グローバル・ウインド 「第9回国際部セミナーレポート: 実践への気づき!海外マーケティング徹底解剖」(2017年12月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
「第9回国際部セミナーレポート: 実践への気づき!海外マーケティング徹底解剖」
国際部 佐藤 一樹
こんにちは。国際部員の佐藤一樹です。
私はいわゆる帰国子女で、13歳から24歳までの時期をアメリカで過ごし、帰国後、3年ほど前に独立開業するまでのキャリアの大半を、広告代理店で過ごしてきました。日系の代理店でキャリアをスタートし、5年ほど経ってからは外資系の代理店を転々としてきたのですが、その間、様々なグローバル企業のブランディングやマーケティングを支援してきました。
その中で、国境を超えたプロモーションがいかに難しいか、幾度となく思い知らされてきました。日本から海外に向けて、海外から日本に向けて、宣伝活動を通じて製品やサービスのよさをアピールすることの難しさを、数々の案件から経験しました。例えば、キャッチコピーの翻訳。キャッチコピーには、単語それぞれが持つ意味の背後に、文化的文脈がぎっしり詰まっています。それを翻訳するのは至難の業で、直訳してしまえば何のことを言っているのかさっぱり分からなくなってしまい、意訳しようとすると文化を説明する論文のように長くなってしまいます。
それだけ、国境を超えたプロモーションとは難しいものであると確信を持っていた私にとって、今回のセミナーは、新鮮という言葉では言い尽くせないほど、私の中に新しい風を吹かせるような内容でした。パワフルな講師陣が、いかに国境という壁を突き破って、これぞ21世紀型のグローバルビジネスといえる展開をしているのを目の当たりにでき、強い感銘を受けました。
今回は、その熱気あふれるセミナーの様子を、少しでもご紹介できればと思います。
このセミナーは、中小企業にとって海外展開が重要な課題になりつつある中、中小企業診断士が本当に中小企業の役に立つ助言をできるようになるための気付きを提供する場として、開催されました。個人事業主として和ビンテージアパレルを北米向けにEC展開されている、ダブルエスワールド代表の大西澄江氏と、中国向け口コミマーケティングに精通し多角的に活躍されている、一般社団法人中日口コミ創業者のVivian Zhao氏を講師に招いて、ウェブを活用したマーケティング手法を中心に、実践性の高いノウハウが惜しみなく披露されました。各講師による講演内容と、その後に行われたパネルディスカッションの様子を、ご紹介します。
講演1:「準備金0から越境ECサイトが出来るまで」
講師:ダブルエスワールド代表 大西 澄江 氏
小柄で、昭和を感じさせるどこかレトロな服装の彼女は、一見すると、静かで控えめな女性という印象を抱かせます。そんな彼女がいかにして独立し、どうやって和ビンテージアパレルを北米向けにEC展開したかの軌跡を辿った講演内容を聞いた後は、そのイメージは一転し、彼女の芯の強さと行動力に釘付けになりました。
彼女が日本向けに展開しているサイト(http://www.su-mix.com/)を見れば、扱っている商品が「高級昭和レトロなお洋服」であるのは分かります。私も、講演を聴くまでは、そう理解していました。しかし、講演を聴いた後は、彼女が単に服を売ったりレンタルしたりしているのではなく、洋服1点1点に秘められた歴史や文化を体験してもらうことを提供しているのだと分かりました。
彼女が扱う洋服は、主に田園調布に住む、昭和という活気の渦を生きてきたマダムたちから、購入するなり譲り受けるなりして調達しています。その際、マダムたちがそれらの服とともに生きてきた思い出や時代背景などのストーリーも丁寧にヒアリングし、時にはそういったストーリーを添えて販売しています。
そういった、思い出の詰まった洋服を、北米展開する際にはまず、AmazonやEtsyといった、欧米圏に強いネットショッピングサイトで出品します。当然その際、英語でのアピール文が必要となるのですが、ここが彼女流の21世紀型対応。翻訳業者や英語堪能な友人・知人を頼るだけでなく、Google翻訳やクラウドソーシングを駆使して、状況に合わせた翻訳対応をします。
プロモーションの際には、ソーシャルメディアを活用するのですが、アパレルという商品の特性にあったメディア選定は、プロモーションのプロを自負する私でも脱帽ものです。最近日本でも流行っているInstagramで、洋服だけでなく、それを着た女性が歩くのにふさわしい風景の場所を選んで写真を撮影し、それを投稿します。メディアのトレンドにも合わせた手法で言語に頼らず洋服のストーリーも匂わせるという、秀悦の戦術で国境の壁を突き破る彼女は、日本を出ずしてもグローバルな風を吹かせることのできる、パワフルで素敵な女性です。
講演2:「@にっぽん+¥0 〜簡単に実践できる海外マーケティング手法〜(中国編)」
講師:一般社団法人中日口コミ創業者 Vivian Zhao 氏
今の中国の華やかな勢いを女性という形で表現するとしたら、Vivian(ビビアン)氏になる、と言っても過言ではないぐらい、キリッと華やかな彼女の講演内容は、一見すると中国に特化したような内容ですが、実はプロモーションの原理原則をしっかりと押さえた、様々な状況に応用できる堅実なものでした。
どうしても、ウェブを活用したプロモーション、しかもソーシャルメディアといった先進的なメディアを使って、さらに中国で、という話になると、最先端をいく人たちにしか理解できなさそうな話になりがちです。しかし彼女の講演は、彼女がプロモーションの基礎から足元を固めているからこそ最先端にいることができていると感じさせる内容でした。
マーケティングやプロモーションの基本中の基本は、ターゲットを理解することです。ターゲットが今置かれている環境や状況を理解した上でないと、どんなプロモーション手法を用いても、効果的に製品やサービスをアピールするメッセージが届きません。つまり、「今」の環境や状況を理解するということで、裏を返せば、環境や状況は常に変化しているということになります。
座学だけでプロモーションを学んでしまうと、研究しつくされてはいるものの、そのためにかかった時間の分だけ古い考え方を正解と誤認しがちです。そういった誤認でよくあるもののひとつに、AIDMAモデルがあります。これは、アメリカでテレビが普及し始めたころに提唱された消費者行動モデルで、マス広告で商品やサービスの存在を認識してもらってから購入してもらうまでの過程を説明するものです。マーケティングやプロモーションの教科書では、ほぼ必ずといってもいい程頻繁に紹介されるモデルですが、消費者の「今」には、残念ながら即していません。
「今」の消費者は、ほぼ24時間365日インターネットにつながった生活をしていて、テレビ(≒マス広告)は、その合間に観るものになってきています。そんな消費者に対して効果的とされているプロモーション手法のひとつがソーシャルメディアなのですが、実はそれが本質的には何ら新しい手法ではないことが、彼女の講演からよく分かります。
本質的には、彼女が創業した一般社団法人の名称にも含まれている、口コミです。プロモーションに口コミを活用しようという試みは、インターネットの普及よりも少し前から行われ始めていて、我々中小企業診断士にとっても、全く知らない話ではないはずです。インターネットが普及する前の消費者間の口コミは、基本的には対面式で発生していたので、企業がそれをプロモーション目的で活用するのが難しかったのですが、それをやりやすくしたのがソーシャルメディアであるということが、講演内容に散りばめられていました。
口コミをプロモーションに活用することができるようになった今、いい口コミを誘発するための活動が不可欠で、そのためには、ソーシャルメディアの仕組みをある程度理解する必要がある。ちなみに中国では、インターネット規制により日本で馴染みのあるソーシャルメディアが使えないので、注意が必要。といった、分かりやすくかつ有用な内容満載の講演内容でした。まさに今、中国人として日本で活動するという、グローバルビジネスの台風の目のような彼女だからこそ、説得力を持って話せる内容だったと感じました。
パネルディスカッション:
大西澄江氏、Vivian Zhao氏、藤田和重氏(急遽登壇)
ファシリテーター 井村正規会員(中小企業診断士)
パネルディスカッションでは、受講者にとっては「棚ぼた」なハプニングがありました。受講者からの質問を募った際、そのうちのひとつがきっかけで、アライドアーキテクツ株式会社でソーシャルメディアマーケティングの重鎮である藤田和重氏が急遽、パネラーとして登壇されました。藤田氏は、ビビアン氏の招待で来場客として参加していたのですが、受講者からの質問がソーシャルメディアに及んだ際、ビビアン氏に促され、パネラーとして飛び入り参加することになりました。
その結果、北米で成功している大西氏、中国での口コミのプロであるビビアン氏、そして、国内外問わず重要なプロモーション手法であるソーシャルメディアの重鎮の藤田氏と、まさに中小企業が海外展開するためのノウハウが満載のパネラー陣となり、受講者からの質問もひっきりなしとなりました。「パネル」ディスカッションとして始まったのですが、藤田氏の登場により、会場全体のディスカッションのようになり、会場は熱気に包まれました。
このように、盛況のうちに幕を閉じたこのセミナーでしたが、開催後に実施された来場者アンケートでは、セミナー全体の満足度が95%を超え、「具体的」に「お金をかねずに取り組める事例の紹介がよかった」などといった声も届いています。私としては、自らを省みるいい刺激となる内容でした。グローバルな仕事をするためには、国と国との違いを理解して、それに対応することが必要だと考えていました。しかし、私が受け取った講師陣からのメッセージは、違いへの対応は枝葉の問題で、本質を掘り下げていけば、国が違えどやるべきことは一緒、というものでした。
本当のグローバルな風を吹かせるということは、グローバルという単語を使わない思考を持つということなのではと感じた、刺激的なセミナーでした。
■佐藤 一樹(サトウ カズキ)
2013年9月中小企業診断士登録 東京都中小企業診断士協会中央支部所属 国際部
11年の在米経験を経て24歳で帰国後は、15年以上、広告代理店でキャリアを積む。
2015年4月に独立開業後は、ブランディングやマーケティングを中心に、企業の大小を問わず支援。