グローバル・ウインド ウェブ解析を中国ではじめてみました(2016年12月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
ウェブ解析を中国ではじめてみました
はじめに
企業規模にかかわらず、自社のウェブページをインターネット上に掲載することはもはや当たり前のことになっています。ただ、その手段(ウェブページの掲載)と目的(ウェブページによって達成したいこと)がしっかりリンクしているかというと、企業規模によってかなり差があるように見えます。この差はすなわちウェブ用にどれだけ経営資源を配分できるかという差と言ってもいいでしょう。
しかし、最近では安価なウェブ解析ツールを導入することによって、中小企業でもウェブページを戦略的に活用する例が増えてきました。日本国内にかかわらず、中小企業の海外展開においても、ウェブページを戦略的に活用することが求められています。筆者は今年、中堅B2B企業の中国現地法人のウェブ解析立ち上げに関ることができました。この経験から気づいたことを少しご紹介したいと思います。
1.ウェブ解析とウェブ解析ツール
ウェブ解析の普及を進めている社団法人ウェブ解析士協会(WACA)によると、ウェブ解析とは「アクセス解析のデータや視聴率調査のデータ等様々なデータを活用して『事業の成果につながる』ためのPDCAを回すことを」と定義されています。(WACA・HPより)
つまり、単にウェブページを掲載するだけでなく、そのページへのアクセス(これを流入と呼びます)を分析し、ウェブページや企業活動を改善することによってユーザー認知の拡大や売上の向上といった事業成果につなげるための活動のことで、これを実現するためのツールがウェブ解析ツールです。ウェブ解析ツールで最も有名なのはgoogleが提供している「google analytics」です。無料で使用できるだけでなく、ウェブ解析のための機能も充実しているため日本でも幅広く利用されています。
2.中国でのウェブ解析
A社は食品原料を製造する日本のB2B企業の中国現地法人です。もともとは日本向けの食品原料加工をメインに行っていたのですが、中国国内の購買力向上を受けて中国の食品企業向け商品の製造販売を開始しました。そのタイミングで中国国内向けにウェブページを作成したのですが、作成し掲示しただけではその効果が見えないのでウェブ解析ツールを導入しようということになったのです。
最初に思いついたツールはやはり「google analytics」でした。しかし良く知られている通りgoogleと中国の相性に大いに不安がありました。そこで、まず各社がどんなツールを使っているか調べてみました。
企業名(英語名) : 使用ツール
万维家电网(ea 3W)(中国系):百度統計
奇珀网(7po)(中国系):百度統計
中国家电网(cheaa.com)(中国系):百度統計
松下电器中国官网(Panasonic)(日本系):Google Analytics
美的官网(Midea)(中国系):Google Analytics、百度統計
佳能中国官网(Canon)(日本系):Adobe Analytics
索尼中国官网(Sony)(日本系):Adobe Analytics
数码之家(MyDigit.cn)(中国系):百度統計
TCL集团官网(TCL)(中国系):Google Analytics、百度統計
格力官网(GREE)(日本系):Google Analytics、百度統計
飞利浦中国官方网站(PHILIPS)(欧米系):Adobe Analytics
引用元:http://china-today.hatenadiary.com/entry/2015/06/19/130000(一部変更)
これらは中国でのシェアが高い家電メーカーが自社ウェブサイトの解析にどのツールを使っているかを調べたものです。
Panasonic、Canon、Sonyといった日系企業や欧米系企業のPHILIPSは「Google Analytics」や「Adobe Analytics」を利用していることが分かります。一方、その他の中国企業は大手検索エンジン百度(baidu)が提供している「百度統計」を使っていることが分かります。
Google AnalyticsやAdobe Analytics、百度統計のツールはいずれも所謂「ビーコン型解析ツール」と呼ばれるものです。「ビーコン型解析ツール」とは、外部からウェブページにアクセスがあると各ウェブページに埋め込まれたトラッキングコードが反応し、googleや百度が管理する解析用のサーバーに各アクセス情報が送られ蓄積されるものです。よってウェブ管理者が解析結果を見るためにはgoogleや百度のサーバーにアクセスする必要があります。中国国内からGoogle AnalyticsやAdobe Analyticsのサーバーにアクセスするには時間がかかったり、時にはアクセスそのものができなかったりするため、「解析を海外で行うときはGoogle Analyticsや Adobe Analytics、中国で行うときは百度統計を利用」するパターンが多いようです。
A社は百度統計を導入することになりました。将来的には現地の中国人スタッフにPDCAを回してもらえるように、という思いが強かったためです。
3.百度統計の導入
という経緯でA社は百度統計を導入しました。導入にはまずアカウントを作成する必要がありますが、google analyticsと同様無料で作成可能です。アカウント作成ページからユーザー名、パスワード、メールアドレス、ウェブページのURLを記入し、ウェブページのカテゴリを選択すると解析用トラッキングコードが表示されます。ここまではgoogle analyticsとほぼ同じ。更にgoogle analyticsと同じようにこのトラッキングコードをウェブページの全てのページに貼りつけます、これで準備完了です。筆者も百度統計を実際に使うのは初めてだったので興味深くデータを見てゆきましたが、基本的な機能はgoogle analyticsと変わりないように感じました。
①全部来源(流入サマリー)
1ケ月間のウェブページへの流入サマリーです。期間内のページビュー、訪問者数の他、流入元を直接訪問(ブラウザの「お気に入り」や直接URLを打込んでの流入)、探索引撃(百度などの検索サイト経由)、外部連接(外部ページのリンクからの流入)に分けて表示されています。
②受訪頁面(訪問ページ)
Google analyticsでは行動サマリーと言われているものです。ページごとのビュー数と訪問者数、更に退出率(そのページから外部に出ていった割合)が分かります。
③その他
これ以外にも、検索キーワード分析(検索サイトでどのキーワードで検索されての流入なのか)、流入元地域分析(どの地域からのアクセスが多いか)、使用デバイス(PCかモバイルか)、男女・年齢推定分布などGoogle analyticsでも分かる基本的な情報はほぼカバーできていると思います。
4.中国ならでは?
ところで、まだ短い期間ですが百度統計を使ってみて日本と中国のウェブ事情の違いに気が付いたことがあります。
ひとつは利用ブラウザの多さです。
これはPCからの流入で利用されているブラウザ一覧の一部です。最も多いブラウザがgoogle chromeだったのには驚きましたが、それより驚いたのはブラウザの種類の多さです。これ以外にも10種類ほどのブラウザが使われており、今後ウェブをデザインするときにどのブラウザを想定するかは非常に悩ましいと感じました。
ふたつめは「妙な流入の多さ」です。
話は少し逸れますが、今日本では「MA(マーケティングオートメーション)」という概念に基づくシステムが流行しつつあります。Google analyticsに代表される安価なツールが、流入の合計を線や面で捉えるのに対して、MAの世界では一つ一つの流入元を人格のある個として捉えてゆこうという試みです。そのためにコストはかかりますが、流入元に対するアクションが具体的になり、成果につながりやすいという考え方で、とりわけB2B企業に注目されるようになりました。
このMAが成立するのは以下のことが前提になっています。
「働いている人はみんな忙しい」「意味のない流入などない」
つまり、仕事中にインターネットを見ている人は、暇だから見ているのではなく、必要に迫られて見ているという考え方です。仕事上の困ったこと、解決したいことがあるのでウェブを見ているわけなので、あるウェブページにたどり着いたのは決して偶然ではなくそのページに困ったことのソリューションの種があると思って見ていると考えます。よって流入してきた人は本気でそのウェブページを見ていると考えるので、意味のない流入などありえないということになります。(更にはZMOT(「Zero Moment of Truth」の略で「店舗に訪れる前の意思決定の正念場」のこと)などの概念も根拠になっていますが、ここでは触れません。)
ところが、中国で流入元を見ていると、どう考えても意味不明の流入があったりします。A社の例で言うと、実は流入の約半分が特定の外部リンクからの流入でした。(流入サマリーで外部連接が圧倒的に多かったのはこれが原因です。)この外部リンクが何のために貼られ、どういう意図をもってクリックされているのかを調べたのですがが、どうしても分かりませんでした。こういった「ノイズ」を外しながら解析を進めないといけないことも分かって来ました。
5.おわりに
このようにまだまだ使いはじめたばかりの百度統計ですが、少しずつ色んなことが分かってきました。もっと使いこんでGoogle analyticsにあるようなクロス分析などもできるようにしてゆき、事業の成果に結びつけたいと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
■佐藤 圭昭(さとう よしあき)
2001年中小企業診断士情報部門登録。東京都立大学卒。上級ウェブ解析士。
食品原料を製造販売する中堅企業に勤務する企業内診断士です。