グローバル・ウインド 「意外と知らない宗教食」- ハラルだけでは対応できない今日この頃-(2017年6月)
Global wind (グローバル・ウインド)
中央支部 ビジネス英語研究会 宮武 剛
1.ハラルのことはみんな知っている
私は1999年に診断士登録し、2011年まで企業内診断士でした。その間証券会社、衛星放送局に勤務し、その後事実上独立したわけですが、その後(株)ワールド・ビジネス・アソシエイツに参加し、2013年にはJICA案件でケニア、セネガルでの調査に参加しました。
(①2013年5月 JICA案件でケニアを訪問時、ナイロビのショッピングセンターで)
その間、2020年の東京オリンピック招致が決定したことから、何かオリンピックに絡むことができないかと考え、通訳案内士を受験、英語で2014年に合格しました。ちょうどそのころ、インバウンド観光客の倍増計画が政府によって発表され、通訳案内士のとしての需要も急拡大しています。
私は現在IJCEEという日本最大の通訳案内士団体に加盟していますが、特に最近、話題になっているのが、いわゆる「宗教食」と言われるもので、イスラム教徒の場合、ハラルということはもう一般の人でも良く知られるようになりましたが、宗教的に禁忌の食べ物があるのは、何もイスラム教だけにとどまりません。江戸時代の日本を考えてみればよく分かるように、我々は仏教の影響から明治維新まで、原則肉類を食べなかったわけで、実は東南アジアの仏教徒の中には今日でも禁忌の食べ物を有するひとたちがたくさんいます。
(②インバウンドの外国人と相撲朝稽古ツアーで訪問した八角部屋の隠岐の海関と)
2.かなり厳しいユダヤ教徒の宗教食
西欧人のなかでユダヤ教がかなり厳しい戒律を課していることは以外と知られていません。特に金融機関、マスコミ、旅行、貿易関係者にユダヤ人は多く、世界中にいます。主としてイスラエルとアメリカが中心ですが、ヨーロッパ、オーストラリアにも多くいます。
ユダヤ教で食べてよいものを「Kosher(コーシェール)」と言います。コーシェルには以下の様な特徴があります。
「禁忌の食べ物」
- 豚、馬、ラクダ、ウサギ、犬(反芻しないもの)
- 猛禽類(ワシ、タカ)
- 鱗やヒレのない魚(例:ウナギ、ナマズ、アナゴ、タチウオ、サメ)、クジラ
- 貝類、エビ、かに、タコ、イカカタツムリ
「特徴」
- 肉類はショヘットと呼ばれる屠殺人がユダヤの戒律にのっとり処理したものでないと口にすることはできない。
- 血が付いた肉を食べることは神への冒涜となるため、ステーキはレアでは決して食べない。
- 乳製品と肉料理は同時に食べてはいけないとされており、チーズバーガーは口にしない。肉料理の後は、カフェラテやアイスクリームは口にしない。
- ワインはユダヤ教徒が栽培したブドウを使用し、醸造したものを飲む。(したがって、ロートシルト系は大丈夫となる。)
このような禁忌の食べ物を見ると、我々が日ごろ食べておいしいと思う寿司などは大部分ユダヤ教徒はたべられないし、ウナギはいくら高くてもだせない、ましてユダヤ人の前でクジラの話題はご法度ということになります。
3.仏教の中にも厳しい戒律が
日本では仏教の影響を受けながら日常的に禁忌の食べ物がないため、東南アジアや華僑系の旅行者に戒律の厳しい禁忌の食べ物があることはあまり知られていません。
対象となるのは
(1)大乗仏教;中国、台湾、韓国、ベトナム、ネパール、インド、ブータン
「禁忌の食べ物」
- 中国、台湾;肉、魚介類、卵、乳製品、アルコール、一部の野菜
(五葷:ごくんと読みます。例:ネギ、ラッキョウ、ニンニク、アサツキ、ニラ)
- 台湾(観音信仰);牛肉
(2)一貫道;台湾で盛んに信仰されており、華僑が多いアメリカ、ヨーロッパ、日本、韓国、東南アジアにも一定の信者がいます。
「禁忌の食べ物」
- 肉、魚介類、卵、乳製品、一部の野菜(五葷)
野菜が禁忌とされるのは意外ですが、これらは和食ではみな薬味として利用されるもので、臭いがきついことが特徴です。
4.キリスト教にも禁忌の食べ物があります
キリスト教も以前は特にカトリックは厳しい戒律がもとめられましたが、1966年以降はかなり緩やかになっています。またモルモン教をキリスト教に含めるかは諸説ありますが、ここではキリスト教の一派として扱います。
(1)セブンスデーアドベンチスト教会系;200か国に約1000万人の信者
「禁忌の食べ物」
- 肉、魚、アルコール、コーヒー、お茶(カフェインを含むものはダメ)
(2)モルモン教;アメリカ ユタ州中心
「禁忌の食べ物」
- アルコール、コーヒー、お茶
キリスト教系の禁忌の食べ物にお茶が入っているのは、カフェインが含まれるものはダメということのようです。お茶がダメとなると、お茶の文化を味わってもらえないというのは残念な話です。
こうしてみると意外に、和食なら大丈夫と思っているひとが多いようですが、和食と言っても相手の宗教に十分配慮しないと、せっかくのおもてなしが、かえって相手の気分をわるくさせてしまうことになり、事前に相手の情報を得ておく必要あるようです。
以上
宮武 剛(みやたけ つよし)
証券会社に30年以上従事。その大半を国際金融関係業務に従事。
2001年(株)WOWOWの東証上場で上場担当。
1999年中小企業診断士登録。2015年英語通訳案内士登録。
通訳案内士登録後、一念発起、遠州流茶道に入門、今年無事免状皆伝(宗名:宗賢)。
(③ビジネス英語研究会での筆者)
(④ビジネス英語研究会のメンバーと)
(⑤4月の遠州領許状式にて)