Global Wind (グローバル・ウインド)
サウジアラビア留学生卒業式に出席して

中央支部・国際部 油谷 博司

サウジアラビア留学生卒業式の様子
 少し前になりますが,本年の3月13日(木),ホテル日航東京でサウジアラビアからの留学生の卒業式に招かれ出席する機会を得ました.現在の勤務先で全ての講義を英語で行うMBA(経営管理修士(専門職))課程を提供していますが,本年の3月に4名のサウジアラビア人留学生にMBAが授与されたため,招かれた経緯にあります.
 この卒業式は,サウジアラビア政府の奨学金であるアブドラ国王奨学金プログラムで奨学金を受給している留学生が,日本で学士・修士・博士の各学位を取得したことを祝うために,サウジアラビア大使館文化部が主催したものでした.約60名の留学生が招かれ,サウジアラビア駐日大使,大使館文化アタッシェからの各祝辞の他,日本側からは大阪工業大学学長が祝辞を述べた他,麻生副総理,下村文部科学大臣,野依理化学研究所所長,および元宇宙飛行士の毛利衛氏からの各祝電が披露されました.また,最後には卒業生の代表が流暢な日本語で答辞を述べました.
 卒業式の後に行われたレセプションでは,在学の留学生や大学関係者,サウジアラビアにゆかりのある人々が多数加わり,盛況でありました.
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          レセプションでの記念撮影の様子
日本の中のサウジアラビア人留学生
 ところで,日本に来ている外国人留学生というと,一般にどのような学生がイメージされるでしょうか?独立行政法人日本学生支援機構の『平成25年度外国人留学生在籍状況調査結果』によると,「留学」の在留資格(いわゆる「留学ビザ」)を取得している外国人学生数(留学生総数)は,2013年5月1日現在168,145人となっています.その内,日本の大学等に在籍する留学生数が135,519人,日本語教育機関に在籍する留学生数が32,626人となっています.出身地域別に見ると留学生総数におけるアジアからの留学生は約93%,大学等の留学生では,約92%がアジアからの留学生です.つまり,日本に来ている外国人留学生の殆どはアジアの国々から来ています.出身国別では中国からの留学生が最も多く,留学生総数中約58%,大学等の留学生中では約60%が中国人留学生です.
 今回話題のサウジアラビア人留学生についてみると,上述の調査結果によれば,2013年5月1日現在の留学生総数に対して中東からの留学生は約0.8%,大学等の留学生数に対しては約0.9%となっています.サウジアラビアからの大学等の留学生は,472人(約0.3%),またサウジアラビア大使館文化部によれば,現在日本に滞在するサウジアラビア人留学生はおよそ650人程度とのことで,これは2013年5月1日現在の留学生総数の約0.4%に相当します.残念ながら,日本在籍の外国人留学生の中では,サウジアラビアからの留学生は極めて少数であると認めざるを得ません.
 それでも,少ないながら,サウジアラビア人留学生は日本で存在感は示しているようです.東海大学のソーラーカー・チームのメンバーとして2013年のオーストラリアでのレースにおいて準優勝したり,日本の小学校を地道に訪問してサウジアラビアの文化を紹介する活動を行ったり,それぞれが何らかの目に見える形で貢献をしているようです.
サウジアラビア王国の留学制度
 アブドラ国王奨学金プログラムで日本に来ている留学生は,いわゆるサウジアラビアの国費留学生に当たります.このプログラムは,サウジアラビアの人材開発,また世界の技術・ノウハウの吸収を目的として,2005年にスタートしたとのことです.それ以前にも留学支援のための奨学制度はあったようですが,欧米中心の留学支援で,しかも修士や博士が中心であったようです.それをこの新しいプログラムにより留学生の人数や派遣地域を大きく拡充し,現在では,およそ40ヵ国に15万人を派遣しているとのことです.
 本プログラムを利用した日本への留学は, 2006年の20人から始まり,現在およそ600人が本プログラムを利用して日本に滞在しているとのことで,サウジアラビア人留学生のほとんどが本プログラムによる留学生ということになります.専攻分野は,理系分野がおよそ8~9割程度,そして残りがビジネス関係で,現在40以上の大学・大学院で学んでいるとのことです.また,勉学だけでなく,就職サポートにも力を入れており,先述の卒業式の隣の会場では,就職フェアも同時に開かれて,日本企業約30社が参加したとのことです.更に日本企業でのインターンシップの機会も提供しているとのことです.
 日本で学ぶことのサウジアラビアにとってのメリットは,一つには先進テクノロジーを学ぶことができる点にあるだろうと推測されましたが,サウジアラビア大使館文化部からは,その他に日本人のマナーが学べることもメリットであるとの言葉が返ってきました.日本人の良いマナーが日本の強さの一つと認識されているようです.日本人の時間を守る点や丁寧で正確な応対・仕事などが評価されているようです.
日本とサウジアラビアとの留学を通した協力強化に向けて
 サウジアラビア人留学生が日本で学ぶことのメリットを認識し,近年日本への留学の増加率が最も高いとのことで,2020年の東京オリンピックに向けてますます注目度が高まることが期待できます.しかしながら,サウジアラビア政府の奨学金を得て日本に来る留学生は,サウジアラビアでも15万人の内のわずか600人程度であるという事実も認識すべきでしょう.15万人の内10万人以上がアメリカに留学しているそうです.残りのおよそ5万人を40ヵ国で分けるとしても,単純平均で1ヵ国当たり千人程度になり,それでも平均以下です.
 言語の問題があるのは確かであると考えられます.幸い今までのサウジアラビア人留学生は,日本語スピーチコンテストで賞を受賞したり,先述のように日本語で立派に答辞を述べたりなど,日本語能力が高い学生が多いようです.逆に,そういう学生しか日本に留学しないために,先のような数字になってしまっているとも言えるでしょう.賛否はあると考えますが,外国人に対する日本語教育の充実のみならず,英語教育の充実もひとつの改善策であるように思われます.
 日本人のマナーや仕事のやり方が強さと評価されているのであれば,それを生かした教育機会を提供することも必要でしょう.日本企業でのインターンシップはその良い機会になる筈です.日本でのインターンシップの機会は,採用の一助として増えてきているようですが,時期や期間の面でまだまだ限られるのが現状のようです.外国では教育課程の一部としてインターンシップが利用されている国もあるようです.教育は学校や大学などの教育機関のみが行うのでなく,企業も含めた社会全体で行うという認識をもつことが今や求められているように思われます.
油谷 博司(ゆたに ひろし)
慶應義塾大学経済学部卒.2007年中小企業診断士登録.29年間銀行勤務後,現在関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授.