専門家コラム「介護事業所で使える補助金・助成金の話」(2020年6月)
中小企業の助成金・補助金活用については様々語られている。ここでは特に介護事業所で活用しやすい、活用できるものについて案内する。
1.補助金と助成金
中小企業の資金繰りで、融資とは違い返さなくてもいいお金が補助金と助成金となる。どんな種類のものがあり、またこのサポートをうまく利用するためにはどうするか解説する。
補助金と助成金には二つの流れがある。
2.経済産業省系の補助金
一つは経済産業省・中小企業庁の取り組みである補助金である。「ものづくり・商業・サービス補助金」「持続化補助金」「IT導入補助金」がその中心になる。いずれも上限額があり、補助率は1/2から2/3程度になる。応募のあと審査、交付不交付決定となる。そのなかでも「持続化補助金」は店舗の改装、ホームページの作成、改良、チラシ・カタログの作成、広告掲載が補助対象になり、使いやすい補助金といえる。補助額は50万円が上限だが、75万の広告費を使ううち50万が補助されると考えると応募したい補助金になっている。
現在コロナ特別対応型もあり、要件の緩和や補助率のアップなどが行われている。常に情報のアップデートも必要な状況にある。
3.厚生労働省系の助成金
もう一つは厚生労働省の雇用・労働分野の助成金である。「雇用関係助成金」と「労働条件等関係助成金」がある。「雇用調整助成金」は経営が悪化する中で社員の休業や教育訓練により雇用を維持する場合に助成される。休業手当等の一部2/3(中小企業の場合)が助成されるが、新型コロナウィルスによる休業では、助成率が拡大に、要件も大幅に緩和された。申請に必要な書類や条件がわかりにくいとされ、さらに緩和されているので、最新の情報から申請可能か考えると良い。
慢性的な人手不足の介護事業としては雇い入れ関係の助成金の申請も考えたい。中途採用を拡大する「中途採用等支援助成金」や母子家庭の母、高齢者、障がい者などを新たに継続雇用する場合の「特定求職者雇用開発助成金」に該当する雇い入れにならないかを検討しておく必要がある。
さらに雇用環境の整備関係等の助成金にある人材確保等支援助成金には介護業界向けの助成金がある。「介護福祉機器助成コース」「介護・保育労働者雇用管理制度助成コース」である。導入・整備の助成に加えて目標達成についての助成もある。
キャリアアップ助成金も「正社員化コース」「賃金規定等改定コース」「健康診断制度コース」は、職員の確保と定着に利用可能である。
仕事と家庭の両立支援関係等の助成金も介護事業所は女性の多い職場であるため、注目したい。育児休業や介護休業を実施する場合には利用すべき助成金になる。
4.地域医療介護総合確保基金
そして厚生労働省の施策の地域医療介護総合確保基金のメニューが充実してきている。
「介護離職ゼロのための量的拡充としては介護施設等の整備にあわせて行う広域型施設の大規模修繕・耐震化整備」「介護付きホームの整備促進」「介護職員の宿舎施設整備」といったメニューがある。
また介護サービスの質の向上を意図したメニューのなかで「施設の大規模修繕の際にあわせて行うロボット・センサー、ICTの導入支援」「介護予防拠点における健康づくりと防災の意識啓発の取り組み支援」、「介護施設等における看取り環境の整備推進」などは、介護事業の現場の状況の改善に資するものとなっている。
なお補助金・助成金以外にも活用できる制度としては「雇用促進税制」やすでに多くの事業所で活用している「処遇改善加算」がある。
現在コロナウィルスによる売上減少に対して、持続化給付金の対象にならないか、都や市区町村の独自の支援策はどうか必ずチェックする必要がある。
厚生労働省は補正予算で介護事業所への支援策を打ち出すことが想定されるので、今後も情報収集が必要である。
5.補助金・助成金取得の際に注意が必要なポイント
介護事業所としては現状分析からどの補助金・助成金制度を選択するか考える必要があり、その中で以下の点に注意する必要がある。
補助金・助成金の認められる要件には十分注意する。
補助金・助成金は種類によって条件が様々である。雇用調整助成金や労働条件等関係助成金は主に中小企業事業主が対象であり、サービス業の中小企業であれば資本金・出資額が5000万円以下または常用雇用する労働者数が100人以下の事業者が対象となる。
事前に計画書などを作り労働局の認定を受けたりする必要があるものも多く、教育訓練や採用をおこなう数ヶ月前から準備をする必要がある。
雇用・労働関係の助成金では社内規定や就業規則・労働契約書などの提出が必要なものも多く、法律の改定に準拠した社内規定や文書の整備が必要である。三六協定を結ばず残業をさせているような事業所がないかなど、会社が違法状態にないかチェックする必要がある。
補助金・助成金は後払いなのでキャッシュフローに注意
補助金・助成金申請ではキャッシュフローを十分に注意する必要がある。補助金・助成金の支給があるのは事後になる。補助や助成が認められても、物品の購入や賃金の支払いは先に支払う必要がある。その領収書などの証憑を提示してからの承認、支給になるので、支給が半年から一年後でも問題ないようにキャッシュフローの計画を組む必要がある。
従業員解雇があると要件を満たさない。
厚生労働省の労働系の助成金の場合・雇用保険の適用事業主・対象労働者の雇用開始日の前後6か月に解雇等(事業主都合の推奨退職を含む)をしたことがない・対象労働者はハローワーク等からの紹介以前に雇用の内定があった労働者を雇用したものではないことが基本的な要件になっている。介護人材の離職が多い中、事業主都合の退職とされてしまう事例がないか注意が必要になる。
働き方改革でやらなくてはいけないから
働き方改革法案が成立し中小企業も対応する必要がある。経営にはマイナスになると対応していない企業も多いようだ。しかし人材不足の介護業界ではこの機会をチャンスに変える必要がある。介護事業所は雇用条件が他の事業所より良いという評価なしには、人材の維持確保はできない。そのためにも補助金・助成金を利用したい。
転職・再就職拡大支援関係の助成金、雇入れ関係の助成金、雇用環境の整備関係等の助成金、仕事と家庭の両立支援関係等の助成金などの中には、働きかた改革ために増えている助成金が多く含まれている。申請やそのための要件整備には、手間がかかるかもしれないが、申請を考えるべきである。
補助金・助成金が主にならないように
補助金・助成金で支給された金額は返す必要のないものである。銀行からの借り入れとは全く性質の異なるもになる。しかし補助金・助成金のために事業の本質を変更・変質させるようなことがあっては本末転倒となる。また後払いでもあり、補助金・助成金なしでも事業の立ち上げや運営が可能な状況でなければならない。あくまで、プラスアルファとしてとらえるべきである。
なお「介護事業所で使える補助金・助成金の話」は7月中旬発売予定の「これで失敗しない! 介護事業の経営・運営ノウハウ」同友館刊からの抜粋です。「人事・財務・危機管理・マーケティング・認知症対応etc.」を提言しておりますのでご参考にしていただければと存じます。
●略歴
佐藤 裕二
学研グループにて文具玩具事業、高齢者住宅・介護事業、内部監査・統制等を経験。現在合同会社MY Project代表社員。
中央支部副支部長、福祉ビジネス研究会、健康ビジネス研究会、経営革新実践支援研究会等に所属。
社会保険労務士、CIA(公認内部監査人)、宅地建物管理士 。