3月卒業。中小企業診断士 2008年4月資格取得。米国、イスラエル、インド、英国の外資系を中心としたIT業界で30年間の経歴。マネジメント経験を活かして、現在中小製造業のべ30社に対してものづくり補助金および経営革新計画申請業務を通じた支援業務、外務省主催ロシアIT企業22社向け訪日研修の主任講師業務、JICA事業において南アフリカ熟練工育成推進プロジェクト詳細計画策定業務などに従事している。
ご連絡先: hiroshi.jogasaki.1_at_gmail.com (_at_ の部分を@に置き換えて下さい。)