グローバル・ウインド 南ア便り第5号(2015年11月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
南ア便り第5号
西アフリカでエボラ熱の大発生があり、2千人を超える記録的な被害となっています。地理的には遥か遠くの話題ですが、地続きなので、南アフリカでも警戒態勢には神経をとがらせているようですが今のところ罹患情報は入っていません。また先週には南アフリカ国内に囲まれた、レソト王国でクーデターが発生したようですが無事治まったようです。
今、南アは春の季節を迎えました。朝晩の冷えはまだ感じますが、間もなく一挙に暑い季節と雨期に入り、スコールのような雨が降るのだということです。9月に入りいよいよ残すところあと3週間となってしまいました。今回は現地の人たちとの仕事に対する姿勢について触れてみたいと思います。
南アの人達(田舎でと予めお断りしておきます)の気性について、一言でいうなら、とても怠け者、でもとても親切と言えるかと思います。
批判することは簡単ですが、この国の人達が歴史的にどういう差別にあってきたか、その結果今も征服者である白人系の人種が富を独占している実態、そして現在も相変わらず経済的には発展途上国にあり、国連のMDG(21世紀開発プロジェクト達成目標)の1人当たりの生活レベル、失業率でみる限り、若人に何とか気概を持たせて、「一生懸命働けばいつかは報われる」という夢(かつてのアメリカンドリームでしょうか)を持てないものかとも思うのですが、この考え方を伝えるには、歴史、宗教、教育といった背景を紐解く必要がありそうです。
このことは、何も南アに限ったことではなく、株主資本主義に洗脳されてしまっている日本にも重くのしかかっていることだと認識しています。日本のかつての美学は遠くイギリスでも尊重されてきたのに、いつのまにかアダム・スミスの資本論の背景にある社会還元思想も捻じ曲げられてしまっているように見えます。
それでも現在、世界の自動車産業が7社現地生産を開始していて、日本ODAのプロジェクトも、民間企業と同調して自動車関連のみならず数十社ほどが、アフリカ53(?)ヶ国に対しての投資を開始しています。ケープタウンを寄港としたマグロ漁業や水産資源は日本の商社を通じて結構の量が食卓に上っていますね。
一方、読者から異なる観点でのご質問をいただいていて、日本のODAは健全にこの発展途上国の長期的な貢献に結び付いているのか?具体的には一部の資本投資によって、寧ろその利益を収奪され、結果的には現地の国民に還元されていないのではないかといった内容でした。
これに対する答えを私が述べることは困難ですが、例えばこんな事例は如何でしょうか。
どこの国か記憶にはありませんが、砂漠地帯で水資源に乏しい国で、地下水を汲み上げる技術を投入することは簡単だが、それを敢えてせずに、水車のような仕組みを利用して手掘り式の井戸を掘る技術を教える活動をしている人々がいます。手っ取り早いのは機械や技術を導入して実現することでしょうが、こういった方法では、やがて機械や仕組みの故障が起きた時に、保守をできる資金も技術もなく結果的に埃をかぶって放置されているというものです。この事例は、私もかつての中国で、そしてこの国でも経験しています。
ODA(JICAボランティア)の活動では、多くの活動の主軸を若い人材育成に置いています。このことで将来の任地の若い原動力を育てようという狙いには賛成です。経済もかつての日本のような成長率は望めないでしょうが(これは世界的な趨勢なのでやむを得ないでしょうが)時間をかけて少しずつ改善されていくことを期待するばかりです。
私の職場を通じての必要な改善プログラムは;
・5S(少なくとも整理整頓)運動
・時間管理
・計画性
・仕事への責任感
・マネジメントシステムの徹底
でしょうか。残念ながら、今回の活動中にこれらの課題は求められていなかったし、このことは上層管理者にも理解されていないと思うのですが、いずれはこの改善なしでは組織の成長には結びつかないと思います。
以上、難しい話題になってしまいましたが、世界の多くの国がこの問題に取り組んでいて、これを日本が支えることは、これからの世界が目指す平等という価値と、持続可能な成長に繋がるということに、私たちは目を向ける必要があるということをお伝えしたいと思いました。
■五十嵐 至(いがらし いたる)
大学卒業後、日本IBMに勤務。中国駐在などを経て、2000年に50歳で早期退職して郷里山形県米沢市に帰郷。国際協力機構(JICA)の短期シニア海外ボランティアとして2014年4月から南アフリカ共和国に派遣されている。職種はPCインストラクター。