グローバル・ウインド「アフターコロナ、ウィズコロナで変わる日本の生産性」(2020年06月)
グローバル・ウインド
中央支部・国際部 皆川 真人
私がアメリカで仕事をしていた頃、すでにオンラインミーティングツールの先駆けとも言えるWebexが活用されていました。もう15年以上も前の話です。現在では、Zoom、Microsoft Teams、Googleハングアウトといった多様なオンラインミーティングツールが普及しており、また、Ciscoに買収されたWebexも健在です。
アメリカ時代のオンラインミーティング
当時のWebexは、そこそこ値段が高い上に、現在と比較するとインターネットの速度も遅かった為、ビデオ会議の映像はあまり良くありませんでした。「クリアなビデオ会議を実現するために、ビデオ会議用の広帯域な専用線を敷設し、専用のモニターを設置する」という高価なソリューションも存在していました。当時のアメリカドラマで、大企業のエグゼクティブや、大統領が使用しているのを見た方も多いのではと思います。
よって、職場レベルでの遠隔地とのミーティングは、電話会議がメインでした。いわゆるカンファレンスコール(日本ではテレフォンカンファレンス)と呼ばれる、多地点同時電話ソリューションです。
この電話会議では、苦労した思い出が多くあります。まず、英語の聞き取りが下手だった私は、電話特有の狭い音声帯域に悩まされました。その上、身振り手振りで伝えるという手段が使えないので、会話だけで伝えるという技術も必要でした。
メラビアンの法則では、コミュニケーションにおいて、身振り手振りなどの視覚情報による伝達影響は55%と言われています。つまり、残りの45%のコミュニケーション手段を用いて、会話を成立させる必要があったのです。
ですので、Webexを用いた会議は、非常にありがたかったです。滑らかとは言えないまでも、相手の表情や動作が見え、さらに資料の共有もできました。外国人の私にとっては、大変助けられたITツールの1つでした。
アメリカと日本におけるオンラインミーティング活用度の違い
アメリカから日本に戻った時に、日本でも会社が用意したWebexや電話会議システムがありましたが、アメリカにいた頃より明らかに使用頻度が少なくなったと感じました。
そもそも、なぜアメリカでは、オンラインミーティングや電話会議の頻度が多かったのか? 逆になぜ日本では少なかったのか?
答えは単純で、アメリカは、社内外のビジネス拠点が分散されており、かつ国土が広いので、時間とコストを節約するためにオンラインミーティングや電話会議が必然的に利用されていたというわけです。
逆に、日本では、ビジネスの中心が東京や大阪などの大都市圏に集まっており、数百円のコストで拠点を移動することができるため、「会って会議や商談を行う」ことのハードルがあまり高くありません。よって、「オンラインミーティングしましょう」よりも「とりあえず、そちらに伺います」が先に出てしまいます。
また、「日本人は、会って話をして、人となりを知った上でないと、安心してビジネスができない」という声があります。しかし、直接会って話せた方が安心感を得るのはアメリカ人も同じです。単に移動のハードルが高いので、必然的にオンラインや電話の頻度が多いだけというわけです。
インサイドセールスの活躍
アメリカでは「労働生産性」が非常に重視されています。それは工場などの生産現場だけでなく、営業活動にも及びます。「移動=(非生産時間+コスト発生)=ムダ」という考えのもと、外回りしない営業が活躍しています。彼等/彼女等のことを、インサイドセールスと呼びます。
インサイドセールスは、日本語に訳すと内勤営業となります。その名の通り、オフィスの中にいながら、電話やオンラインツール(メールやオンラインミーティングツール等)を用いて営業を行う人たちのことを指します。
インサイドセールスの役割は、マーケティング活用によって得たリード(見込み顧客)を、電話やオンラインツール上のやり取りのみで顧客化することです。アメリカでは、基本的にインサイドセールスだけで受注までの責任を負うケースが多いですが、BtoB取引の場合は難しい場面もあります。なぜなら、高額な取引になればなるほど、上位役職者に直接会って提案しないと受注が難しいからです。この場合のインサイドセールスの役割は、優良なリードを醸成し、フィールドセールスにバトンパスすることです。フィールドセールスとは、いわゆる客先に出向く営業のことです。
インサイドセールスが、電話やオンラインツールで商品・サービスを詳細に説明し、興味を持ってくれたリードをフィールドセールスに託し、フィールドセールスが最終提案を行って受注に至らせるという、営業の分業体制が構築されています。こうすることで、フィールドセールスが無駄な移動をすることなく、効率的に受注確度を上げることができます。
コロナ禍で一変した日本人の価値観
アメリカでこの様な効率的な営業活動がリーマンショック以降から定着しつつも、日本では一部の大手企業を除き、まさしく「営業は足が命」「受注するまで会社に帰ってくるな」というスポ根的な営業文化が長らく続いていたと思います。それは、前述の通り、移動に要するコストが高くないという環境要因が大いにあるからだと考えます。
ところが、突如襲ったコロナ禍で、状況は一変しました。営業もそうですが、見込み顧客でさえ、対面で会うことができなくなったのです。会って話せないので、営業にとっては、当然商談は進みません。必然的に、電話やオンラインミーティングで、見込み顧客にコンタクトすることになります。
ところで、コロナ禍の最中、「リモートワーク」や「Zoom」などのキーワードを多く聞いたかと思いますが、実は「インサイドセールス」という検索ワードも日本において急上昇しました。
在宅中でも、電話やオンラインミーティングツールで営業活動がある程度できることを、日本の多くの企業が認知しました。さらに、移動時間もコストもかからないため、まだクロージングからは少し遠い局面では、オンラインミーティングの方が効率的であると感じる人も出てきています。そこで、インサイドセールスの体制を本格検討したいという企業が増え、上記のように検索ワードが上昇したと考えられています。
アフターコロナ、ウィズコロナで変わる日本の生産性
インサイドセールスやリモートワークの運用には、制度や管理の問題などを解決しなければなりませんが、働き方改革や育児との両立など、効率化以外に享受できるメリットが多くあります。今回のコロナ禍をきっかけに、日本企業もようやく重い腰が上がり、「生産性向上」「働き方改革」といった政府が掲げた目標の実現に、ある意味強制的に向かっていくものと考えています。
アフターコロナ、ウィズコロナは、ビフォーコロナよりも、日本全体が良い方向にシフトしていくものだと信じています。
■ 筆者プロフィール
皆川 真人(みながわ まさと)
ムーブエフコンサルティング合同会社 代表
中小企業診断士、MBA(AACSB/AMBA)、ITコーディネータ、PMP、MCSE、CCIE
1975年4月生まれ
IT事業会社、大手通信事業会社、大手コンサルティングファームを経て独立。
事業戦略コンサルティング、IT・クラウドコンサルティング、デジタルトランスフォーメーション(DX)を得意とする。すべての中小企業がDX化し、わが国一人あたりGDPの向上に貢献することを目指して、ムーブエフコンサルティングを設立。
明治大学商学部卒業。名古屋商科大学大学院ビジネススクール修了(首席)。修士(経営学)。