業種別業界別トピックス「ものづくりの現場にも欲しい多様な導入手法の視点」(2020年7月)
はじめに
先日経済産業省より公表された“2020年版ものづくり白書”によりますと、近年国内の設備投資は好調に推移してきたものの、2019年以降やや陰りが見え、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、設備投資が縮小することが見通されています。我が国の競争力の源泉の一つであるものづくりの現場においても、多様な試験、分析のための技術や設備が数多く使用されていますが、これらについても影響することが避けられません。
しかしながら、こうしたものつくりの現場では、企業規模にかかわらず技術革新により急激な高度化が進むとともに、スピードも要求される時代となってきています。これらに対応するために新しい技術や設備を自社に取り入れることは、競争力維持のためにも重要です。
本トピックスでは、ものづくりの現場の方にこそ知っておいていただきたい、技術や設備をより取り入れやすくする視点について、いくつかご紹介いたします。
1.技術・設備が定まっている場合
新規に取り入れたい技術や設備が定まっている場合は、その内容や状況に応じて以下のような要素で検討されます。
・自社資金の投入額をどのようにして抑えるか
・できるだけすみやかに、手間をかけずに目的を達成するか
以下に、これらの要素を踏まえた視点をいくつかご紹介します。
1)各種補助金の活用による技術・設備導入
現在、国や各自治体等からさまざまな技術や設備投資支援を目的とした補助金、助成金制度が設けられています。そもそも採択されることが必要となり、制度内容により利用の難易が異なるなどの点はありますが、少なくない金額の支援を受けられるという大きなメリットがあります。
その中でも代表的な制度として“ものづくり補助金”が挙げられます。本制度は、すでに誕生から8年程度が経過し、時代の要請に合わせいくつかの変更が加えられています。具体的には、今回の新型コロナウイルス感染症対応への特別枠が創設されたり、中古設備も対象(所定の条件があります)とされるなどの点になります。
現在(2020年6月末現在)2019年度補正予算分の3次公募期間となっており、今年度はさらに追加での公募が行われる見込みです(予定)。
2)リース、レンタルの活用
設備導入方法の主要な手段の一つであるファイナンスリースは、こういった試験や分析のための設備導入手段として検討される場面は、いわゆるオフィス機器等と比べると少ないようです。しかしながら、初期の投資金額を抑えつつ、最新の設備をすみやかに導入できるメリットは大きいものがあります。
あわせて、レンタルでの利用が可能な設備も以前と比べて増加しつあり、若干割高にはなる傾向がありますが、期間の定まったプロジェクト型のテーマなどに対しては有効な手段といえます。
3)中古設備導入による対応
中古設備の販売を行う企業も、以前と比較して徐々にですが増えてきています。最近では、あわせていくつかのオークションサイトにおいても、検索しますと中古設備が出品されているのを目にすることができます。これらの利用による導入コスト低減も可能と言えます。
しかしながら、この方法においては、該当設備の経年や使用状況といった状態がわからない場合が散見され、他の手段と異なり導入後トラブルが発生するリスクが高い場合があるようです。メーカーによる保守サポートの有無、有でもどの程度の費用を見込むのかに必ず情報を得ることをお勧めします。最近ではメーカー独自の中古設備販売体制を有する場合もありますので、要求技術や設備の種類、性能が合致するようであればそれらを検討することが有効です。
4)地域の公的試験研究機関の活用
1)~3)においては自社への技術、設備導入が主な形態ですが、4番目の手段として、必要な技術、設備を地域の公設試験研究機関の利用でまかなうことが挙げられます。これら公設試験研究機関は、全国各都道府県に1か所以上設けられ、○○県産業技術センター、工業技術センターといったような名称で整備されており、各種試験、分析のためのさまざまな機器が整備されています。また、技術職員が常駐し、主に地域中小企業を対象に技術支援、情報の提供等を行っています。
このような地域の公設試験研究機関を利用するメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。
①安価に利用可能
⇒使用する機器によっては、数百円/1時間といったコストで利用することが可能です。
②多様な設備・機器を選択可能
⇒全国の機関を対象に、最新鋭のものも含めさまざまな機器を利用できます。
③様々な技術的相談も可能
⇒各施設の技術職員が技術的相談にも応じています。
2.技術・設備が明確に定まっていない場合
1.1)のような手法においては、基本的に導入する技術、設備がおおよそ定まっていることが求められます。一方で、ものづくりの現場ではかなりの割合で”そもそも今の課題の解決手法がわからない…どんな技術、設備を自社に取り込んだらいいのかわからない”ことがよくあります。当然ながらですが、このような場合にやみくもに新規の技術、設備をに対し貴重な資金を投じて解決を図ることが得策とは言えません。
このような場面では、1.4)にあげた地域の公的試験研究機関や、受託分析企業等の活用を検討いただければと思います。有するノウハウが課題解決に向けての大きな力になると共に、多種多様な技術、設備が多額の費用を掛けることなく活用できます。また、ある程度必要な技術、設備が見えつつある場合には、設備メーカーに問い合わせることも一助となります。各メーカーならではの知識の深さは、時によっては思いもかけない解決方法をもたらします。
おわりに
以上、いくつかご説明いたしましたが、これらは基本的に、ものづくりの現場から生まれてくるニーズに対応するための手段です。ただ単に新しい技術、設備を求めるだけでなく、それらをスムーズに取り入れるための多様な視点を現場において持っていただくことも、企業の競争力の源の一つとなります。
なお、上記情報については2020年6月時点での内容に基づき記載していますが、特に補助金に関する事項などはたびたび変更されていることがあります。常に最新の情報を御確認ください。
参考
- 2020年版ものづくり白書(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/index.html
- ものつくり補助金総合サイト(全国中小企業団体中央会)
http://portal.monodukuri-hojo.jp/
- 全国鉱工業公設試験研究機関保有機器・研究者情報検索システム(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/kousetsushi/top
略歴
鳥居経芳
中小企業診断士
東京都中小企業診断士協会中央支部所属