1.売上目標立どうやって立てていますか?
 本コラムをご覧いただきありがとうございます。読者のみなさまの会社では、売上目標はどのように設定されていますか?
 「前年の売上が5億円だったから10%アップで5億5,000万円にしよう!」
 「ライバルのB社が15億円、うちは13億円だから16億円にしよう!」
 前者は過去対比の目標設定と言えます。前年の10%アップというのは、一見根拠がありそうですが、なぜ5%アップではないのか、なぜ20%アップではないのか?と問われると、答えに詰まってしまうかもしれません。
 また、後者は同業対比の目標設定と言えます。「ライバル会社に勝ってやる!」という強い気持ちで競合よりも売上を伸ばしても、新たな競合が出てきて、延々と競争は続きます。競合だけを意識して無理な値引販売を行い、売上は伸びたとしても、赤字に陥ってしまえば本末転倒です。
 新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、黒字を確保するために売上目標の見直しを検討されている方も多いと思います。今回は、「お金のブロックパズル(R)」という魔法のツールを使って「根拠のある売上目標」を設定する方法をご紹介します。

2.お金のブロックパズル(R)とは?
 お金のブロックパズル(R)とは、一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会の代表理事、経営コンサルタントの和仁達也氏が、著書「超★ドンブリ経営のすすめ」などで紹介しているお金の流れの全体を分かりやすく図にしたもので、西順一郎氏が著書「戦略会計STRACⅡ」で紹介するSTRAC表(現・MQ会計表)がベースになっています。

 四角い箱に、縦と横に線を引いていくだけでお金の流れが視覚的に分かる、非常に使い勝手の良いツールです。

 お金のブロックパズル(R)の全体像は、こちらの図になります。
Pic1

 左側の大きな四角形は、損益計算書を分かりやすく図にしたもので、7つのブロックから構成されています。

 ①売上高:まずはこれが無いと始まらないですね。
 ②変動費:売上の増加に連動して生じる費用です。
      スーパーなら商品仕入代、工場なら材料費、タクシー会社ならガソリン代 など
 ③粗利:①売上高から②変動費を引いた残りが粗利です。
    ※㋐粗利率:③粗利の①売上高に対する割合が粗利率となります。
          商品やサービスの価値を加えることで粗利率はアップします。
 ④固定費:変動費と反対の性質を持つ費用です。売上の増減関係無く生じます。
      事務所の家賃やスタッフの給料、水道光熱費などが相当します。
 ⑤利益:粗利から固定費も引けば利益が残ります。
 ⑥人件費:固定費の中でウェイトが大きいのが人件費です。
 ⑦その他:固定費から人件費を引いたものを、その他の固定費とします。
     ※㋑労働分配率:⑥人件費の③粗利に対する割合が労働分配率となります。
      粗利のうち労働に対してどれだけ分配しているかを示す指標です。
これで終わらないのがお金のブロックパズル(R)の特徴です。利益から出ていくお金を考えます。

 7つのブロックの右側を見ていきましょう。

 ⑧税金:利益が出れば税金を払いますよね。
 ⑨税引後利益:利益から税金を払った残りが税引後利益となります。
 ⑩減価償却の繰り戻し:⑦その他の固定には、設備投資をした際に発生する減価償却費という費用があります。

 これは、非資金費用と言い、お金の支出が生じない費用のため、キャッシュフロー上ではプラス要素となるので、税引前利益に加算します。

 ⑪返済:借入がある場合は返済が支出となります。
 ⑫設備投資:さらに設備投資が生じる場合は支出となります。
 ⑬繰越できる資金:最後にようやく繰越できる資金が残ります。

3.損益分岐点分析(BEP分析)による一般的な目標売上高の算出
 お金のブロックで利益の出し方を見ていく前に、一般的に使われる損益分岐点分析(BEP分析=Break Even Point分析)での目標売上高の算出方法を見ていきましょう。

 損益分岐点分析(BEP分析)は、こちらの図で考えます。Pic2

Pic3

 費用を変動費と固定費に分けて考えるのは、お金のブロックパズル(R)と同様です。
 損益分岐点売上高を導くための計算は以下の通りです。

 Ⅰ 売上高 = 固定費 + 変動費 ※利益がゼロの場合の売上の構成要素。
 Ⅱ 売上高 = 固定費 + 売上高 × 変動費率 ※変動費を 売上高 × 変動費率に置き換える。
 Ⅲ 売上高 - (売上高 × 変動費率) = 固定費 ※売上高 × 変動費率を左辺に移動させる。
 Ⅳ (1 - 変動費率)売上高 = 固定費 ※左辺を売上高で因数分解する。
 Ⅴ 売上高 = 固定費 / (1 - 変動費率) ※両辺を(1 - 変動費率)で割る。

 上記が損益分岐点売上高(利益ゼロのときの売上高)となりますので、目標利益を達成するための売上高の計算式は以下の通りとなります。

 目標利益達成売上高 = 固定費 + 目標利益 / (1 - 変動費率)
            = 固定費 + 目標利益 / 限界利益率 ※

※売上から変動費を引いた利益を限界利益と言います。(1 - 変動費率)は、(売上高/売上高 - 変動費/売上高)と表せますが、これをさらに変化させると、(売上高 - 変動費 / 売上高) → (限界利益 / 売上高) → 限界利益率 となります。

 損益分岐点分析(BEP分析)も、良く使われる式ですので、非常に分かりやすい売上の算出方法と言えます。
 しかしながら、これだけでは、以下のような疑問が残ります。
 ・どうやって目標利益を決めたら良いの?
 ・費用を見直すことはできるのだろうか?
 ・売上を増やすためにはどうすれば良い?

 お金のブロックパズル(R)を活用すれば、これらの対策もとることができます。

4.お金のブロックパズル(R)を使って目標売上高を考える

 お金のブロックパズル(R)を使って目標売上高を設定するには、
 「逆算思考」、すなわち2.お金のブロックパズル(R)とは で見てきたお金のブロックパズル(R)の作成手順と逆の手順を考えます。

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 ① まず「借金返済額 + 設備投資額 + 残したいお金(繰越利益できる資金)」を計算します。
 ② その額の約2倍が必達利益目標です(税金が半分近く生じます)。
 ③ その利益に人件費を加えた金額を稼ぐ必要があります。業種にもよりますが、人件費と同じ程度、その他の固定費がかかります。
 ④ ③を踏まえると、人件費の2倍が固定費予算です。
 ⑤ ②の必達利益目標と④の固定費予算の合計が必達粗利目標です。
 ⑥ ⑤の必達粗利目標を変動比率で割れば、変動費を反映できます。
 ⑦ ⑥の計算結果が、必達売上目標です。

 改めて計算式に直すと以下のようになります。

 Ⅰ 利益目標 = 繰越できる資金 + 返済 + 設備投資 + 税金
 Ⅱ 粗利目標 = 利益目標 + 固定費予算(人件費 + その他)
 Ⅲ 売上目標 = 粗利目標 / 粗利率

お金のブロックパズル(R)では、ブロックごとの計画を見ることもできるのも、大きな特徴です。

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 売上高のブロックの構成要素を考えると、A.客数 B.客単価 C.購入頻度にブレークダウンできます。
 これらの構成要素から、売上アップのための策を練ることができます。

 また、人件費のブロックを考慮して、来期の売上向上に向けて2人雇えるか?1人にしておくべきか?なども検討できます。
 以上がお金のブロックパズル(R)を活用した目標売上高の設定についてです。
 お金のブロックパズル(R)の作り方を詳しく知りたい方は、以下の一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会のサイトや、以下の和仁達也氏の参考文献「超★ドンブリ経営のすすめ」「経営数字の教科書」「世界一受けたいお金の授業」を、ぜひご参考になさってください!

https://jcfca.com/media/kiziitiran/692.html

一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会ホームページ:
たった1枚の図で会社のお金の流れはすべてわかる! お金のブロックパズルとは?

・参考文献
『お金の流れが一目でわかる!超★ドンブリ経営のすすめ』 ダイヤモンド社 2013
『年間報酬3000万円超えが10年続くコンサルタントの経営数字の教科書』 かんき出版 2017
『面白いほど経済 数字に強い人になれる!世界一受けたいお金の授業』 かんき出版 2020
『新版 ロジックで解く 中小企業診断士試験 財務・会計問題集』 日本マンパワー出版 2007

・略歴
手坂 空太郎
中小企業診断士 キャッシュフローコーチ(R)
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会中央支部 ビジネス創造部 副部長