Global Wind (グローバル・ウインド)
西アフリカのセネガル

中央支部・国際部 六角 一雄

 2012年7月28日から2013年3月5日まで、私はセネガルのダカールで仕事に従事していた。仕事とは、セネガル国に日本企業のビジネスや投資を誘致するためのアドバイスをセネガル国の投資促進公社にアドバイスすることである。赴任前、セネガル国に関する情報を集めたが、日本国内ではほとんど資料がなく知識を持ち合わせない状況で現地に赴いた。
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                     セネガル地図
セネガル国の第一印象
 セネガルへはドバイ経由で向かった。所要時間は26時間余でダカール空港へ到着した。空港着陸時にひときわ目を引く建造物が見えた。当地で何かと尋ねると、アフリカ・ルネッサンス像とのこと。(*写真1)これは2010年にセネガル独立50周年を記念して造られたモニュメントであるとのこと。日本人の私から見るとあまりしっくりしない代物だが、現地の人にとってはアメリカ人にとっての自由の女神と同じものらしい。西欧の植民支配からの解放を表しているものだと思う。ちなみに、この像の建築にあたっては朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の強力なサポートがあったと言われる。(定かでないが、贈り物ともいわれる。)
                  写真1(アフリカルネッサンスの像)
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                  空港近くの丘の上にそびえる像
 空港を出て市内へは海岸沿いの道路を通り、さしたる渋滞もなく30分ほどでダカール市の中心街へ入った。市内中心部はやや雑然とした感じで、物売りが多い。当地では「バナバナ」と呼ばれ、あらゆる商品を販売している。平台で商品を広げる者もいれば、持ち歩きながら販売する者もいる。私が滞在期間中に見たバナバナで変わった商品を販売していたのは、スーツ、靴(なぜか一足だけ持っている)、アイロンとアイロン台を持ち歩きながら販売しているバナバナがいた。いったい誰が買うのだろうと思ってしまう。
 バナバナは当地のインフォーマル経済を象徴する存在で、一説では経済統計に表れないがGDPの半分ぐらいの経済規模があると言われている。
                     写真2(ダカール市内)
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                     路上の物売りとタクシー
セネガル経済について
 ここでセネガル経済について概要を述べておこう。セネガルにおける国民一人あたりの所得(GNI)は約1070㌦とベトナムよりやや低く、カンボジアより高い。ここ5年間の経済成長率は、2%から4.8%で推移し安定成長を遂げている。
                   表1:セネガル国基礎データ
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                   表2:主要経済指標(2007 – 2011)
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(出所:世銀統計データより作成)

西アフリカの中のセネガル
 西アフリカといった場合、地域・経済的な結びつきで次のくくり方がある。(表3参照)
 ①UEMOA 8カ国(西アフリカ経済通貨同盟)
 ②ECOWAS 15か国(西アフリカ諸国経済共同体)
 セネガルはこれらの国の中で、一番政治的に安定しており、ヨーロッパに一番近い場所に位置していることもあり西アフリカ諸国への玄関口として見ることが出来る。セネガルでは1960年の独立以来一度もクーデターや政治的な混乱がなく成熟した民主主義が定着している。2012年の大統領選挙では野党候補だったマッキー・サル氏が勝利し、政権交代となったが大きな混乱はなく平和裏に政権が引継がれた。
                    写真3(大統領官邸)
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                    大統領官邸と警護する衛兵
 UEMOA(西アフリカ経済通貨同盟)8カ国では、セイファーフラン(CFA)が共通通貨として使用され共通紙幣が流通している。またこの通貨はユーロに固定しておりその換金についてフランス財務省が保証している。換算レートはCFA655.957 / ユーロである。
 ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)はUEMOA8カ国に近隣7カ国を加えた15カ国で構成される。ECOWAS内では共通関税(Common External Tariff=CET)が適用され、域内で生産された産品については関税を課さない取決めとなっている。
                   表3:UEMOAとECOWAS経済圏
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セネガルの可能性
 セネガルの経済規模を見た場合、2011年のGDP143億ドル(1兆4300億円:1㌦=100円換算)人口1280万人と小振りなマーケットである。鉱物資源はリン酸を除いては有望な資源が見当たらず、セネガル1か国をビジネス対象として見ると魅力は相対的に低いと言わざるを得ない。
 一方、UEMOAやECOWASという地域全体で見ると大きなマーケットが見えてくる。 (表3)また、西アフリカの経済成長率は年率5%を超える成長が継続している有望なマーケットである。その中でナイジェリアとガーナは、経済規模も大きく単独市場として取り組むことが可能である。これら2カ国を除く他諸国とりわけUEMOA8カ国へのアクセスを考えると、次の点がセネガルの可能性としてあげられるのではなかろうか。
 ①西アフリカ諸国への玄関口
 ②近隣諸国への中継貿易地
 前にも述べたが、セネガルはその政治的安定性と治安の良さにより西アフリカ諸国の玄関口として必要要件を備えている。ユニセフ、西アフリカ中央銀行等の国際機関の西アフリカ本部がセネガルに置かれているのも政治的安定と治安の良さによるものである。
 去る4月に東京でセネガル・ビジネス・セミナーを実施したが、約130社の参加があり日本企業の関心の高さがうかがえた。参加企業の方々にはセネガルの良さを十分理解いただいたと感じている。中には、4月ないし5月より現地調査を開始したいとする企業もあり、現地企業に関する情報照会等も寄せられ心強く感じた。
 上記の政治的安定性とあいまってECOWAS 15カ国の共通関税制度(CET)はセネガルを近隣諸国へのアクセス拠点とする可能性を高めている。さらにセネガルにおける通関業務の迅速さは他国に優っておりこの点も優位に働く。これは、2010年に同国における通関手続きの電子化を行ったことで業務簡素化が図られ、輸入通関では書類提出後48時間以内に貨物を引取る事が可能となっている。
 現在、セネガルでは韓国のサムソンが現地企業と合弁でTV、エアコンの組立事業を行っており、セネガル国内販売とともに隣国のマリやギニアビサウに製品輸出をしている。日本の進出企業は2013年4月現在、三菱商事とコマツの2社であるが両社ともセネガルから近隣諸国をカバーしている。
 今年は、横浜にてTICAD5が6月1日~3日の日程で開催される。テーマは「躍動のアフリカと手を携えて」で、アフリカの質の高い成長を目指して開催される。今後、高い成長が見込まれるアフリカは、日本の重要なパートナーとして貿易及び投資を一層促進していくことが確認されると思われる。そして日本企業が西アフリカ諸国とのビジネス促進、投資促進を図っていく中でセネガルの可能性と発展性を見出して貰えるのではないかと期待している。