グローバル・ウインド 外務省委託ラオス国ニーズ調査(2014年9月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
外務省委託ラオス国ニーズ調査
1.ラオスとのかかわり
現在外務省委託のラオス国ニーズ調査にかかわっている。調査期間は2014年7月から2015年3月までである。1回目の現地調査(2014年7月27日から8月8日)でラオスの首都ビエンチャンを14年ぶりに訪れた。ラオスへ行くのは青年海外協力隊(1998~2000年)の時以来である。当時はビエンチャン市役所の統計課に配属され、統計データを活用したマクロ経済分析と分析レポートの作成、関係機関での説明などに従事した。当時と比べてビエンチャンが大きく変貌しており驚いている。特に大きく変わった点は、モータリゼーションの進展と道路整備の改善、そして高級車を多く見かけることである。当時はトゥクトゥクという3輪車の乗り物が多かったが、今では多くの輸入車が道路整備の進んだ町中を疾走している。
進展しているモータリゼーション ビエンチャン中心街
ビエンチャンのランドマーク
ランドマークからの風景
2.ニーズ調査概要
ラオスでは、2011 年6月、国民議会にて承認された第7次国家社会経済開発5ヵ年計画(第7次NSEDP、2011~2015年)によると以下の4 点を開発目標としている。
①安定的な経済成長の確保(GDP成長率 8%、一人当たりGDP1,700米ドル)
②2015 年までのMDGs達成、2020 年までのLDC脱却
③文化・社会の発展、天然資源の保全、環境保全を伴う持続的な経済成長の確保
④政治的安定、平和および社会秩序の維持、 国際社会における役割向上
また、2012年4月に策定された我が国の対ラオス国別援助方針においては、同国の開発目標を支援し、ASEANが進める統合において連結性の強化や域内の格差是正を図っていく観点から、①経済・社会インフラ整備、②農業の発展と森林の保全、③教育環境の整備と人材育成、④保健医療サービスの改善を4つの重点分野とし、特に環境などにも配慮した経済成長の促進に一層の重点を置いた援助を展開するとしている。4つの重点分野とそれぞれの主な開発課題は以下のとおりである。
以上を踏まえ、本調査では、①農業、②環境・エネルギー、③職業訓練・産業育成の3分野に焦点をあて、本邦企業の進出に繋がる調査を実施している。
我が国の重点支援分野、ラオスの開発課題、本調査分野を以下のとおり位置づけることができる。
3.ラオスにおける各調査対象分野の現状と課題
3.1 農業分野の現状と課題
ラオス最大の主要産業は農業である。GDP構成比で約3割を占め、労働人口の約7割が農業部門に従事している。農業のGDP比率は長期的に減少傾向にあり、サービス、工業の比率が増加してきているとはいえ、依然経済の根幹は農業を中心とした第一次産業にあり、農業生産が安定的に確保されなければ、ラオス経済そしてラオスの人々の暮らし全体に大きな影響が及ぶことになる。
ラオスの国土の8割が山岳地帯、そして4割が森林地帯であり、実質的な総耕地面積は国土全体の10%に過ぎない。ラオスの農業生産は低地非灌漑農業、低地灌漑農業、高地焼畑農業の3種類に分類され、多くは粗放的な天水農業が中心で気候条件の影響を強く受けやすくなっている。また、焼畑農業は貴重な森林資源の破壊を促進していると懸念されている。
2020年をターゲットにした国家貧困削減計画によれば、農業部門の開発は国民の食糧自給・安全保障の達成や生活水準向上のために最も重要な課題とされている。具体的な戦略として、生産性を高め市場ベースの農業を強化すること、低地農業と高地・傾斜地農業との間における所得格差を縮小すること、焼畑農業の縮小などによって森林資源を持続的に管理することなどがあげられている。特に労働人口の割に農地が広く、集約的な農業による生産性向上が難しいラオスでは、効率性を重視した機械化農業の推進が重要と考えられる。
3.2 環境・エネルギー分野の現状と課題
首都ビエンチャンを中心に急激なモータリゼーションが進行しており、車輛の増加に伴う排気ガスの排出量の増加による都市環境の悪化が懸念されている。ビエンチャンで実施されたモニタリング調査の結果によると、交通量の多い地区においては、二酸化窒素、二酸化硫黄、粒子状物質PM10等の大気汚染物質の濃度が、一般人が屋外での活動を控えるべき水準の数値を示したこともあり、事態は深刻化しつつある。
また、ラオスにおいては、石油製品の輸入が全輸入の概ね2割を占め、2012年には前年比27%増加した。今後とも、輸送車両の増加に伴い年10%程度の増加が予想されており、貿易赤字拡大に伴う外貨不足も懸念されている。
ビエンチャン市内の公共交通機関はバスしかなく、現状我が国から供与された50台のバスが活躍しているのみである。したがって、市民の主な移動手段はバイク、乗用車、TUKTUKとなっている。
ラオスの交通インフラが初期段階にある今、都市部に、より環境負荷の小さい電気自動車などを官民連携で導入して広めるなど、次世代を見据えた新たな発想で戦略的にインフラを整備することで、クリーンエネルギーの国というイメージを打ち出しやすくなり、高い投資効果も期待できる。かつて中国の無償援助で電気バスが運行していたが、故障などから稼働率が半分以下に低下しているのが現状である。
現在ラオスでは中国系の電動TUKTUKが走行しているが、1台6,000ドル以上と高価なため普及していない。一方、通常のガソリンエンジンのTUKTUK(1台1,000ドル)の場合、1日稼働しても収入1,000円には届かないが、それでもガソリン代が500円以上かかっている。仮にエンジンを電気エンジンに改造するとコストは1日150円となり、収益性が向上する。
ラオスはメコン川の水流を使って水力発電を活発に行っており、「東南アジアのバッテリー」と呼ばれている。今後もこれを拡大し、将来的には70のダムを造る予定である。ラオス国内の電力料金は1キロワット時あたり7円相当とタイの約半分、日本の2~3割程度であり、今後さらに電力供給量が増加すれば、電気料金はより安くなる。また、電池に使う鉛、モーター用のレアアースなど資源も国内にある。
以上より、次世代を見据えた戦略的な観点からの開発課題は、電気自動車や電動TUKTUK、電動バイクなどの普及と、これら電動車輛用鉛電池のリサイクルシステムの構築といえる。
3.3 職業訓練・産業育成分野の現状と課題
第7次社会経済発展計画(NSEDP)によると、労働市場には毎年2万9000人の新規参入が見込まれており、その内訳は、職業訓練校卒1万人、IT を中心とする民間学校(22校)卒1万人、ラオス労働社会福祉省、婦人連盟、青年同盟、労働者同盟などが運営する技術訓練センター受講者など短期の職業訓練コース修了者9000人である。
NSEDPでは、特に科学技術者やマネージャー層の育成が重要とされており、職業訓練のグレードアップに加え、2015 年までに職業訓練校3校を新設するとされている。また、教育省により2009 年に策定された「Education Sector Development Program(2009‐2015 年)」では、産業人材育成機関の地方展開や教員養成の強化が目標とされている。
しかしながら、世界銀行 “Investment Climate Assessment”によると、以下の課題が指摘されている。
労働福祉省労働技術雇用促進局の2015年までの予測では、労働需要は約416 万人まで増加すると見られている。2010 年のラオスの15歳から60歳未満の生産年齢人口は、約355万人であることから、5 年間で約60万人増える労働需要への対策が必要となる。タイに出稼ぎ中とされる30-40万人の労働力の帰国を見込んだとしても、労働力不足は否めない。このため、労働供給面からみる限り、ラオスでは、資本集約的な産業構造への転換を図るか、外国人労働者の移入を前提としない限り、企業誘致面で労働力不足が大きなボトルネックになると懸念される。
ラオスは水も電気も豊富にあり、人件費単価も安く、労働争議などもあまりないため、海外からの投資先として魅力的に思えるが、進出してくる企業が増えると、労働力が不足してしまうというジレンマを抱えている。
4.調査の目的
本調査の目的は、以下のとおりである。
①ラオスにおける主要産業である農業分野のうち、農業市場化を念頭に置いた農業生産に関する現状と開発課題を整理し、農業生産性の向上や商品作物の多様化によって期待される経済効果を踏まえ、当該分野の開発課題の解決に向けた我が国中小企業の製品・技術の有効活用のあり方とビジネス機会を明らかにする。
②環境・エネルギー分野のうち、ラオスの国内資源の強みを活かし、新たな産業を創出できる可能性のあるものを活用しつつ、現在顕在化している都市環境問題解決を図るという観点から、電気自動車や電動バイクの市場性と普及のための課題を整理し、高コストで大気汚染の原因となるガソリン自動車(ガソリンエンジン)から安価で豊富でクリーンな電気自動車(電気エンジン)への代替によって期待される経済効果を踏まえ、当該分野の開発課題の解決に向けた我が国中小企業の製品・技術の有効活用のあり方とビジネス機会を明らかにする。
③職業訓練・産業育成分野のうち、今後ラオスの経済発展のボトルネックになると懸念される労働力不足に対する手段として産業の自動化を推し進めるための課題を整理し、経営工学や機械工学系の中間技術者の育成によって期待される経済効果を踏まえ、当該分野の開発課題の解決に向けた我が国中小企業の製品・技術の有効活用のあり方とビジネス機会を明らかにする。
5.調査対象地域
それぞれの調査分野における調査対象地域は以下のとおりである。
6.最後に
1回目の現地調査において政策的な優先度と本調査対象分野との関係では、ラオス側政府機関から以下の意見が聞かれた。各分野とも政策的な優先度と合致していることが確認されたといえる。
【農業】
農業の近代化はラオスにとって必須である。農民の労働賃金が上がっているため、農業機械の導入を促進することが望まれる。(農林省)
現在は第一次産品を安価に近隣国に輸出するケースが多いため、高付加価値で輸出も可能な作物を作ることのできる植物工場に強い関心がある。2015年からAECが始める中、ラオスの農業を強くしていかなければならない。(農林省、計画投資省)
【環境・エネルギー】
ガソリンの輸入抑制、豊富にある電力の利用の観点から、電気自動車(EV)の促進は望ましい。EVは高価格、航続距離が短いという弱点もあるが、ラオスで導入・普及可能なEVモデルを提案してもらいたい。(公共事業運輸省)
【産業人材育成】
ラオスには産業人材が不足している。今後ラオスの工業化を進めていくのと同時に他国に比較し劣位にある生産性を向上させる必要があり、大学や職業訓練校での工学系人材育成は急務である(教育スポーツ省)。
具体的な調査はこれからであり、2回目の調査は9月3日からである。
第1次現地調査風景
水耕栽培による葉物野菜販売店でのヒアリング 現地コンサルタントとの打ち合わせ
職業訓練学校長へのヒアリング
青津 暢(あおつみつる)
東京協会中央支部国際部。株式会社かいはつマネジメント・コンサルティング勤務。開発コンサルタントしてODAにかかる開発調査や新興国及び開発途上国への進出支援などに従事。開発とビジネスの観点からコンサルティングのできる課題解決型ビジネスコンサルタントを目指して奮闘中。