橋本 博之

 最近、神戸で美容院を経営する会社が「失恋休暇」の制度を作ったことがニュースになっていました。失恋した時、心を癒すための有給休暇を取得できる制度です。発案者は社長だそうで、「美容師が失恋してテンションが下がったままお客さんの前に出ても仕方がない」という考えからでした。たしかに、お客様は美容院に髪のカットやパーマをしてもらうだけでなく、リラックスする場を求めて行くのですから、その雰囲気を作る美容師の態度が重要なものになります。うまくカットしてもらったとしても、リラックスできなければその美容院から足が遠のいてしまうでしょう。美容師が失恋直後の気持ちが沈んだ状態では、お客様がリラックスできる良いサービスは提供できない、まさに失恋休暇はこの点をついています。
 これは美容院に限ったことではありません。先日、友人たちと料理がおいしいと評判の居酒屋に行きましたが、店員が疲れた様子で活気がなく、なんとなく場の雰囲気も白けてしまい、早々にお開きになりました。特に雰囲気の良い店を探して行った訳ではありませんが、飲食店も料理の味だけでなく、良いサービスがなければ、全体の満足感は得られません。
  事業の源泉はお客様による商品・サービスの購入であり、「お客様第一」という経営方針を掲げている企業を見ることがあります。お客様が期待していることをお客様の視点で考え、お客様のためになるような行動を行う。その行動が直接自社の利益にならなくても、お客様のために行う内容、そしてその取り組み姿勢がお客様の満足度を高め、お客様から信頼されてリピーターになってもらえ、その結果が自社の売上・利益に還ってくるものです。
 そのお客様のためとなるサービスを提供するのは従業員です。飲食店を例にすると、その主役である「料理」の味が良いことはもちろんですが、従業員がすばらしいサービスを行ってこそ、高いお客様満足が生まれます。そして、すばらしいサービスを提供するには、従業員が元気に、生き生きと働いていることが必要です。
 先ほど紹介した会社では、失恋休暇以外にも、全店舗に電子ジャーを設置し、無料で毎日お米を炊いて食べられる「ごはん支給サービス」、子供を持ち、会社の忘年会や食事会になかなか参加できない社員のために社長が参加する「ランチ会」等、従業員に目を向けた経営を行っています。
 この対極にあるのが「ブラック企業」です。「ブラック企業」は昨年の流行語にも採り上げられ、ご存じの方も多いと思いますが、一般的には「異常な長時間労働やパワーハラスメントなど劣悪な労働条件で従業員を酷使するため、離職率も高く、過労にともなう問題等も起きやすい企業のこと」です。これが流行語になる現実は残念なことです。従業員を酷使することで、短期的に見れば業績向上につながるかもしれません。しかし、サービスという付加価値の視点からすれば、過労状態の従業員にお客様を満足させるサービスを期待することはできませんから、商品を含めた全体の価値が落ちることになり、長期的な成長は見込めません。
 サービスの提供者である「従業員」に今まで以上に目を向けると、会社に足りない「何か」が見えてくるかもしれません。従業員にもっと目を向け、従業員と話し、従業員との本音の距離を縮め、従業員の想いを受け止めることが必要です。そのためにも先ずは’今日も一日ご苦労さん’の声掛けから始められてはいかがでしょうか。
参考資料:「失恋休暇」を制度化した理由 美容院経営のチカラコーポレーション(産経新聞)
■橋本博之
中小企業診断士
ITコーディネータ