グローバル・ウインド 「リアルマネーを稼ぎ出せ!!超実践型海外インターンシップで得られる価値ある失敗体験」(2017年3月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
「リアルマネーを稼ぎ出せ!!
超実践型海外インターンシップで得られる価値ある失敗体験」
中央支部・国際部 鯉沼和久
「なんかさ、カレーの店って良くね?」
「いつやるの?半年先くらい?」
「でも、それだとアジアの時間感覚とズレてるよねえ・・・」
「んじゃ、明日。明日オープンしよ」
海外就職研究家の森山たつをが、プノンペンのとあるオープン・バーで仲間と交わしたこんな会話が、サムライカレー・プロジェクトの始まりでした。もともとはグローバル・ビジネスにおける日本人の弱点、「すぐ動かない、決められない」ことを克服するための研修を作ろうという集まり。自分たち自身が「爆速」で動かなくてどうする! という気概が、彼らを突き動かしたようです。
みなさま、初めまして。つい先日、中央支部の所属となりました鯉沼と申します。グローバル・ウインドへの投稿も初めてで、私の文体が全体の品位を落としてしまわないか不安で仕方ありませんが、よろしければ最後までお付き合いください。
さて、今回は私の18年来の旧友である、森山たつをさんをご紹介させていただきます。森山さんは、2014年にカンボジアのプノンペンで「サムライカレー」という名前のカレー店を立ち上げました。このカレー店は少し変わっていて、ある一定の時期で経営陣が入れ替わります。しかも、入れ替わりで就任する経営陣のメンバは飲食店で働いた経験がほぼゼロ。あってもアルバイトレベルです。
経営面や運営面で見れば非効率極まりないお話しですが、「サムライカレー」の存在目的とは矛盾しません。なぜならば、そこは森山さんが主宰する、リアル市場とリアル店舗を用いた海外起業体験プログラム「サムライカレー・プロジェクト」の活動拠点だからです。
サムライカレー・プロジェクト立ち上げの背景
森山さんは大学卒業後、外資系IT企業に就職し(私の現勤務先で、森山さんとの接点です)、日本の有名自動車メーカに転職し2年間勤めた後、世界一周旅行を実現し、さらに日本のIT企業での勤務を経て海外就職研究家になられた、という少し変わった経歴の持ち主です。
海外就職研究家として森山さんは、海外(特にアジア)における日本人の就職を後押しするために、そのノウハウを書籍やブログ、セミナー活動を通じて発信し続けてきました。そして、海外の就業経験は今の日本人に足りないものを強化する、つまり、強力なトレーニングになると確信するようになります。やがて海外研修を業とする会社と巡りあい、具体的な活動方針を決めようとしている様子が、冒頭のプノンペンでの会話なのです。
こうして2014年から開始されたサムライカレー・プロジェクトは、2017年4月までに早稲田大学、中央大学、法政大学など64大学に所属する大学生160人以上、社会人経験者も含めれば195 人以上が参加する規模にまで至りました。森山さんは帰国するたびに日本全国を飛び回り、各地の大学などで一味違った海外インターンシップとしてサムライカレー・プロジェクトの説明を行っています。
日本におけるインターンシップの現状
文部科学省、厚生労働省、経済産業省が発行した「インターンシップの推進にあたっての基本的考え方」によれば、日本におけるインターンシップとは「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」であると定義されています。また、文部科学省「『インターンシップの普及及び質的充実のための推進方策について』意見のとりまとめ」には、以下の通り大学が積極的に関与しながらインターンシップを充実させ、世界に勝てる人材を育てることの重要性が述べられています。
●近年の社会状況を見ると、特に大学や産業の国際競争力強化の観点から、大学は次代を支える人材育成のために大きな役割を果たすことが期待 されており、その中でインターンシップは学生が産業や社会についての実践的な知見を深める機会と考えられる。
●このため、「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)においては、我が国の将来を担う若者全てがその能力を存分に伸ばし、世界に勝てる 若者を育てることの重要性に鑑み、インターンシップに参加する学生数についての目標設定や、キャリア教育から就職まで一貫して支援する体制の強化、インタ一ンシップ活用の推進等が提言されている。
出典:「インターンシップの普及及び質的充実のための推進方策について」意見のとりまとめ(文部科学省)
そして、「平成26年度のインターンシップ実施状況(文部科学省)」によれば、推進方策にしたがいインターンシップの実施校が増加するのに対応して、それに参加する学生数も順調に増えていることがわかります。
一方、下表の学部生において、インターンシップ全体の参加率はH24年度の17.9%からH26年度にかけて3ポイントほど上昇していますが、海外インターンシップへの参加率は0.1%で変化が無いことが分かります。大学院生に関しても、傾向としては同じようなことが言えます。
この状況については、「『インターンシップの普及及び質的充実のための推進方策について』意見のとりまとめ」(文部科学省)の中で、以下のとおり対策が求められる重要な事項として認識をされています。
●グローバル人材育成の観点から、海外インターンシップのプログラムの開発・普及を推進する必要がある。その際、海外連携大学における語学研修の実施や、日系企業等現地法人との連携によるプログラムが有効である。なお、海外インターンシップについては、リスク管理、学生へのフォローなど、国内インターンシップ以上に手厚い対応が必要である。
●日本人学生が海外留学中に行う海外インターンシップを推進することも必要である。
●更に、海外インターンシップのプログラムの開発・普及を推進する必要がある。その際、グローバル人材育成の文脈の中で海外インターンシップの役割を明確化していく必要がある。
出典:「インターンシップの普及及び質的充実のための推進方策について」意見のとりまとめ(文部科学省)
このように海外インターンシップの開発・普及の重要性が言われている中で、サムライカレー・プロジェクトは多摩大学において単位付与対象のカリキュラムとして正式採用されることになるなど、その存在価値を確立しつつあります。
サムライカレー研修生はリアル市場を相手にリアル起業、リアル経営、リアル業務を体験できる
サムライカレー・プロジェクトの活動拠点は、カンボジア プノンペンの街中にあるレストラン「サムライカレー」です。このお店は研修生を受け入れるために作られたレストランですので、オーナーである森山さんはここから得られる利益の最大化は求めていません。一番大切なのは利益ではなく、研修生の成長だからです。また、これをサムライカレー・プロジェクトの特色と位置付け、通常の企業の受入れによるインターンシップとの差別化ポイントとして強調しています。
森山さんは、その成長のために、研修生たちには限られた期間の中でたくさんの失敗をして、原因を分析し、解決手段を考え、そして実行する経験を積み重ねて欲しいと考えています。レストラン・オーナー森山さんとして利益を求めることは、このような本来の目的と矛盾することになるのです。なお、研修生が解決手段として自ら設定したチャレンジは、ほぼ否定されることなく実行に移されるそうです。
サムライカレー研修生は、具体的には次の3パートからなる4週間のプログラムを課されます。
●Part1:ミッション型インターンシップ(4日間)
●Part2:実践型インターンシップ(3週間)
●Part3:就活講座(2日間)
それぞれを簡単に見ていきましょう。
【Part1:ミッション型インターンシップ】
研修生の中には海外旅行の経験もない、英語はまったく苦手、という方もいれば、この研修に参加するほどの猛者でありながら人見知りな方もいるのだそうです。そこで、まずは与えられたミッションをこなす事で、外国人とのコミュニケーションに対する心の障壁や苦手意識を払拭し、そしてカンボジア人やプノンペンという市場を知ってもらおうというステップです。
具体的なミッションの例は、カンボジア人スタッフにクメール語で自己紹介したり、街中で現地人や欧米人にアンケート調査を実施したり、自分が生活するために必要なものやお店の備品の買い物をしてくる、などです。
【Part2:実践型インターンシップ】
サムライカレー・プロジェクトのメイン・パートです。2段階に分かれており、1段階目はPart1同様にミッションが与えられます。その内容はPart1のような個別具体的なものではなく、「○日後に開催されるサッカーワールドカップ予選会場で売上××を達成」「○日までに既存の寿司メニューを3倍にして売上××を達成」という事業目標が与えられます。
このタイミングで研修生は、事業目標達成のために4Pフレームワークを含んだマーケティング理論を学びます。(ミッションによっては別のビジネス・フレームワークになることもあるそうです)
ここで効いてくるのがプノンペンという場所です。日本における常識は通用しませんし、情報も不足しています。研修環境としては有意なことですが、研修生にとっては非常に厳しい状況です。Part1で培った勇気と度胸を使ってリアルな情報を入手し、フレームワークを活用し、自分たちがとるべき具体的な施策に落とし込んだら即、行動です。
そして、ここではたくさんの「失敗」が噴出します。
「そもそもカレー店を開いたのにカンボジア人はインドのスパイスが大の苦手だった」
「世界の共通語であるお寿司のカンボジア版を作ってみたら、現地の人は酢飯をまったく受けつけなかった」
「サッカー場で販売したら想定以上の人がいて早々に完売。翌日も売りに行ってみたら出場チームによって客の入りも客層もぜんぜん違っていて、まったく売れなかった」
研修生はこれらの失敗について対策を考え、すぐにそれを実行することを求められます。事業目標の達成に向けて、各自の役割において小さなPDCAサイクルを回すことを経験するのです。
また、この段階で以下のような一連のリアル業務も経験します。まさに企業活動そのものです。
そして、Part2の2段階目は、1段階目の反省を活かして自分たち自身で事業目標を設定し、達成に向けて行動するステップです。ここでは事業目標策定レベルの大きなPDCAサイクルを回すことを体験します。1段階目と2段階目を通じて、事業は大きなPDCAと小さなPDCAが連鎖しながら実行されていくことを学ぶのです。
【Part3:就活講座】
サムライカレー・プロジェクトで得られた経験を、最大限に就職活動に活かしてもらうための技術のインプットとアウトプット演習を行います。海外就職研究家の森山さんの本領が発揮された、かなり実践的な内容です。研修生にとっては、人生最初のキャリアビジョンの策定になるのかもしれません。
就活講座コンテンツ
●経験に基づく自己分析
●やりたい職種の探し方
●志望企業の探し方
●ES(Entry Sheet)、面接で聞かれる質問説明
●作成資料テンプレートの説明
●資料作成、プレゼン
●資料・プレゼン内容講評
●その後のプログラムでやるべきことのディスカッション
失敗体験が生み出すWOW!!が成長の証になる
サムライカレー・プロジェクトは、参加者が失敗を通じて日本でも海外でも通用するビジネスパーソンに成長することを目的としています。そしてそれは、文部科学省が考えるインターンシップの目的にも合致するものだと言えます。
一方、就活の側面でいえば、失敗話はインターンシップの経験を採用面接官に魅力的に伝える重要な要素となりえます。「WOW!!その失敗、どうやってリカバーしたの?」と面接官が驚き興味を持つ体験があればあるほど、自分の能力や成長をシンプルに伝えることが可能になるからです。
ところで森山さんによれば、研修の地としてプノンペンを選んだ理由は、①物価が安く研修費用も低く抑えられ、②日本人の医師がいる病院やイオンモール、そしてたくさんの日本食レストランがあり研修生の健康が維持管理しやすいから、だそうです。「簡単には攻略できない市場だけど、安心してたくさん失敗してくださいね」と言っているのかな、と理解しました。
最後に
森山たつをさんの紹介をしようと思っていたら、サムライカレー・プロジェクトの宣伝になってしまいました。ただ、それでも良いかなと思っています。森山さんは、実際に会うと非常に温厚な性格で、人生楽しまなきゃというオーラを消極的に(押し付けがましくなく、の意)発しています。ただ、色々と彼なりに苦労をしてきたはずで、それが就活に悩む若者にヒントを与えるという、今の仕事へ突き動かされた背景だと私は理解しています。つまり、サムライカレー・プロジェクトは彼の生きざまを投影したものだと思っています。
そんな彼を、私は1友人として、1ファンとして、そして株式会社スパイスアップ・アカデミア 森山たつを代表取締役の仕事ぶりに共感を覚える中小企業診断士として、応援し続けたいと思っています。
■鯉沼 和久(こいぬま かずひさ)
東京都出身、早稲田大学理工学部卒。NECにて製造業向け業務パッケージシステムの企画開発、販売、導入にかかわった後、日本オラクルでERP製品の販売、導入に従事。2010年中小企業診断士登録。
事業承継士、ITストラテジスト、システムアーキテクト、ITサービスマネージャ