Global Wind (グローバル・ウインド)

国際部 桶 哲治

 2017年4月に登録した、中小企業診断士になりたての、桶 哲治と申します。今回初めて書かせて頂きました。

9月7日から1週間タイのバンコク行ってきました。目的は2つあり、私が所属している生産管理学会の国際大会で論文発表することと、工場見学会に参加することでした。皆さんの多くがタイ訪問経験をお持ちで、今更改めて書くようなことは無いのではと思ったのですが、初めて体験した国際学会とその会場となったアサンプション大学についてと工場見学で自分として初めて気づいたことについて記載したいと思います。

1.論文を書くきっかけ

まず、私のように書くことの苦手な人間が国際大会で論文発表しようと決意したのは、今年3月にゼミの教授と卒業旅行をかねて今回の国際大会の下見のためタイに行ったことがきっかけです。その際に発表会場のアサンプション大学と工業団地、ジェトロ、工場見学に行き、それぞれが素晴らしくまたタイに来たいと言ったら、先生が英文で論文を書いて発表するなら再度訪問出来ると言われたことです。自分はすぐに先生に書きますと宣言してしまいました。自分にプレッシャーをかけることにより、やらざるを得なくなります。苦手な英語も勉強することになります。自分は追い込まれないとなかなか実行しないタイプですので、こうすることが多いのです。このやり方は私と似た性格の人にはお勧めです。

2.論文を書くメリット

もちろん論文を書くのは大変ですが、自分は論文を書くことで、まずは自分の専門をブラッシュアップすることと、その論文をきっかけにお付き合いのあった会社との距離を縮めることが可能となります。論文作成に協力してもらった会社様に、完成した論文を読んでもらい評価して頂くと、また次の論文の作成につなげることが出来ます。

3.論文発表

私の論文は、技能伝承に関することですが、その内容は別の機会としますが、発表者は、7割以上が日本人で、タイ人や台湾人のかたが3割です。発表は英語で行われ、スライドも英語で作成したものを使います。皆さんよく練習されており、発表は工夫され素晴らしいものでした。しかし、なかには私と同様に、英語の原稿を棒読みのかたもちらほら見受けられました。本番となるとやっぱり緊張するのでしょう。私は、老眼鏡を入国審査場あたりで紛失してしまいました。日本だったらダイソーあたりで100円の老眼鏡で対応するのですが、残念ながらダイソーのようなお店は大学近くになく入手をあきらめました。その結果、原稿がよく見えず発表はぼろぼろでしたが、あとは私の得意な度胸英語でやり過ごした次第です。

4.論文発表会場となったアサンプション大学

発表会場となったアサンプション大学は、タイの有名私立5大学の一つで仏教国には珍しいキリスト教系の私立大学です。構内は大変広く、移動はバスです。建物も写真のように素晴らしく、割とお金持ちが行く大学と聞いていましたがその通りの豪華さです。大学内にはホテルのような宿泊施設もあり私達はそちらに滞在しました。カフェやレストラン、コンビニが構内にあり充実していましたが、バンコクから車で1時間弱かかる田舎なのでそれらがないと学生生活はすこし寂しいかなと思います。周りには学生向けとは思えないようなマンションが建っておりその大学の周りに新しい町が出来ている感じです。

今回の生産管理学会の国際大会の運営にはアサンプション大学の学生が案内役として約30名に協力してもらいました。彼らは日本語学科、経営学、管理工学系の学生で、全員英語が出来、日本語学科の学生も日本語が上手でした。今回は、日本語の勉強と学会発表を見学することを目的としたボランティアだったそうです。ちなみにアサンプション大学では、授業は全部英語で行われているそうで、学生全員英語は問題ないレベルとのことでした。

英語力はあるし、対応も大人ですし彼らの専門である生産管理関連などのこともよく知っていました。日本の大学生と見比べると、日本の将来はどうなるのかとすこし気になりました。

タイの私立大学ですが、まだ20年くらいしか歴史がありません。それまでタイでは国立大学しかなく、私立は短大か専門学校しかなかったとのこと。約20年前に法律が変わり私立大学が設立されることになったそうです。その中でもとくに私立5大学は成長著しいとのことでした。

アサンプション大学全景

アサンプション大学シンボルタワー

工業団地防水壁

タイ大洪水後に作られた防水壁(ナーバナコン工業団地内)

5.工場見学会

工場見学ですが、普通は何かの繋がり無いと一般の人には工場は見せません。ビール会社や食品会社などのようにファン拡大等を目的にして、見せる工場を目指しているところもありますが。しかし、学会や大学などであれば割と簡単に見せる場合があります。今回は、構内の写真撮影を認めてくれるところもあり、大変協力的でした。自分は工場出身なので、他の工場を見ることも大好きです。まして海外の工場となるととても興味があります。

タイでは、大手機械メーカー、大手自動車部品メーカー、半導体関連メーカー、それと中小企業の部品加工工場の4箇所を見学してきました。どの工場も大変きれいに管理されており、5S活動を積極的に推進されており、日本国内の工場と変わらないとの印象を持ちました。

そこで聞いた最近困っていることとして共通しているのは、タイも非常に人材不足であるとのことです。そこで各社共に一般作業者は、簡単に辞めていくので、給与だけではないモチベーションが上がる方法を考えていました。例えば改善提案すると評価が上がる制度の採用などがありました。技術者は、経験を積んで次々職を変わるジョブホッピングする風潮があるが、せっかく育てた社員にこれをやられたら大変です。それを防ぐには仕事を任せることが大切とのことでした。また、タイの女性はよく働くし優秀な人が多いが、男性はあまり働かない人が多いと聞きました。ベトナム、マレーシアでも同様のように聞いたことあります。ですから、女性の活用が大切で、優秀な人は管理職に登用しているとのこと。もちろん日本でも女性を育てることがますます大切になってきています。

ジェトロや工業団地の運営会社アマタナコンでも聞きましたが、中小企業は最初に海外進出する国として、タイは最適であるとの声を多く聞きました。もちろん今タイにいる人の話なので、割り引いて聞く必要あるかも知れませんが、最近進出した中小企業の話しでも同様にタイが良いとのことでした。ご存じの通り日系企業の進出が多く、日本の自動車会社はすべて進出していますし、電気メーカーも殆ど来ています。それに伴い、協力会社も進出しているので、納入先が沢山あるとのことでした。

6.工場見学で気づいたタイ進出で大切なこと

しかし、納入先が進出しているからとか、お客が沢山存在するからとの理由だけで皆さんタイを選んでいるのではないということです。私は、工場の運営を長く担当してきましたので、その経験からの見方が中心となってしまいますが、進出理由として私が聞いた中でもっとも大切と感じたことの一つは、工作機械メーカーのサービスが日本と同様であることです。依頼して早ければ当日、遅くても翌日中には訪問してくれるそうです。故障対応や機械操作の教育が出来る体制が無いと安心して製品が作れません。また計測器メーカーのサービスも日本同様に受けられることも大切です。製品をつくってもそれを評価することが出来ないと、品質保証出来ません。納入先と同じ測定器を持つことが大切とのこと。加えて工場で使う工具類も大切です。工場用品を扱う日本のモノタロウなどと同様のサービスがタイでは既に確立しており、安心とのことでした。工具や消耗品は工場運営にはかかせないものであり、ミャンマーなどの近隣諸国に進出した日系企業の担当者もタイに買いに来るそうです。

今回の工場見学会などのヒアリング内容から考えると、私は、中小企業が最初に海外進出する国としてはタイが一番容易に運営出来る国ではないかと思いました。進出国としてはベトナムやインドネシアが人気であり、最近はミャンマー、ラオスが良いという人も多いですが、中小企業が進出する場合には、工場運営を長く担当してきた自分としては、まずは工場運営が安心して出来るところへ最初に行くべきと思いました。

 

桶 哲治(オケ テツジ) 2017年4月中小企業診断士登録 東京都中小企業診断士協会中央支部所属 国際部  OTアシスト事務所代表

大学卒業後アルミ加工品メーカーに入社し金型設計や生産技術などを担当。その後外資系の建材メーカーにおいて工場の責任者として勤務。生産技術や工場運営を主な仕事としてきました。現在は、技能承継をテーマに勉強中です。