Global Wind (グローバル・ウインド)
『ラオスの富裕層市場』

青津 暢

 IMFによる2015年10月時点の推計によると、ラオスの人口は約700万人、一人当たり名目GDPは約1,785USドルである。これを都市部と農村部の人口比率 で推計しなおすと、都市部での一人当たり名目GDPは約2,963USドル、農村部では約1,075USドルとなる。一方、物価水準を考慮した購買力平価に基づく一人当たりGDPは、約5,334USドルであり、都市部では約8,854USドル、農村部では約3,213USドルと推計される。
 一人当たりの平均所得は1,800USドル弱であるが、物価水準を考慮した購買力平価基準では5,000USドルを超え、一概に所得水準が低いとは言えない。また、購買力平価基準による都市部の所得水準は8,800USドル超であり、都市部と農村部では約2.7倍の所得格差がある。さらに、首都ビエンチャンの人口約80万人のうち世帯年収3万ドル前後の富裕層が3万人ほどと言われている 。支出面から見た経済成長は富裕層を含む都市部の消費者の購買力に支えられている(図1)。
 

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図1 ラオスの所得層

 

 経済産業省(2013)によれば、世帯の年間可処分所得が5,000ドルを超えると、洗濯機や冷蔵庫など各種家庭製品の保有率が急速に上昇し、7,000~10,000ドル辺りから外食や教育、レジャーなど各種サービスへの消費性向が急速に上昇、12,000ドルを超えるとヘルスケア分野への消費性向が高まるという(表1)。
 

表1 所得層の定義
 所得層  世帯年間可処分所得
 富裕層  35,000ドル以上
 上位中間層  15,000ドル以上~35,000ドル未満
 下位中間層  5,000ドル以上~15,000ドル未満
 低所得層  5,000ドル未満
(出所)経済産業省「通商白書2013」

 

 2015年12月12日、ビエンチャン中心地から7kmのところにタイ資本チェンマンの高級スーパー「Rimping mall」がオープンした。ターゲット顧客は週末になると対岸のタイの地方都市チェンマイやウドンタニへ買いものに出かけているビエンチャンの中間層や富裕層である。12月15日には元ワタミの渡邉議員が視察に訪れた。

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 Rimping mallでは一昨年のラオスニーズ調査で協力してもらった日系企業OGISAKAが日本のイチゴ「とちおとめ」や「あまおう」などを日本から輸入し、販売していた。
販売価格は、なんと1 パック(300g)250,000 KIP(約3,700円)。初回120パック準備し、狙い通り来店した中間層や富裕層が一人で複数パック購入し、2日間で初回入荷分は完売したとのこと。店頭には日本の浴衣を着た現地スタッフを配置し、日本産をアピールした。イチゴの試食も実施し、「非常に甘くておいしい」と評判になった。

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 年7~8%の経済成長に伴い急激に中間層、富裕層が増加しているラオスでは、高級な食品需要が高まっている。OGISAKAのラオス代表飯田さんによると、ビエンチャンでは2015年にショッピングモールが3カ所オープンし、そのうち中国資本やラオス資本のショッピングモールは、低所得層向けの品ぞろえとしたため開店休業状態とのこと。一方、3カ所目であるタイ資本によるView Mallは中間層以上をターゲットとし、キーテナントとなる高級スーパー「Rimping mall」を誘致した。結果的にラオス人富裕層が押し寄せ大盛況となった。2016年1月には、日本から「白いちご」を輸入し、一粒1,000,000 KIP(約15,000円)で販売。翌日に完売し、同スーパーで最も高い商品だったため店員はみな驚き、日本の果物のブランドを再度認識したとのこと。次は、北海道から魚を仕入れ、海鮮丼を準備しており、ラオス初の海鮮丼を販売する計画。飯田さんのチャレンジは続く。

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■ 青津 暢(あおつ みつる)
青年海外協力隊(10年度1次隊、ラオス)、経営コンサルティング会社、人材サービス会社などを経て、現在、開発コンサルティング会社に勤務。外務省、JICA、JETRO、中小企業基盤整備機構などの進出支援スキームにて中小企業の海外進出支援に従事。
(連絡先)m.aotsu@kfy.biglobe.ne.jp