Global Wind (グローバル・ウインド)
一年ぶりの上海レポート

中央支部・国際部 後藤 さえ

 2013年3月末に、3年間滞在した中国・上海から帰国して一年。そして、2013年9月に起業してから半年。「ビジネス・ベースでサポートする診断士」を目指してF/S会社のつもりで株式会社を作ってみたのだが、やはり一歩踏み出せば世界は開けるもの。(逆に、アクションを起こさないと何も始まらない…)起業して半年、中国滞在時に協業した現地パートナー数名と、いろんなビジネスでコレポンを続け、或る案件は進み、或る案件は頓挫し、或る案件は変化し…と、それなりに進捗はあった。しかし、いくらメールやチャットが発達していても、やはり実際に会って話をしないと、相手との意思疎通の限界を感じたり、双方の「やる気度」「本気度」が多少薄れていく気がしたりした。また、私自身「中国通」を強みとするのなら、私が知っている中国の「匂い」も「雰囲気」も、アップデートせねば!と思い、子供達が春休みに入るや否や、彼らを実家に預けて一人上海へ発った。
 上海での滞在は八日間。予め中国現地パートナーや現地の日系企業さんともアポイントメントを取り、面談をしない時間は、上海の街を一人で歩き回った。が、初日はいきなり躓いた。解約しないで日本に持って帰ってきた中国の携帯電話が、一年経つと使えなくなっていたのだ。日本の携帯で通話やショートメールはできるのだが、それではあまりに不安。ホテルにチェック・インすると、初めの面談予定まで少し時間があったので、まずは「中国移動(China Mobile)」のサービスセンターへ向かい、直ぐにSIMカードを変えてもらった。費用も1,500円程度で済んだ。そして、電話番号が変わってしまったことを、今回の出張期間中に面談予定だった人達にショートメールで伝えると、皆すぐに「歓迎」メールをくれ、面談以外の食事の御誘いもいただくなど、躓きながらも一挙にホームに戻った気がした。
 久しぶりに会った以前の職場の皆さんや、メールでしかコレポンしてこなかった日中双方のパートナーさんだが、会うと一年ものブランクを忘れるぐらいに会話に没頭した。ただ、会話の中身は、やはりこの一年の変化を十分に感じさせてくれた。
 なんといっても、どんな業種や業界であれ、中国側に資金力がついていることである。まず日中合作といえば合弁会社を設立し、利益配分や経営方針で双方がもめることが多かった時代から、私が上海にいた数年前は独資での中国進出が増加していた。ただ、独資でできることは限界もあり、やはり現地の市場展開で苦労される日系企業が多かったのを記憶する。そしてまた、私が帰国して以降「日中合作」のオファーが中国側から来るようになったのだが、彼らは日本側にお金を求めないのである。将来しっかり協業したい場合でも、日本企業に求めるのは現金出資でなく技術の現物出資、という中国企業も現れている。
 また、中国パートナーを通して私の元に来る引き合いに、日本の不動産投資案件が非常に増えたことも一つである。日本に居住していないのでローンも組めない現地のお客さんが、投資目的や将来設計のために、日本の不動産を現金購入するのである。私の上海滞在中、大手商社と現地マーケティング・不動産業とのコラボレーションで、東京の高級マンションを現地にいかなくても上海の某高級ホテルでそのまま購入できるイベントが開催されていた。残念ながら私は招待されていないので、当日参加した現地パートナーから話を聞いただけだが、都内一等地のマンションがホテルのイベント会場で売られ、非常ににぎわっていたとか。
 そして、私の帰国後の一年で「これ以上建設してどうするのだ!?」と思えるほど、また数件の巨大ショッピングセンターが出来上がっていた。新しいショッピングセンターに共通して言えるのは、「高級感」と「イベント等のサービス型商品の激増」である。もちろん、サービス商品の中には中国の方の大好きな「食」も含まれる。ちょっと中国情緒のある、古びた「食堂」ではなく、清潔で、教育の行き届いた服務員のいるレストランは、世界各国の料理があちこちにあり、世界遺産登録が関係あるのかは分からないが、和食・寿司屋の多さも非常に目立った。その金額は、日本円に換算すると日本の方が割安なのでは?と思えるものが多い中で、自由な時間とお金を美味しいお料理に費やす人々に、私は納得しつつも少し驚いた。
 中国国家統計局発表の上海市2014年3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.5%増である。主な上昇要因は家賃同6.7%増、食品同4.3%増である。意外にも衣料品は同2.9%の減であった。高いテナント費を払ってショッピングセンターに店を構える企業が苦戦を強いられ、入れ替わりが多いのもよくある話だが、こういった中~高級レストラン、子供を遊ばせるプレイルーム(補助員有)、そしてアートギャラリー(私も香港系ショッピングセンター『K11』の印象派モネ展に行ってきました!)等に人が集まり、高級嗜好品売場では閑散としていたのが、第三次産業化の経済の動きを思わせるようでもあった。
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  バンド演奏@ショッピングセンター          モネ展入口
 もちろん、社会全体に潤っている訳ではないのも事実である。スターバックスの日本円で500円ぐらいのコーヒーを飲んでいる人もいれば、朝は数十円程度のマントウと豆乳を道端で売っているのを買っていく人、ホワイトカラーでも日本円で200円程度のコンビニ弁当でランチにする人もいて、そのギャップはかなり大きい。中国国内では最高額とはいえ、この4月から上海市が定めた最低賃金は1,820人民元、日本円に換算すると約3万円。多くの上海市民がショッピングセンターのレストランで食事を楽しんでいる、とは想像しがたい。
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      人気の点心行列                回転寿司はタッチパネル
 また、日本人が一時10万人居た、とされる上海でも、国交関係というよりは大気汚染問題が原因で、駐在員の家族の帰国が増加しているようで、上海日本人学校虹橋校でも今春200名が転出したという話も聞いた。これにより、在上海日本人向けに開業していた教育サービスや美容、飲食業は打撃を受けているらしい。
 このように、発展があったり、インフレがあったり、公害があったり、社会格差が拡大したり…いろんな要素がジェットコースターのように動く大陸社会であるが、悪く言えば落ち着きがなく、良く言えば躍動しているのである。街を歩く人々も、食べながら、携帯片手に大声で話しながら…と、やはり元気と勢いがあるのが、私を魅了するところなのかもしれない。ただ一筋縄ではいかないのも事実。今回の出張で「本気度」を確かめ合った現地のパートナーさんと、互いに課した山積みの宿題を、ひとつひとつ片付けていきたい。
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     ビルのはざまの民家               外灘夜景…一人で観ました…
 
 
後藤 さえ(ごとう さえ)
 大阪大学文学部卒、日本語教師、総合商社、ITマーケティングベンチャーを経て2007年中小企業診断士登録。2008年~2010年シンガポールにて個人事業で日系企業コンサルティング、2010年~2013年中国上海で京都府上海ビジネスサポートセンターのビジネスアドバイザーとして勤務。2013年3月帰国、2013年9月に株式会社チアーマンサポート設立。(http://www.cheerman-support.co.jp/)
連絡先:s-goto@cheerman-support.co.jp