専門家コラム「仕事を楽しむ社員が会社を強くする」(2014年4月)
毎週カンブリア宮殿という番組を見ています。ご存知の方が多いと思いますが、日本中の元気な会社を村上龍が取材し、紹介している番組です。
業種も、どんなやり方で成長を目指しているかも様々ですが、何が共通しているのだろうと思って考えました。
共通していることは社員が生き生きと楽しそうに仕事に取り組んでいることなのです。仕事が楽しくて会社に来ている、家に帰ってもお客様の事を考えている、給料の為だけに働いているのではない、そこが多くの不振企業との大きな差だと思います。
例えばお客様が買い物を楽しみに来るスーパーとしてアミューズメントフードホールを標榜しているスーパーハローデイというスーパーは20年連続増収で急成長を続けています。
またばんどう太朗という「親孝行(人間大好き)」を標榜する、茨城県を中心に展開しているファミリーレストランも急成長を続けています。
今回はこの二つの企業を中心に「仕事を楽しむ社員が会社を強くする」というテーマで書かせていただこうと思います。
どうしたら社員に仕事が楽しいと思ってもらえるのでしょうか。
それができたらもっといい会社にできるのではないでしょうか。
1.仕事が楽しいというのはどういうことか
私が普段接している会社でも社員が楽しそうに仕事をしている会社は大体業績の良い会社です。残念ながらそういう会社は多くはなく、業績不振の会社では、お給料をもらうためにしょうがなくて仕事に来ているということを感じてしまう社員がいる会社もあります。
お客様と接することが仕事の飲食業や小売店でこんな感じの社員が多かったら、入りにくくなるし、食事をしても楽しくないし、売上は落ち込む一方でしょうね。
仕事を楽しむというのはどういうことでしょうか。
楽しいというのと楽だというのは全然違うことだと思います。会社に来て何もしないでいても給料がもらえるというのは楽しいでしょうか。そんなことはありません。わざと何の仕事もない部署に配属して本人が辞めたいというのを待つのは大会社の人員整理の手口としてドラマとかにも出てきます。何もすることが無かったら普通は楽だと思うより苦痛なのです。
かと言って、普通に会社に来て与えられた仕事をこなして給料をもらうだけというのもあまり楽しそうではありません。努力して創意工夫をし、その努力が認められ、社長や仲間や、とりわけお客様から感謝される、そんなとき努力が楽しいとおもえるのではないでしょうか。
次に、具体例として先ほど上げた2社を順番に見てみましょう。
2.スーパーハローデイの場合
スーパーハローデイは25年前に現社長が後を継いだ時は年商と同じくらい借金の有る最低のスーパーだったそうです。社長は赤字から脱するために頑張りました。お店を回り、あらさがしのように悪い点をあげつらい、何とか黒字にしたのですが、そのころから、社員が辞めていくようになってしまいました。悩んで相談した社長は会社が悪いのは社員のせいではない、社長自身のせいだと先輩経営者から指摘されます。
目の前の悪いものばかり見て、目の前の良いもの、自分を支えてくれる仲間を見ていないと気づかされた社長は、仲間と一緒に楽しく商売をしたい、売上ではなく日本一働きたくなる会社にしようと決心します。
そのようにして社長が作り上げ20年以上も増収を続けているこのスーパーは陳列に工夫が有るだけではなく、店内に様々な飾りつけがされていて、まさにアミューズメントフードパークとなっており、お客様に毎日でも来たいと思っていただけるようなお店になっています。その飾りつけはお店で働くパートさんが中心になって作っています。アイデアを出しながらみんなで飾りつけをするのが楽しい、お客様に楽しんでもらえるように工夫して、自分のアトリエのような感じがして楽しい、とパートさんが口々に言っています。
年3回はハロリンピックと言って近隣のお店同士で飾りつけを競い合います。まるで学園祭の準備のように楽しんで飾りつけをします。
社長はそれぞれのお店を一時間づつかけて見て回り、準備したパートさんに声をかけ握手をして回ります。あらさがしはしません。良いところを見つけて褒めて回ります。
テレビの映像を見ていると従業員が次々と社長と言葉を交わし握手をして嬉しそうにしています。そして表彰式が有るのです。
またお客様から頂いたアンケートすべてに社長が眼を通し、お褒めの言葉をバックヤードに貼りだします。従業員はそれを見て、じゃあ今度はこうしよう、とアイデアを出すのです。
パートさんが生き生きしてみんな楽しそうにしているのはなぜでしょう。言われたとおりにやれ、何も考えなくていいと言われたらつまらない、と思うでしょう。余分なことはするなとか言われたらなおさらです。
何かこうして見たらいいんじゃないかと思ったことが出来たら楽しい、自分のやっていることが認められるとうれしい、と感じるのが人間ではないでしょうか。
このように実際従業員が楽しんで仕事をしていると言っても、その楽しさは面白おかしいの楽しさではありません。現社長が継いだ時は倒産しそうな会社だったのです。それから盛り返してきたのですから、社長に言わせればベースはものすごく厳しい。その厳しさが有っての楽しさだということです。
社長の信条は「人が喜んでくれる、他人の幸せに関与できるというのが一番楽しい、幸せになれることだ」ということなのです。それを20年間言いつづけてきたと言っていました。
企画アイデアを考え、協力しあって実行し達成感と充実感を得てお客様の幸福感に寄与する。他人の幸福に寄与することで自分も幸福になるという考え方を社長はビジネスの基本に据え、成功したのです。
売上を大きくするよりお客様を喜ばせたい。お客様を楽しませるためにまず従業員が楽しむということが基本姿勢なのです。
面白おかしいという楽しさはやがて飽きてしまうでしょう。しかし、ハローデイが目指す楽しさは決して飽きることが無いと思います。
3.ばんどう太朗の場合
ばんどう太朗は茨城県中心に展開しているファミリーレストランです。東京や神奈川には出店していません。
今でこそ繁盛し成長を続けている当社にも苦しいときが有りました。
スカイラークなどのファミリーレストランが出来始めたころファミリーレストランを始めた創業期の社長はがむしゃらに売り上げを追いかける経営をしていたそうです。5店舗にまで大きくした頃、どんどん社員が辞めて行ってしまい、労務倒産しそうな状態となり、社長は、なぜ辞めてしまうのだろう。どうしたら辞めないで頑張ってくれるのだろう、と悩みます。
利益最優先で従業員に厳しくしていた、これ以上辞められたらお店を続けられないという状態になってしまい、従業員は10時までに帰すようにして、自分と奥さんで5店舗分の片づけをしながら考えます。そして、働いている人が幸せでないから辞めていくんだと、気が付いたのです。
そこで、従業員を集めてこれまでのやり方を謝ったのです。そして従業員と膝を交えて話を聞かせてもらいました。従業員からは頭ごなしに怒られて頭にきてお茶を出すとき雑巾を絞った汁を入れて出そうと思ったくらいだったとまで言われたそうです。
従業員の話を聞き一人一人がどうしたらもっと幸せになれるのかを考えて、利益や成長でなく幸せの日本一を追い求めることにしようと決めました。
この会社で働いて幸せだと思える人を何人作れるかが会社の大きさだと考えよう、そのように考えることで、従業員との関係も変わりました。今では社長が店に顔を出すとみんなが寄ってくるのです。お休みの日のパートさんもわざわざ社長に会うために出てくるのです。
このようになるまでには、従業員を大事にするということを気持ちだけでなく形にもしました。従業員の為の休憩室を改善し、和式トイレをシャワー付きに変えたりもしたのです。従業員も、ここまでやってくれたんだから頑張らなければと思います。
パートさんをねぎらう年一回のお祭り騒ぎのような表彰式をします。そこで表彰されるのはお客様アンケートで最も褒められた人や、笑顔が素敵なひと、一生懸命やっていると言われた人などです。
女将として懸命に働き客に感謝され心が熱くなるような経験をしたと言っている従業員の方もいました。
このような会社を作った社長は苦しめば苦しむほど本当の事が分かると言っています。思い付きで従業員が楽しく働ける職場を作ったのではないのです。苦しんで苦しんで、このような会社を作ってきたのです。
4.まとめ
いかがでしょうか。従業員が楽しく働くような職場のイメージははっきりとしたでしょうか。
今回この文章を書くに当って、「日本でいちばん大切にしたい会社」という本を読みなおしました。この本は増収増益を続ける会社はどこが普通の会社と違うのだろう、ということから会社の研究を始めた坂本教授がお書きになった本です。
この本には次のようなことが書かれてあります。
会社経営とは次の5人の為に行うものだ。
①社員とその家族を幸せにする
②外注先・下請企業の社員を幸せにする
③顧客を幸せにする
④地域社会を幸せにし、活性化させる
⑤自然に生まれる株主の幸せ
社員を一番に持ってきたことについて坂本教授は次のようにお書きになっています。
「私が社員を一番目にあげる理由は、お客様を感動させるような商品を創ったり、サービスを提供しなければいけない当の社員が、自分の所属する会社に対する不平や不満・不信の気持ちに満ち満ちているようでは、ニコニコ顔でサービスを提供できることなどできるわけがないからです。」
この本は今から6年前に書かれた本です。この本をきっかけに「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」ができ、毎年表彰式が開催されています。
例としてご紹介した2社はまさに従業員を大事にし、従業員が仕事を楽しいと思えるようにすることによって成長を続けています。
この文章をお読みいただいた経営者の皆様も、自分の会社の従業員は幸せだろうか、と考えて見ることにより、さらに成長していく道筋が見えてくるでしょう。
■平田 仁志
シグマックスパートナーズ
代表・チーフコンサルタント