グローバル・ウインド 「香港のとある日曜の風景から見えた「フィリピン」について」(2018年06月)
中央支部 国際部 望月 優樹
0-1. はじめに
2015年夏に香港に赴任してから、間もなく3年を迎えようとしております。グローバルウィンドの執筆に当たり、当初は香港駐在員として何か香港または中国に関するものをと考えておりましたが、一方で香港または中国についてはグローバルウィンドにもこれまで題材として多く登場し、皆様もよくご存知なのではないか、やはり何か目新しい珍しいものを書きたいなと考えておりましたが、のっけから執筆作業も題材探しのところから行き詰っておりました。そんな中、突如街中でその題材を見つけることができました。
とある日曜日、運悪く翌週月曜日からの出張が急遽決まり、日曜にも関わらず出張準備のため、是非も無くオフィスに向っておったのでおります。私のオフィスは香港のビジネス街の中心セントル(中環)にあり、香港ドル発行銀行の一つで香港を代表するHSBC(香港上海銀行)香港本店の近くにあります。そして、オフィスに向う途中、すでに見慣れた光景ですが以下写真[1]のような光景に出くわしました。
[1] 筆者撮影(左上=HSBC本社及びスタンダードチャーター銀行香港本社、右上=HSBC本社前の道路、下部=HSBC本社一階入り口)
これは、日曜日だから特段フェスティバルやお祭りをやっている訳ではありません。これは香港経済を支えるメイドさん達(清掃、洗濯、炊事などの家庭内労働を行う主に女性達で、主に香港では個人宅で主に住み込みで働く)が仲間たちと伴に、休日で静まり返ったビジネス街で、たった週一回の休日を謳歌している光景なのです。普段セントル(中環)は平日スーツ姿のおもに金融マンで溢れかえっており、日本で言うと丸の内や大手町のような街ですが、その金融街も日曜日はまるでがらっとその雰囲気を変えるのであります。
0-2. 香港と外国人メイド
各種報道によると、香港には外国人メイドが約34~36万人程おり、一方で香港の人口は730万人でありますから、人口比約5%の外国人メイドさん達が香港にはいることになります。香港では、競争が全てであり、賃金格差も激しい。しかも、世界一位を争う物価の高い街(例えば一般的な外国人駐在が暮らす香港島マンション(2LDK)の平均家賃は香港ドルで約3~4万ドル(日本円42~56万円)といわれております)というわけで、一般的な家庭では、「家事・育児は外国人メイドに任せて」夫婦共働きが当たり前でごく一般的。香港の平均的な月収は日本円で約20~30万円、一方外国人メイドさんの月収は7~8万日本円(その他住居(香港の一般的なアパートはメイドさん専用の部屋があるのが当たり前)、食事の提供が義務付けられている)で、外国人メイドさんを雇って、残りの日本円13~23万円の所得を得るというのが、物価の高い香港では合理的で常識的なライフスタイルなのである。
さて、そんな香港におけるメイドさんですが、伝統的にフィリピンから出稼ぎ労働者が多い。各種報道によると、現在フィリピンおよびインドネシアがそれぞれ50%近くと、近年ではインドネシアからのメイドさん達が増えている様子。これはフィリピン人労働者の“人気加熱”により、比較的低コストで雇えるインドネシア人を採用するケースが増えていることが主要因だそうだ。しかしながら、香港人に言わせると、やはりフィリピン人のメイドが一番いいそうなのである。それは何故なのか?それは、フィリピン人がネイティブに近いほどの完璧な英語を使いこなし、コミュニケーションがとり易いということだからなのだそうだが、それ以上に競争厳しい香港の家庭では、子供の英語教育のためにもフィリピン人メイドを採用したがるのだ。しかも、香港とフィリピンは目と鼻の先、フライト時間はおよそ一時間半くらいで、東京から北海道へいくのとほぼ変わらない距離で、雇われる側にもメリットがあるという訳であります。
といわけで、今回はそんな香港経済をささえるメイドさんたちの出身国であるフィリピンについて、ご紹介したいと思います。というのも、日本人であればフィリピンは身近な国ですよね?でも、実はフィリピンについて皆さんはご存知のようで実は良く知らない国の一つではないかと私は思ったのです。どうでしょうか?是非以下ご一読いただき、その是非についてご確認いただければ幸いです。
1. フィリピンの基礎知識
まずはフィリピンの概観についてみていきたい。香港で活躍するメイドさん達の出身国フィリピンですが、我々日本人が持つフィリピンに対する一般的なイメージは、セブ島などに代表される素敵なリゾートがあるといった好印象をあげる人がいる一方、大半はアメリカ統治の影響で基本的には銃社会で、現大統領ロドリゴ・ドゥテルテ氏が実施している麻薬撲滅戦争などのイメージがあり治安が悪く、まだまだバナナなど一次産業がメインで、国内貧富格差が激しい、東南アジアの典型的な(又はそれ以上の)発展途上国というイメージをお持ちではないだろうか。しかし、本当は日本経済にとっても今後ますます重要となる、東南アジアの優等生であり、かなりのポテンシャルをもった国だと私は思うのです。
以下フィリピンの基礎情報についてみて行きたい[2]。
・国名: Republic of the Philippines(フィリピン共和国)
・面積: 299,404平方キロメートル(日本の約8割)(7,109の島々からなる)
・人口: 約1億531万人(世界10位、東南アジアではインドネシアについで2位)
・首都: マニラ(首都圏人口約1,288万人)
・言語: 国語はフィリピノ語、公用語はフィリピノ語及び英語
・宗教: 国民の約83%がカトリック
・政体: 立憲共和制(現元首:ロドリゴ・ドゥテルテ大統領)
・経済: GDP約3,130億米ドル(2017年成長率6.7%)
ここで特に注目してもらいたいのは、人口が約1億531万人もあり、ASEAN諸国においてはインドネシアに次いで、第二位であることである。
また、さらに注目してもらいたいのは、国内総生産(GDP)も既に約3,130億米ドルとASEAN諸国においては未だ第5位であるが、全世界においては既に約37位の地位を築いることである。このGDPは、ASEAN諸国ではGDPが約1兆米ドルで人口が2.5億人以上もいるインドネシア共和国、工業化が他のASEAN諸国と比べて発展しているGDPが約4,550億米ドルで人口6,572万人のタイ王国に次ぐ3,000億米ドルクラスである。また、2017年度GDP成長率は6.7%であり、これは中国の6.9%、ベトナムの6.8%に次ぐ非常に高い経済成長率であり、2011年からの7年平均で6.2%を維持しており東南アジアの優等生といわれている。以上のことから。フィリピンは今後ますます経済発展の大きな可能性を秘めており、後程詳しく説明していきたいと思うが、今後ますます経済発展を加速させていくだろうといわれているのであります。
[2]外務省ホームページ、フィリピン共和国ページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/index.html)
<2017年名目GDP[3]> <2017年人口3>
[3]IMF – World Economic Outlook Databases (2018年4月版)より筆者作成
また、特に首都マニラ周辺の発展は著しく(下記参照[1])、首都マニラは高層ビルが立ち並ぶビジネス街があり、一方でハワイのような南国の雰囲気も併せ持っており、東南アジアを代表する大都市として発展している。
[1]筆者撮影(左=フィリピン証券取引所周辺の金融街、右=マニラ中心マカティにある高級ショッピングセンター周辺)
3. フィリピン経済構造
ここでは、経済発展著しいフィリピン経済についてみていきたい。フィリピンをマクロにその経済構造を大まかに見てみると、以下2点の大きな特徴が見られます。
・GDP構成から → GDPにもっとも貢献しているのが民間消費であることがわかり、フィリピン国内には旺盛な国内民間消費=需要が見られることが分かる
・経常収支構成から → 大幅な第二次所得収支の国内流入がみられ、それが貿易・サービス収支による赤字相殺に大きく貢献していることが分かる
<フィリピンGDP構成[5]>
[5] フィリピン中央銀行(“Bangko Sentral ng Pilipinas (BSP)”)データーより筆者作成
2017年末現在、上記フィリピンGDP構成グラフの赤い部分で示されている国内民間消費は、全GDPの約73%以上を占めており、フィリピン経済成長において圧倒的一番で貢献している。
それに対して、GDP構成グラフの青色部分の貿易輸出入については、一番フィリピン経済成長において足をひっぱっていることが分かる。これは、経済成長に伴うフィリピン国内の旺盛な消費意欲=需要をフィリピン国内ではまだまだ産業が発展途上であるために、国内生産=供給が充分にその需要を補うことができず、結果としてその旺盛な消費意欲=需要の充足のために輸入に大きく頼っている現状を示している。
<フィリピン経済収支構成[5]>
単位:100万米ドル
上記経済収支構成を見ると、貿易収支のとりわけ「物」の輸出入(貿易収支)にて大幅な貿易赤字を計上しており、全体としてフィリピンの経常収支のバランスをもっとも崩している原因となっていることが分かる。2017年では、286億米ドルつまり約3兆800億円程度の貿易赤字を計上していることが分かり、上記GDP構成の大きな国内需要と貿易赤字の背景がよく理解されよう。
一方ここで注目されたいのは、2016年および2017年と直近の2年を除けばフィリピンは伝統的に経常収支が黒字であるということであう。2017年に拡大した経常収支といっても25億米ドル=約2,750億円程度であり、フィリピンの全体としての収支についてみた場合、さほど警戒するレベルにはないことが分かる。
さらに、経済収支構成をさらに深く見ていくと、第二次所得収支の流入による大幅な黒字収入によって、「物」の国際貿易にて発生した資金流失を補っていることがわかる。第二次所得収支は、学術的には「居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況」を示す。具体的には。これがフィリピン経済を語る上で、もっとも重要なポイントであり、冒頭でふれたフィリピン・メイド達が国外で稼ぐ外貨のことで、正確にはその資金がフィリピン国内にいる家族親戚に対して送られる海外送金のことなのある。
<Overseas Filipino Workers(“OFW”)および海外送金[5]>
(単位:100万米ドル)
国外で働くフィリピン人労働者のことをOverseas Filipino Workers(“OFW”)と呼ぶが、フィリピン統計局 (Philippine Statistics Authority)の報告によると、2017年全世界において約230万人ものOFWがいるそうだ。もちろんこの中には、香港の外国人メイドさん達も含まれているのだが、それだけにとどまらない。その他には医者、弁護士、技術者など高度な専門知識・技術を持ったOFWも当然含まれる。ネイティブに近いほどの完璧な英語を使いこなすフィリピン人であるからこそ出来る芸当なのである。筆者自身の経験においても比較的教育レベルが高くない街中の人たちと話しをしていても英語でのコミュニケーションで困ったことはないし、どうやら映画なども字幕なしで英語で見たりするそうである(一方でこの英語の流暢さのために、医者、弁護士、技術者など所謂高度人材が国外に流出しやすく、フィリピン経済の足枷ともなっているという問題もあるようであるが、本レポートの趣旨ではないので割愛する)。なお、上記OFWの海外送金データーを中央銀行のデーターから上記図に纏めてみた。一年間で日本円にして約3兆円(2017年)がフィリピンへ流入・送金されており、フィリピンの経常収支バランスの維持に大いに貢献している。現に政府もOFWがいかにフィリピン経済にとって重要で、生命線であるかということを認識しており、なんとマニラの空港にはOFW(特別レーン)なるものがあったり、如実にそれを物語っている。
<フィリピン経済の問題・課題>
さてこの章を終えるにあたり、以上のことからフィリピン経済が抱える問題・課題について考察していきたいと思います。上述の通り、フィリピンは国外フィリピン人労働者がもたらす資金流入に支えられる旺盛な国内需要に牽引され(やや安定さに欠ける政府消費や固定資本形成に牽引される中国とはかなり異なり)東南アジアにおけるトップクラスの経済成長を遂げている。ただし、現状はその旺盛な国内需要に対して、国内供給が追いついておらず、フィリピン経済にとって国内産業(特に輸出関連産業)の育成とそれによる輸出の促進が現在のもっとも大きな課題となっている。
また、直近のマクロ経済の観点から更なる考察を行うと、本年3月末からの主には米国によるシリア攻撃、イラン核合意離脱を要因とする原油価格高騰の中、原油価格の上昇=物流価格の高騰、そして米国の政策金利の利上げ=新興国通貨の下落といった状況なっており、フィリピン経済は今困難な状況を迎えている。
1.フィリピンペソの下落 → 輸入価格の上昇 → 更なる貿易収支の悪化
2. 輸入価格の上昇によるインフレ → フィリピン国内の金利上昇 → 景気の抑制
以上のように足下のフィリピン経済にはネガティブな要素が多い。そのため、金融政策による適切なインフレ対策(2018年5月10日フィリピン中央銀行は2014年以来初となる利上げを実施している)はもとより、フィリピン通貨の安定を維持し、輸入価格の上昇をできるだけ抑えていくことが足下短期的に重要となっている。
しかし長期的にさらに重要なことは、旺盛な国内民間消費=需要を抑えないためにも、国内産業を育成し国内供給能力を向上させることで貿易収支の赤字を縮小させることが必要であるし、そもそも輸出を促進しすることもできる。金融政策以上に、現在のフィリピン経済においてはフィリピン工業の育成が最重要課題かつ重要なのである。
もちろん、更なるOFWの拡大で経常収支にて黒字を育成していくということもできるが、あくまで二義的なものであり、経済そのものの発展も見込みづらく何よりも通貨の安定という意味ではやはり工業の育成・発展のそれには到底及ばない。
4. フィリピン経済の特徴と展望
では最後に以上を踏まえて、簡単にフィリピン経済の今後の展望について、筆者の私見を述べてみたいと思います。ずばり結論から言うと、その未来は明るく日本経済にとって非常に重要なパートナーになっていく可能性が高いと思われます。では、その要因について、以下説明していきます。
① 英語が堪能
さて、またまた最初にまず香港のメイドさんの話をしたい。彼らが香港で重宝され人気NO.1なのは英語が堪能だというのが最大の理由。実は、先ほどの経常収支の表を改めて頂きますと「物」とは異なり、「サービス収支」は黒字であることが分かります。これは観光業(セブなど)と所謂BPO(Business Process Outsourcing)と言われるもの(個人的にはあと最近では安価で比較的きれいな英語を話すということでフィリピン人先生専門のオンライン英会話なども人気がでているそうで、これもかなり貢献してきているのではと思ってます)によるもので、BPOとは簡単に言うとコールセンター。香港でもそうだが、銀行や航空会社の電話問い合わせ先・案内番号に電話すると、大体フィリピンまたはインドにつながれます(おかげで筆者自身もかなりアジア英語を鍛えてもらいました・・)。本題に戻ると、この英語が堪能というのはかなりのアドバンテージで、工業育成のための外資誘致という観点でかなりのアドバンテージであるといえます。
② 人件費がまだ比較的に安い
中国はもとより東南アジアの工業国タイと比べても人件費はまだまだ安い。より具体的に説明すると、フィリピン人が大卒で就職してもらう初任給は大体月約2万日本円であるそうで、日本では大体20万円、最近では30万円というところもあることから、大卒のスタート賃金を比較するとフィリピンの人件費はまだまだ7~10%の水準であることが分かります。ちなみにフィリピンの大学教授の平均月収は約3~4万円とのことで、その人件費の安さが分かると思います。
またまた本レポートのテーマである香港のメイドさんの話に絡めてお話しをしたい。上述の通り、外国人メイドさんの月収は大体日本円で7~8万円、しかも住居+食費も雇い主負担。なので、大学で一生懸命勉強して就職するよりも(なんせ大学の教授より良いのだから)香港に来てメイドをやったほうが稼げるということで、フィリピン・メイドの中には大卒も少なくないそうで、これも香港でフィリピン人メイドが人気な理由となっているというわけなのである。
本題に戻ると、この人件費の安さというのは工業育成のための外資誘致という観点でかなりのアドバンテージである。
③ 地理的優位性
日本からフィリピンは飛行機で約5時間程度。その5時間で大体のアジアの都市にいける。東南アジアへのアクセスという意味では確かにシンガポールが良いかも知れないが、日本や中国を含めた所謂北アジア全体とした場合、フィリピンがちょうど中心に位置するのである。現日銀総裁の黒田氏に代表される日本が歴代総裁を輩出しいてるアジア開発銀行(Asian Development Bank)本部も現にマニラにあり、アジアの中心と認識されていることが分かる。何よりも日本にとって重要なポイントは、日本から一番近い東南アジアの国であり、海外進出を検討する本邦企業においては、今後ますます重要になってくると思われます。
いずれにせよ、この地理的特徴は、工業立国を目指すうえではかなり優位な点で、直接的な物量コストの観点だけでなく、上記英語の観点からもいうとアジア統括拠点候補地としてのポテンシャルも重々有しているといえる。
④ 強権であるがバランス感覚に優れた現フィリピン政権
現フィリピン政権といえば、アジアのトランプ大統領といわれるあのドゥテルテ大統領に率いられる政権である。メディア報道とくに日本のメディア報道だけをみていると、ドゥテルテ大統領の独特な言い回しや過激な発言ばかりが取り上げられ、その強権性または独裁制が協調されるが、かの国の大統領とは異なり、筆者の見解からすると実はかなりのバランス感覚に優れた政権といえると思います。
上述の通り、フィリピン経済はかなりの強み/アドバンテージがあり、それについて述べたが、現に未だ発展途上国であることから考えて、当然のように弱み/ディスアドバンテージがある。その顕著なものは治安とインフラの未整備であります。これがフィリピンの工業立国化への最大の課題であり、先に工業化を進めたタイ王国と比べて顕著である。
ドゥテルテ大統領は、その点について実に深く理解しており、自国の経済発展のためにやるべきことを着実に実行しているといえる。治安については、麻薬撲滅戦争を就任直後から開始し、そのプロセスについては評価色々在るものの、結果として治安は格段に向上している。これは、フィリピンに進出を検討している外資勢からの評価が非常に高い。
また、インフラについては、就任後すぐに“Build Build Build”という日本円にして総額約6兆円もののフィリピン経済において史上最大のインフラ開発計画を発表・段階的に実施している。以上のように、フィリピン経済の弱みを着実に且つ継続的に克服していけば、そもそもの強みがある分、今後の経済発展の見通しはやはり明るいといえる。
このようにドゥテルテ政権は、目的を確実に把握し、そのために実施すべきことを着実に実施しているが、それだけにとどまらない。さらに非常にバランス感覚に富んでおり、その政策の継続性がかなり高いといえる。例えば先の麻薬撲滅戦争で批判を高くうけているものの、徹底的な治安改善をおこない、また自身の支持層にむけてのイメージ戦略を巧みに行うことで、就任後から支持率を概ね80%以上と高支持率で維持している。また、次のインフラについても、日本円で約6兆円の大規模なインフラ改革を掲げながら、一方では堅実にフィリピンで約20年ぶりとなる税制改革法案を2017年末に成立させ、今年1月から着実に実施し、適切な財源確保にも余念がない。さらに言うと、米国一辺倒だった前政権にくらべて、時には中国と日本を天秤に掛けバランスを保ちながら、日本からは今後5年間で1兆円規模の支援策を引き出し、中国からも総額2兆円以上の支援を引き出しており(人権批判のためか、一方でその直後EUからは約300億円の資金援助を拒否している)、日中双方から資金援助を獲得している。
以上まとめると、現政権は自国経済発展のための明確な政策を打ち出し、その強力なリーダーシップを発揮しており、その蓋然性及び実効性が高い。とりわけ、インフラ開発を行い外資を誘致して、脆弱な国内供給力=工業力改善による貿易収支の改善を着実に達成しようと試みており、これに日本企業を筆頭としたフィリピン国内に投資を検討してる外資企業をひきつけている。また、現政権は、8分野における外資規制緩和(2017年11月21日付大統領通達2017年第16号)を実施しようとしており、外資誘致にぬかりは無い。
5. 最後に
今回は香港のとある日曜の風景から、フィリピンについてご紹介させていただきました。我々にとってなじみのある国フィリピンですが、ご自身の理解と少し違った側面を感じ取ってもらえたのではないでしょうか?また、フィリピンはこれからますます工業化を行い経済発展を成し遂げていくことでしょう。グローバル化を目指す日本企業にとって、ますます重要なパートナーとなっていきます。今回はそれらを感じて頂けたのではないでしょうか?左様であれば幸いですし、本レポートが皆様のフィリピンに対する関心の一歩となれば幸いです。
■望月 優樹(もちづき ゆうき)
京都出身、1983年生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、大手証券会社に入社。一貫して、外国顧客を対象に債券資本市場による資金調達業務に従事。現在は営業として、香港を拠点に東南アジア顧客を担当。中小企業診断士試験の受験開始は学生時代、紆余曲折あり苦節10年?の末、やっとの思いで2014年度合格。2015年登録。
東京都中小企業診断士協会中央支部 国際部 所属
香港中小企業診断士の会 所属