八木 田鶴子

 2013年9月8日早朝のIOC総会の発表を聞いて、日本中が歓喜の渦に包まれた「2020 東京オリンピック・パラリンピック開催決定!」。この2020年のオリンピック招致の歴史に残る最終プレゼンで話題になったのが「お・も・て・な・し」です。
 この「おもてなし」という言葉は、実に美しい日本語だと思いますが、「もてなす」のそもそもの意味は、「とりなす、処置する」、「取り扱う、待遇する」というものです。これに美化語の「お」をつけると、丁寧に取り扱う、心をこめるなど、日本独特の接遇の文化が感じ取れるような気がします。
 最近では、「おもてなし経営」という言葉が、ビジネスモデルの一つとして注目されています。近年の少子高齢化、都市部への人口集中等による国内市場の競争激化、グローバル化への対応、厳しい価格競争等、厳しい経営環境にさらされている企業の差別化の要素の一つとして、「おもてなし経営」の実践が期待されます。
 経済産業省においても、「おもてなし経営企業選」(http://omotenashi-keiei.go.jp/kigyousen/)という事業を実施しています。
 この内容は、地域・顧客との関係を徹底的に強化することで、価格競争に陥ることなく、顧客のニーズに合致したサービスを継続的に提供し、「顧客」のみならず「社員」、「地域・社会」から愛される経営を実現しているベストプラクティス企業を全国各地から発掘し、経営改革のヒントとなる取組を紹介するものです。
 経済産業省では、このような企業で行われている、
(1)社員の意欲と能力を最大限に引き出し、
(2)地域・社会との関わりを大切にしながら、
(3)顧客に対して高付加価値・差別化サービスを提供する経営」
を「おもてなし経営」と称し、地域のサービス事業者が目指すビジネスモデルの一つとして推奨し、「おもてなし経営」の普及をはかっています。
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           (出所)http://omotenashi-keiei.go.jp/kigyousen/
 ところで、この「おもてなし」という言葉が話題になる前に、「おもてなし」を実践し経営革新に成功している企業を紹介した「効率経営からおもてなし経営の時代へ」(著:波形克彦 小林勇治)という本が同友館より刊行されています。
 日本の小売業・飲食業・ホテル業から製造業にいたるさまざまな企業において、おもてなし経営を実践して生き残り、さらに成長を遂げる企業を紹介し、おもてなしによる経営革新を提案しています。
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 私もこの中に紹介されている企業のうち、いくつかの企業を知っています。
 たとえば、従業員10人ほどの小さなプラスチック製品加工業。ここを初めて訪問したときに、ウェルカムボードがしつらえられ、事業所内に入った途端に従業員全員が集まってきて、クラッカーを鳴らし、全員で記念写真をとりました。大きなサプライズです。帰るときには、その企業で作られた「ありがとう!」の文字のストラップをいただきました。
 また、急行の止まらない私鉄の駅近くにある日本料理店。周辺は低価格帯のいわゆる飲み屋さんが立ち並ぶなか、小さなビルの3階という、ちょっと入りにくい立地にありながら、いつも予約客で満席です。ここのオーナーは、「いるだけでコンディションがよくなる体にやさしい空間、安らげる癒しの空間、健康に良いものをおいしくいただく」をめざして、あらゆることにこだわった店づくりを目指しています。
 「おもてなし」は、常に相手の立場や思いを受け止め、サプライズや感動、喜びをもたらす行動ではないでしょうか。
 本書の中には、このほかにも、それぞれの業種業態にあった方法で感動を呼ぶ「おもてなし経営企業」の紹介がされています。
 前述した経済産業省の「おもてなし経営企業選」とともに、ご一読することをお勧めします。これからの企業経営のヒントがつかめることでしょう。
 そして、経済産業省の「おもてなし経営企業選」に応募してみてはいかがでしょうか。
■八木 田鶴子(やぎ たづこ)
有限会社テオリア取締役社長。中小企業診断士・ITコーディネータ・1級販売士・事業再生アドバイザー等。
一般社団法人東京都中小企業診断士協会/中央支部支部長、東京販売士協会副会長、イー・マネージ・コンサルティング協同組合常任理事 等。
おもな業務内容:
経営革新支援。経営戦略・経営計画策定支援。業務改善・財務会計・IT化推進等支援。商店街・個店等診断・経営支援。各種調査。教育・研修。セミナー。講演。等
(E-mail) VEP06774@nifty.com