グローバル・ウインド スリランカ視察ツアーの報告(2016年12月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
スリランカ視察ツアーの報告
「光り輝く島」スリランカに日本は大恩あり
スリランカとは「光り輝く島」という意味ですが、日本と同じ島国であり、とても友好な関係にあります。その歴史は古く第二次世界大戦後にさかのぼりますが、当時は敗戦国日本に対して、世界各国が領土分割案や戦後賠償についての議論を行っていました。そのような状況下で、スリランカの財務大臣であったジャヤワルダナ氏(後の大統領)の言葉により日本は救われます。
「日本がアジア諸国民の中で唯一強く自由であった時、我々は日本を保護者として、また友人として高い尊敬の念を抱いていた」「憎悪は憎悪によって止むことは無く、慈愛によって止む」といったスピーチとともに、スリランカ(当時のセイロン)は日本に対する賠償請求を放棄する宣言を行い、各国の賛同を得たことで、日本が国際社会に復帰できることとなりました。
当時の吉田茂首相は、「後世までこの大恩を忘れてはならない」と発言したそうですが、その通りだと思います。現在のスリランカの首都である、スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ(何度聞いても覚えられない)は、世界一長い首都の名前と言われますが、ジャヤワルダナ大統領の功績をたたえて命名されたそうです。
紅茶だけではないスリランカ
インドの南に位置するスリランカ民主社会主義共和国は、人口約2000万人、シンハラ人、タミル人、スリランカ・ムーア人などで構成される、北海道の8割くらいの国土面積を持つ国です。1人当たりGDPは増加を続けており、高い成長率を見せていますが、貿易収支はいまだ赤字であり、財政赤字も慢性化しており、導入している付加価値税を11%から15%に引き上げたところです。
今回の視察では、JETROコロンボ事務所、JICA(独立行政法人国際協力機構)コロンボ事務所のほか、スリランカ商工会議所(CCC=The Ceylon Chamber of Commerce)、スリランカ投資委員会(BOI=The board Of Investment)などを訪問しました。それぞれの視点から、スリランカの経済や企業の状況、文化などの話を伺うことができて、とても興味深かったです。
輸出で最も多いのはアパレル関係で、NIKEやVICTORIA(下着)などの製品製造を担っており、次いで紅茶、ゴム製品と続いています。産業として好調なのはIT(BPO)であり、海外からの受託案件が増えているようです。近年の成長のけん引役はサービス業であり、流通、交通、通信、金融等の伸びが堅調だそうです。
写真1:高層ビル建築が増えるコロンボ
スリランカ投資委員会(BOI)訪問
スリランカ投資委員会は、海外投資彩企業の投資を支援する窓口業務をこなす組織です。問い合わせへの対応から、事業認可、モニタリング、アフターケアまで投資家のサポートを行っています。それはBOI法(スリランカ投資委員会法)に基づいて設置されていますが、スリランカは30年前に、南アジア諸国の中で初めて経済自由化を導入したそうです。その投資関連法は、海外直接投資の活性化を目的としており、とても透明性が高いことが特長です。
BOIの方々にスリランカが投資先として優れているポイントを聞いてみました。
・海路で世界の大陸を結ぶ中間点である戦略的な地理的条件
・開放的な貿易や投資促進の政策と産業重視型の政府の存在
・近代的な港湾や空港など整備されたインフラ環境
・学習能力が高く平均年齢が若い優秀な人材が豊富
・快適な居住環境や先進的な医療など生活の質の高さ
などがあげられました。日本からのODAの投資は断トツで1位ですが、民間ベースでの投資は12位だそうです。これからは日本企業からの投資も増えると思われます。
写真2:BOIが入っているワールドトレードセンタービル
スリランカ商工会議所(CCC)訪問
スリランカ商工会議所は日本の商工会議所と同じような役割を担っており、人材育成などにおいて日本商工会議所や一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA)との交流も行われているそうです。CCCの方のプレゼンテーションでは、スリランカの産業がどのように推移しているか、農業・工業・商業といったセクター別の動向など、現状がわかりやすく説明されていました。
写真3:CCCでの会議風景
JETROコロンボ事務所訪問
日本企業の海外進出をサポートするJETRO(日本貿易振興機構)では、日本企業の進出状況などを伺いました。ここでは伺ったいくつかの事例を紹介します。
・イデ貿易はココナッツから作ったタワシに加工して、日本のホームセンターや100円ショップで販売している。
・伊藤スプリング製作所は、自動車部品を製造して、日本をはじめ欧州・アジア・中米の中間地点に位置するスリランカから輸出している。
・文具メーカーのパイロットは消せるボールペン(フリクション)などを前面に押し出して、ブランド浸透を図っている。
・シュークリームの「ビアードパパ」を運営する麦の穂は、コロンボに1号店をオープンして、日本企業のフランチャイズ初のスリランカ進出。
・高級食器を生産するノリタケは、コロンボに旗艦店をオープンして、インド・パキスタン・マレーシア等の富裕観光客に展開して拡大している。
写真4:JETRO入口 写真5:JETRO会議風景
JICAコロンボ事務所訪問
JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力を行っています。「すべての人々が恩恵を受けるダイナミックな開発」というビジョンを掲げ、多様な援助手法のうち最適な手法を使い、地域別・国別アプローチと課題別アプローチを組み合わせて、開発途上国が抱える課題解決を支援しています。
写真6:JICAの会議風景
スリランカと日本のつながりが感じられたツアーでした。
■原 正紀(はら まさのり)
株式会社クオリティ・オブ・ライフ代表取締役、株式会社沖縄QOL代表取締役、株式会社スマートバリュー社外取締役、一般社団法人留学生支援ネットワーク理事、高知大学客員教授、成城大学非常勤講師、委員、講演、執筆多数。早稲田大学法学部卒業後、大手メーカーを経てリクルートへ入社し、産学官への提案活動を行った後に起業。これまで2000人を超える経営者と面談をしている。中小企業診断士。