【質問】
海外に拠点を設立したいのですが、注意点は何でしょうか?

【回答】
現在は、新型コロナウイルスの影響もあり海外取引は停滞していますが、中長期的にみて、わが国と海外との取引関係はますます深まると思われます。海外拠点設立は企業の成長を促進する一つの方法ではありますが、海外投資は国内取引と比べ大きなリスクを伴うため、事前の準備が重要です。海外拠点設立を検討するにあたり、最低限考えておくべきことをお話します。

1.海外拠点設立の目的は何ですか?
海外拠点設立には、「駐在員事務所」、「支店」、「現地法人(販売会社、製造会社)」といった方法があります。海外で物作りをし日本に輸入したいのか、海外現地市場で商品を販売したいのか、海外で作った商品を第三国に輸出したいのかなど、さまざまな目的が考えられ、それに見合った方法で、海外拠点を設立する必要があります。以前、「ベトナムに工場を作りたい」と相談にこられた企業がありました。工場設立目的を聞くと、「日本は人手不足で工員が集まらない。ベトナムに工場を作り、将来的にはベトナム工場の工員を日本に連れてきたい」というものでした。目的がずれており、このような場合、工場経営が失敗する可能性が高くなります。その点をお話しするとともに、人材確保が目的であれば他にも方法があるので、よく考えるようアドバイスしました。

2.海外拠点設立ありきになっていませんか?
「発注元が海外に進出したから」、「競合他社が海外に進出したから」といった理由で、安易に海外拠点を設立しようとしていませんか。いったん海外に進出すると、簡単に撤退できないケースもあります。自社経営資源(ヒト、モノ、カネ)の「強み」と「弱み」、進出しようとする国・地域の外部環境をしっかり分析し、さらに、自社の経営戦略との整合性が取れているか、進出目的は明確か、などを考えておく必要があります。その上で、経営判断として海外進出を決断する場合でも、リスク・リターンをしっかり分析し、身の丈にあった規模からスタートすることが重要です。

3.事前調査(Feasibility Study、F/S)は十分に行いましたか?
海外でのビジネスは、言語、通貨、法制度、為替、宗教、商習慣などが違うため、事前調査(Feasibility Study、F/S)に十分な時間をかける必要があります。F/Sには「国内調査」と「現地調査」の2つのステージがあります。「国内調査」については、日本国内で進出国・地域の情報を出来るだけ収集しましょう。外務省ホームページや、日本貿易振興機構(ジェトロ)ホームページの活用が有効です。「現地調査」については、進出候補地に実際に足を踏み入れ、日本では収集できない「生の情報」を収集しましょう。「敵を知り、己を知れば百戦殆うからず」です。

4.海外拠点設立の方法は、自社の目的と合っていますか?
海外に拠点を設立する場合、自社100%出資で行う「独資」と、パートナーと共同出資する「合弁」の形態があります。国・地域によっては、出資比率の規制(100%出資は認めない等)や、そもそも海外企業の拠点設立を認めていない業種もあり、注意が必要です。そして、現地の法規制確認後、お互いの出資比率を検討します。なお、事業の主導権を握りたい場合は、51%以上の出資が必須となります。

5.パートナーとしっかり事業について話し合いましたか?(合弁の場合)
海外パートナーの安易な選定は、事業推進に大きな影響を与えます。一定期間、パートナーが行動面・業務遂行面・財務面で信頼できるかどうかを見極めることも重要です。その上で、パートナーが信頼できると判断した場合、お互いの権利・義務(役割)を明確にし、事業に対する考え方や事業計画が合致しているか、じっくり話し合い、決定事項を契約書や覚書などの書面に落とし込むことが大事です。また、撤退条件(最悪どのようなことになれば事業から撤退するか)も決めておきましょう。日本人同士のように「阿吽の呼吸」や「言わないでも分かる」は、海外では通用しません。

最後に、製造拠点(工場)を設立する場合の留意点を列挙します。「ライセンスが取れなかった」、「原料が調達できず生産がストップした」等といった失敗例も散見されます。合弁の場合は、パートナーとお互いにどの部分の役割を担うのかも、事前に取り決めておきましょう。

(1)事業に必要なライセンスは確保できますか?
(2)電気、水道、ガス、道路、港湾などのインフラは確保できますか?
(3)工場建設に関する、信頼できる業者は見つけていますか?
(4)責任者、ワーカーの現地人材の採用は可能ですか?
(5)原料調達は可能ですか?
(6)現地の環境法規に対応できていますか?
(7)周辺の住民対策の必要はないですか?

以上

【略歴】

三好 康司(みよし こうじ)
中小企業診断士。前職の総合商社では、営業およびリスク管理業務で、中国、ベトナム、韓国などアジア・アセアン諸国に延べ150回の海外出張を経験。2015年、三好グローバル・コンサルティングを設立。すみだビジネスサポートセンター(東京都墨田区)の産業コーディネーターを務めるとともに、2016年より日本貿易振興機構(ジェトロ)の海外専門家として、中堅・中小企業の海外展開を支援している。