Global Wind (グローバル・ウインド)
中国遼寧省大連市を訪ねて

中央支部・国際部 伊藤 慎時

1 はじめに
 2014年7月に中国遼寧省の大連市を訪れました。大連の街の様子やその時に感じたことをお伝えいたします。
2 大連市概況
 大連市は遼東半島の最南端に位置しており、人口約600万人を有する中国東北地方の港湾都市です。市内中心部にはロシア風の家屋や日本統治時代の建築物が数多く見られ、ノスタルジックな雰囲気が漂っています。その一方で、大連駅の南側には高層ビルが立ち並び、近代都市の一面を見せています。市内郊外には、日露戦争の激戦地となった旅順や国内有数の経済開発区である大連経済技術開発区があります。近代史のワンシーンからグローバルなビジネス環境までを同時に体感できる都市といえます。
 01_ロシア風情街を眺めて.jpg   02_大連駅南側の高層ビル群.jpg
      ロシア風情街を眺めて            大連駅南側の高層ビル群
3 主な訪問スポット
 今回、私が訪問したスポットを3つご紹介いたします。
(1)大連経済技術開発区
 大連経済技術開発区は、1984年に設立された中国を代表する大規模な工業団地です。経済技術開発区とは、1980年代の改革開放政策の一環として設立された経済特別区域です。進出企業に対しては、税制面などのインセンティブを与え、海外からの投資を積極的に誘致しているエリアです。
 世界約50の国と地域から約2,600社の企業が大連経済技術開発区へ進出しており、そのうち日系企業は約3分の1を占めています(大連金州新区・大連経済技術開発区「投資案内2012」参照)。市内中心部から北へ約20キロの場所に位置しており、大連駅から快軌3号線(鉄道)を利用すると、約40分で行くことができます。
 大連経済技術開発区には、企業の事務所や工場だけではなく、大型の商業施設が集積する商業エリアや数多くの高層住宅が立ち並ぶ住宅エリアが存在します。特に、メインストリートである金馬路周辺は、大変賑わっています。
 私は開発区の歴史や概要を調べようと思い、開発区展示センターと開発区図書館内にあるギャラリーを訪問しました。しかしながら、両方とも建物に看板はあるものの、建物の中へ入ると、そこはもぬけの殻の状態でした。近くにいた現地の人に事情を聞いてみましたが、「没有(メイヨウ:ありません)」との返答がありました。今となってはこれらの施設が移転したのか、廃止となったのか、詳細まではわかりません。予定外の出来事でしたが、この程度のことをトラブルと感じてしまうと、何も行動ができません。開発区図書館を見学した後、気を取り直して、開発区内を散策することにしました。
 夕方の5時頃にさしかかると、周辺の工場から多数の労働者が外へ出てくる光景に
遭遇しました。まさに帰路につくところのようです。迎えを待つ者、足早に帰宅する者、同僚と談笑する者、と様々でした。1日の仕事を終え、安堵の表情を見せていた人々の姿がとても印象的でした。
 03_メインストリートの金馬路を眺めて.jpg  04_数多くの高層住宅建設が進む開発区内の住宅街.jpg
   メインストリートの金馬路を眺めて      数多くの高層住宅建設が進む
                                 開発区内の住宅街
(2)労働公園
 市内中心部にある広大な敷地を有する公園です。面積はなんと約100万㎡もあるそうです。山頂にある大連電視台のテレビ塔を眺めることもできます。多数の市民が憩いの場として利用しています。
 その中で、私の目を引いたのは、地面や木など至る所に見られる貼り紙です。よくよく見ると、単なるチラシではありません。内容は性別、年齢、収入、経歴、性格、健康状態、相手への要望・・などなど。よくよく見ると、なんと結婚相手を募集する内容でした。
 また、さらに驚いたことはそれらのチラシを眺めて、熱心に情報交換をしているのは、明らかに本人ではなく親世代の方々です。それは市場にも引けを取らない熱気でした。偶然ながらも中国の婚活を垣間見る機会を得ました。お国柄が違えば、婚活の内容も大きく変わることを実感するワンシーンでした。それ以外にもトランプを楽しむグループや談笑する人々など、それぞれが土曜の昼下がりを楽しんでいるように見えました。
 中国では、公園がひとつのコミュニティを形成しており、市民生活の中で、非常に大きな役割を果たしていると感じました。以前、ベトナムやタイを訪問した時に、早朝5時頃から多数の人々が公園に集まり、朝のゆっくりした時間を過ごしている光景を目の当たりにしたことがあります。海外へお出かけの際は、ぜひその街にある大きな公園を訪問されてはいかがでしょうか。きっと、人々の生活の日常を垣間見ることができると思います。
 05_労働公園.jpg   06_チラシを眺める人々.jpg
          労働公園                  チラシを眺める人々
(3)大連駅周辺の商業エリア
 大連駅から南側へ少し歩くと、数多くの商業施設が集積しているエリアにたどり着きます。マイカル大連、太平洋百貨、大連商場、久光百貨など大規模な商業施設があります。また、勝利広場周辺の地下には商店街が張り巡らされています。このエリアだけでも、丸1日楽しめそうな程のボリュームがあります。
 また、大連駅の北側には、大菜市と呼ばれる大きな市場が広がっています。駅の南側と大きく変わり、ローカルな雰囲気が漂っています。野菜などの食材や日用雑貨などのお店が並ぶ中、トイレットペーパーを専門に取り扱うお店が数多くあったことは、大きな驚きでした。私たちが普段、使っているトイレットペーパーとは違う用途があるのかもしれません。日常とは異なる光景を観察しながら、ひとりでいろいろな考えをめぐらせていました。公園と同様、地元のスーパーや市場を訪れると、人々の生活を垣間見ることができます。
               07_商業施設が集積している栄盛街.jpg
                 商業施設が集積している栄盛街
4 おわりに 
 短期間の滞在でしたが、大連市の現状の一端を垣間見ることができました。空港を出た途端から、英語が全くと言っていいほど通じず、中国語の簡単フレーズ集と筆談のみで行動することになりました。滞在中、現地の人々との会話の中で、一番多く聞いた言葉が「没有(メイヨウ:ありません)」でしたが・・・・・。それも今となっては良い思い出です。語学も大切ですが、それだけでは、現地でのコミュニケーションがうまくいくわけではないことも肌身で学びました。
 少しでも、言葉や文化を学んで、現地の人々とコミュニケーションを図りたいと思う気持ちが大切だと強く感じました。そのような気付きを意識しながらも、海外のスーパー、市場、公園めぐりといったフィールドワークは、私のライフワークになりつつあります。
伊藤 慎時(いとうしんじ)
2011年中小企業診断士登録。公益財団法人日本生産性本部認定経営コンサルタント。
経営学修士(東北大学)。企業内診断士として海外展開とコミュニティビジネスに関心を持ち、活動中。