山根 孝一

 「最近の若いモンは何を考えているか分からない」。
 「何度言っても分かってくれない、いつになったら成長してくれるんだ」。
 現在管理職を任されている方や経営者自身を見ていて感じることは、部下面談に苦手意識を持っている人が非常に多いということです。また、普段の部下コミュニケーションが効果的になれば、組織や会社全体の力をもっと引き出せるのにとお悩みの方もいるでしょう。
 
 百人のマネージャーがいれば、部下面談のスタイルも百通りです。できることなら他の人が面談している場面を観察してみたいと思う方も多いでしょう。しかし、基本的に面談は1対1で行うものであり、他の人が見学するなどということは残念ながらありません。なかなか面談スキルを高めていくチャンスは少ないのが現状です。
 私は企業研修講師として数多くの研修を実施してきました。多数の受講者と接するうち、面談を成功させるポイントは以下の4点に集約されることが分かりました。
 1 問題解決力
 2 傾聴力
 3 動機付けする力
 4 信念
 この4つのポイントを風林火山になぞらえて、部下とのコミュニケーション力について考えてみます。
■問題の本質に迫ること「風」の如し(問題解決力)
 発生している問題を解決するために部下とコミュニケーションをとる場合を考えてみましょう。例えば、部下が仕事でミスを犯したとき、部下に向かって、「ミスはよくないことだから今後しないように」「はい、わかりました」で、その後発生しなければ良いのですが、多くの場合同じミスが発生し、同じ注意を何度もしなければなりません。仕事のミスやトラブルというのは現象に過ぎず、その背後に別の問題が潜んでいることが多いものです。そのようなとき、発生している問題点を指摘して是正を促すだけでは、本当の問題解決とはいえません。発生事象の背後にある真の問題に鋭く切り込み、適切な解決法を導くことが、マネジメントの役割です。
 大切なことは、常に「なぜ?」の視点を持つことです。結論を決めてかかったりせず、その現象を引き起こした真の原因を追究する姿勢が求められます。某自動車メーカーのなぜなぜ5回はあまりにも有名ですが、徹底的に原因に迫っていくことが大切です。
■穏やかに聴くこと「林」の如し(傾聴力)
 一方的に伝達して目的が果たせるならメールで十分です。しかし、部下とのコミュニケーションの場面ではどうでしょう。メールの例は極端だとしても、心をオープンにして本当に言いたいことを部下は常に言ってくれているでしょうか。部下にとって上司は支援者であると同時に人事考課を行う評価者でもあるのです。そんな人に向かって常に心をオープンにして話してくれるはずなどない、と考えておくほうが無難でしょう。
 「きく」という言葉には、聞く、訊く、聴くという漢字があります。
聞く(hear)耳で音や声を感じ取ること。
訊く(ask)相手に質問すること。
聴く(listen)耳を傾け注意して聞き取ること。
 傾聴は言うまでもなく「聴く」ことです。 まずは部下の言い分を否定することなく受け入れるというスタンスを堅持し、部下の気持ちを和らげながら聞くことが、部下とのコミュニケーションには欠かすことのできないスキルです。耳で、目で、心で部下の発するメッセージを受け止めましょう。
 傾聴を成功させるためには、
1. リラックスして話しやすい雰囲気を作る
2. うなずきと相槌できちんと聴いていることを伝える
3. オウム返しを使って、「わかってもらえている」と感じてもらう
4. 言葉だけでなく気持ちも受け止める
5. 話し手がより一層話しやすいように効果的な質問をする
ことが一般的に重要と言われています。
■部下の意欲をかき立てること「火」の如し(動機助づけする力)
 心理学の研究では、人のやる気や興味を引き出す要因として、外発的動機付けと内発的動機付けの2種類があるといわれています。外発的動機付けとは、義務、賞罰、強制など、外からもたらされる動機付け、一方、内発的動機付けとは好奇心や関心によってもたらされる動機付けのことです。そして内発的動機付けのほうが質の高い行動が長く続くといわれています。
 上司は部下に対して外発的動機付けの多くの部分を担っています。昇進や評価といった人事に関係するものの他、配慮や賞賛など日常的な関わりに関係するものまであります。では、上司は部下の内発的動機付けとは無関係なのでしょうか。そんなことはありません。上司であるあなたが内発的動機付けに一番近いところにいるのです。がんばることで一皮むけつつあるという実感や潜在力を生かしきっていると思える喜びを感じている部下に対し、適切にフィードバックしてあげるだけでも、成長感や有能感を定着させることが可能です。
 相談、行動是正、指導教育など面談の目的はいろいろありますが、部下のその後の行動に反映しない限り面談が成功したとはいえません。部下が自発的に行動するためには、正しい動機付けが不可欠なのです。
■信念が揺るがないこと「山」の如し(信念)
 職場には意思決定が必要な場面が数多くあり、立場が上になるほどあなたの意思決定が及ぼす影響は大きくなります。また、ほとんどの場合、意思決定に必要な情報がすべて揃っているわけではなく、不確定な中で方向を決めることが必要になってきます。そんなときに判断のものさしとして使えるのが信念です。信念とは一言で言うと自分が正しいと思っている考え方のことです。
 リーダーは信念を持てとか自律的に行動するべきだとかいいますが、他人の考えをまったく受け入れず、狭い視野で独善的に振舞うことは単なる頑固です。状況の変化や他者の意見を十分考慮する姿勢を忘れず、新たな状況や困難に立ち向かうためには、信念という大きな土台が必要なのです。
 もう一つリーダーに欠かすことのできない資質としてインテグリティが挙げられます。一貫した誠実さや高潔さという意味合いで用いられることが多いですが、いくら耳障りの良い言葉を発しても、あなた自身が言い逃れをしたり嘘をつくような人だとしたら部下はあなたの言葉を信じることはありません。ひとりの人間として一貫した誠実さや真摯さを備えることは、部下とのコミュニケーションにも極めて有効です。 
 会社の規模や業種、所属している部署の特性などは千差万別、その上部下のキャリア、能力、性格などもさまざまです。しかし、たった4つのポイントを押さえるだけで大きく踏み外すことのない面談が可能になります。また、これらのポイントを知っておくことで、自分の面談に足りないものを見出すためのチェックリストにもなります。
 たかが面談、されど面談です。普段の何気ない会話や面談を振り返ってみて、自身の意図が正確に伝わっているかどうか、相手がやる気を持って前進していけるようになったかどうかを確認してみてください。
■山根 孝一(やまねこういち)
中小企業診断士
一般社団法人東京都中小企業診断士協会地域支援部副部長
一般社団法人東京都中小企業診断士協会中央支部渉外部副部長
一般社団法人ちよだ中小企業経営支援協会理事長
中堅生命保険会社に入社後29歳で営業所長となり、以降12年間にわたり、営業職員の採用、育成、管理に従事する。担当した営業所は6ヶ所。
現在は山根中小企業診断士事務所にて経営コンサルタントとして企業の経営改善や事業再生を支援する傍ら、企業研修講師として管理職を対象にマネジメント力養成研修を行う。
自らのチームリーダーの経験と、約2千名におよぶロールプレイング指導メソッドから、独自のノウハウを体系化。部下指導に特化した研修を企画、実施中。
近著『10分の面談で部下を伸ばす法』(アニモ出版)