髙野 武彦

<はじめに>
 周知のとおり、経済産業省の中小企業・小規模事業者関係の24年度補正予算は5,434億円そして25年度予算は1,811億円と近年にない大規模のものであった。内訳として主だったものを列挙すると、ものづくり補助金1007億円、商店街まちづくり事業200億円、地域需要創造型等企業・創業促進補助金200億円、地域力活用市場獲得等支援事業200億円、認定支援機関による経営改善計画策定支援405億円、小規模事業者活性化補助金30億円、等々である。こうした財政政策は、アベノミクス3本の矢の2本目の「機動的な財政政策」の具体策であるが、本稿ではその施策の意味合いとして、3本の矢の3本目の「成長戦略」において中小企業・小規模事業に関してどのように触れられているか改めて紹介する。
<アベノミクス成長戦略>
 安倍政権の3本の矢の3本目の「成長戦略(日本再興戦略)」は、一言でいえば儲かるチャンスを探してその実現にチャレンジしようとする民間企業に対し、国がありとあらゆる手段を用いて支援することにより、我が国の経済成長を実現しようとするものである。成長戦略で掲げられている3つのアクションプランの1つめの「日本産業再興プラン」の中に「中小企業・小規模事業者の革新」という項目があり、中小企業・小規模事業者に対する考え方が示されているので以下にその主要な部分を掲載する。なお、「成長戦略(日本再興戦略)」は、全文で100ページ足らずのものであるので、一度全文を読まれることをお勧めする。政府が考える我が国産業の今後の方向性のようなものが凝縮されているので、中小企業の経営者の方にとって何らかのヒントが見つかるのではないかと考える。
<「成長戦略 第Ⅱ.日本産業再興プラン 6.中小企業・小規模事業者の革新」からの抜粋>
 全国420 万の中小企業・小規模事業者、地域に広がるヒト、モノ、コミュニティといった経営資源は、日本の製造業の復活を支え、付加価値の高いサービス産業の源泉であり、世界に誇るべき産業基盤である。こうした産業基盤の革新が、地域経済を再生させ、我が国の国際競争力を底上げすることにつながる。
 このため、開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指すこと、中小企業・小規模事業者の成長分野への進出を支援し、2020 年までに黒字中小企業・小規模事業者を70万社から140 万社に増やすこと、今後5年間で新たに1万社の海外展開を実現することを目指し、国、地方公共団体に加え、中小企業・小規模事業者を身近に支える士業、中小企業・小規模事業者関係団体、地域金融機関などの支援機関が一体となって、地域のリソースの活用・結集・ブランド化、中小企業・小規模事業者の新陳代謝の促進及び国内外のフロンティアへの取組促進を進める。あわせて、現場の中小企業・小規模事業者の目線に立って、「最も分かりやすい」中小企業・小規模事業者向けの施策を目指し、申請書類の更なる削減・簡素化等、支援制度の使い勝手の向上について不断の見直しを行っていく。
①地域のリソースの活用・結集・ブランド化
 地域にはヒト、モノ、コミュニティといった数多くのリソースが利用されないまま眠っている。そのため、これまでの地域資源の考え方を地域の様々な経営資源にまで拡充し、これらを有機的に結び付けるため、地域資源の発掘及びビジネス化するための支援ネットワークの構築や一層のブランド化を図る。
○地域のリソースを活用・結集させた起業・創業の促進
○資金調達の多様化(クラウド・ファンディング等)
○「プレミアム地域ブランド」の創出
○地方産業競争力協議会(仮称)の設置
②中小企業・小規模事業者の新陳代謝の促進
 我が国の起業・創業を大幅に増加させ、開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指すとともに、経営者の高齢化・後継者難が一層深刻化する中で、経営者の世代交代、親族外への事業承継等による有用な経営資源を移転促進することより、中小企業・小規模事業者の新陳代謝を促進する。
 また、地域金融機関が地域経済を担う企業の経営改善や事業再生・事業転換等の支援、新たな産業の振興や成長性のある企業の育成に向け、コンサルティング機能の発揮やリスクマネーの供給に積極的に取り組むよう、地域密着型金融を促進する。
○起業・創業から立ち上がりまでの一貫した資金支援
○個人保証制度の見直し
○事業引継ぎ、事業承継の支援
③戦略市場に参入する中小企業・小規模事業者の支援
 中小企業・小規模事業者が、環境・エネルギー、健康・医療、航空宇宙などの成長分野に参入するためには、成長分野における参入障壁を克服するとともに、企業連携のためのマッチングやインターネットの活用を進める。
○成長分野進出に向けた専門的支援体制の構築
○大企業・異業種をターゲットにした新分野展開の促進
④国際展開する中小企業・小規模事業者の支援
 中小企業・小規模事業者の海外展開を更に進めるため、点から線、線から面へと支援を拡大することで、海外展開支援の広がりと深化を図り、今後5年間で新たに1万社の海外展開を実現する。
○ハンズオン支援体制の拡充・強化
○海外現地支援プラットフォームの整備
■髙野 武彦
中小企業診断士