専門家コラム「中小企業こそIoT活用で大きな効果を!」(2019年12月)
■はじめに
IoT(Internet of Things)という言葉を聞くようになって5年以上が経過しています。2012年にドイツでインダストリー4.0(第4次産業革命)ということを言い始めて、その中の1つの技術としてIoTが紹介されました。IoTはモノのインターネットと訳され、モノがネットワークにつながり、モノのデータを活用して課題を解決したり新しい価値を創出するという概念です。日本でも、政府や自治体などが中小企業でのIoT活用の支援を行っていますが、日本ではまだまだIoTを活用して効果を上げている、という中小企業は少ないようです。
■中小企業でIoTの導入が進まない理由
いろいろなIoTの支援策がある中、中小企業での導入が進まない理由として、以下の3点が大きな壁になっているようです。
① 簡単に試せないのでイメージがつかめない
安価で試せるIoTとしてラズベリーパイ(シングルボードコンピュータ)とセンサーを使って機器を自作する取組が紹介されていますが、電気系のスキルとITのスキルの両方が必要となってくるために、センサーを使うためのボードの設計やハンダ作業なども必要となり実はハードルが高くなっています。無線でつながるIoTブロックのMESH(ソニー製)などを利用することでもっと気軽に試すことができるます。簡単に試してみることで、業務の中でどのようなことができるとうれしいか、IoTでできることをイメージすることができるようになります。
② 似たようなシステムがありどれを選べばいいか決断できない
IoTのツールは安価に作成できるために、似たようなシステムが多数存在します。そのため、実際に導入しようといろいろ調べて検討すると、何を選ぶのがいいのかがよくわからなくなってしまうことがあります。IoTではツール関係の機能を細かく比較するよりは支援者を選ぶことが重要です。IoTを使って効果を上げるためには業務の見直しや改善などいろいろな視点で検討していく必要があり、自社だけで進めるよりは支援者の力を借りることで短期間に成果を上げることが可能となります。
③ 試してみたけど結果を活かせない
IoTで集まってくるデータは数値データです。数値データを見て、そこからどうしたらいいかはそれぞれの企業で考える必要があります。同じ装置を入れた企業でも、結果の活かし方により効果がでる企業と効果がでない企業がでてきます。例えば、機械の稼働時間をとっている場合、稼働している時間がわかったことで満足してしまう企業と、稼働時間のばらつきをなくすためにはどうしたらいいか、を考えて対策できる企業では、対策できる企業のほうが効果をあげることができる企業となります。データ活用に関しても支援者の力を借りて進めることで成果を上げることができる可能性があります。
■中小企業でIoTで効果をあげている事例
一方、先行してIoTに取り組んだ中小企業の中では大きな効果を上げている企業があります。中小企業の製造業では、困りごとを解決するためにIoTで現状把握して改善に取組んで効果をあげる、という例が多いようです。
自動車部品の量産を行っているA社では、部品の製造個数がタイムリーに集計できておらず、生産目標数が不足する都度、残業対応をしていました。部品個数をIoTでカウントすることで1日に生産している量がわかるようになったので残業する必要がなくなりました。部品個数をIoTでカウントする方法は、スマホをカウンターとして利用したり重さで個数を知る、などの方法が考えられます。
樹脂製品の製造を行っている企業では、生産量が間に合わない場合には協力会社へ仕事を依頼していました。作業時間をIoTで自動的に集計できるようにしたところ、作業時間にムダがあることがわかり、作業時間を見直すことで内製化率をあげることができました。作業時間をIoTで集計する方法は、機械の稼働時間を把握したりRFIDを利用する、などの方法が考えられます。
これらの企業では、IoTで集めたデータから、どのように変えればいいのか、改善すればいいのか、を作業者が知恵を出し合って対応することで大きな効果をあげています。
■IoTで効果をあげるために
IoTは、ツールを導入して終わり、ではなく、その結果から何を変えていくのか、社員を巻き込んで進めることで期待以上の効果をあげることができます。製造業だけでなく、いろいろな業種でも同じような取組が可能です。中小企業こそ、IoTで大きな効果が期待できるはずです。
中小企業のIoT導入に関しては、自治体でも補助金やIoT推進ラボなどいろいろな支援策を用意しているところがあります。
中小企業診断士はIoTの導入に関して現状の困りごとの抽出からデータ活用など、具体的な対応策までご支援させていただけますので、ぜひお声がけください。
■高鹿 初子(こうろく はつこ)
中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員 副支部長
技術士(総合技術監理部門・情報工学部門)、情報処理技術者(システムアナリスト)
一般社団法人 インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ会員
ロボット革命イニシアティブ 中堅・中小AGメンバー
書籍:中小企業がIoTをやってみた: 試行錯誤で獲得したIoTの導入ノウハウ(共著)