グローバル・ウインド 台湾の消費者事情について(2014年8月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
台湾の消費者事情について
2013年10月に台湾の消費者庁に相当する行政院消費者保護委員会、消費者団体である中華民国消費者文教基金会を訪問し、台湾の消費者問題について情報交換を行いました。また、台湾に進出している日系企業の台湾無印良品股份有限公司、ニトリ宜得利家居股份有限公司、UCC優仕珈琲股份有限公司他や、台湾企業の學學文創志業等を訪問し台湾のビジネスについてヒアリングを行いました。今回は、台湾の消費者事情について簡単にご紹介させて頂きます。
1.組織設置の経緯
台湾では、1990年頃より消費者問題の増加に応じ、外国にならって仕組みを作ろうという機運が高まり、日本・オーストラリア・韓国などの諸外国の法制度を参考に、1994年1月、消費者保護法が制定されました。しかし、消費者問題に対応する専門組織は設置されませんでした。その為、各局が独自に対応してきましたが、連携が必要となり、副総理のもとで各省からの代表を集め横断的・一元的な組織が作られました。それが、行政院に設置された消費者保護委員会であり、他の省庁と連絡を取り合いながら、具体的施策などを統合し総合的に実施しています。
「人が生まれてから死ぬまで」の多岐に渡る消費者問題を、各部門と連携し一元的にまとめ、その下部組織として各県・市に消費生活センターが配置されています。現在のところ、消費生活センターの相談業務の相談員に政府認定の資格はなく、行政における実務研修や弁護士の指導のもとで、公務員・ボランティアが行っています。
2.消費者被害救済の施策
中華民国消費者文教基金協会から、消費者問題の問題解決に対する政府の施策についてヒアリングしました。
(1)台湾の推定過失責任の考え方と消費者保護法
台湾はドイツを視察しPL法導入の検討を行ったがPL法は制定しておらず、今でも過失責任の原則を貫いています。ただし民法の特別法である消費者保護法で、表示に問題があったり、特別の条件を満たした場合、過失がなかったという立証責任を販売者や生産者が負うと言う規定はあります。
台湾の消費者保護法は、日本のPL法の考え方のみならず、消費者基本法、消費者契約法、団体訴権、成年後見制度等の内容も含んだ包括的な法体系になっており、そのため、事業者・消費者・政府三者における責任範囲を定め、消費安全及び消費者の権益を向上するよう情報提供の努力義務も付されています。
(2)消費者問題の代表的な事件
(a)2003年マンション倒壊事件
製造物責任における立証責任は台湾の消費者保護法では明文化されていませんが、この事件は、製造物責任を掲げてマンションに住む住民が団体訴訟で提訴し、裁判に於いて業者に事故の立証責任を転嫁しました。これは、製造物責任の精神を台湾の司法が初めて認めた代表的な判例とされています。
(b) 2013年食品偽装事件
2013年に食用油等の食品偽装問題や違法添加物混入問題など次々と事件が発覚し社会問題に発展しました。政府は特別法である食品衛生管理法を即急に改正・施行しました。この改正では、事業者に対する損害賠償と刑罰を強化するとともに、被害者への損害賠償規定を条文の新項目に加え、実効性のある予防効果を目指したものです。
3.他の施策
(1)商品テスト
通信・金融などのサービスまで包括し、政府の各部署で定期的に検査しその結果を公表しています。
(2)民間団体との連携
1994年以降は、政府が認定した海外の消費者保護団体と意見交換を行っており、日本の消費生活センター関連団体との交流も活発に行っています。
(3)消費者教育
教育をする対象を、階層に分け、各々に合った消費者教育を実施しています。
(a)学校向の消費者教育(小学校~高校)
(b)社会人向け消費者教育
(c)特定の消費者向け(家庭の主婦、子供、障害者)
行政院では、未然防止施策を中心とした計画案を2年ごとに策定し、地方政府に対し、消費者教育や消費者問題に関するガイドラインを通達、消費者への広報も行っています。しかし、消費者保護法、団体訴権など、消費者問題の救済の内容は広く市民に周知されておらず、啓発が課題の一つになっています。
西岡昭喜(にしおか あきよし)
2003年中小企業診断士登録、消費生活専門相談員、消費生活アドバイザー、消費生活コンサルタント他
【著書】BRICsがみるみる分かる本、NEXT11がみるみる分かる本、BRICsとNEXT11のすべて、経営法務、流通ネットワーキング他