専門家コラム「今年の税制改正でこう変わる」(2013年4月)
消費税率がいよいよ来年4月から8%に引上げられ、来年1月からは上場株式配当・譲渡益への課税が10%から20%となります。所得税・相続税についても最高税率が引上げられる増税の一方、企業関連では民間投資や雇用を喚起する減税策も盛り込まれています。
今後適用される税制について内容を再確認していきましょう。
1.消費税
(1) 税率の引上げ
平成26年4月1日より8%、平成27年10月1日より10%へ段階的に引上げられます。
(2) 経過措置
① 原則
施行日の前日までに締結した契約に基づき行われる資産の譲渡等及び課税仕入れ等であっても、これらが施行日以後に行われる場合には、別段の定めがある場合を除き、8%の税率が適用されます。
② 特例
ⅰ.前売切符等の取扱い
乗車、入場または利用することができる日が、施行日以後の特定の日に指定されているJRの切符や映画の前売券等につ いて、乗車券等を施行日の前日までに販売した場合については、5%の税率が適用されます。
ⅱ.工事の請負に関する取扱い
工事の請負については、その契約の締結から完成引渡まで長期間を要するのが通例であり、工事の完成引渡が施行日以降となる場合であっても、平成25年10月1日(以下指定日という) の前日までに工事の請負に関する契約を締結した場合には、5%の税率が適用されます。
ⅲ.資産の貸付に関する取扱い
指定日の前日までに締結した資産の貸付に係る契約で、施行日前から施行日以後引続きその契約に係るその資産の貸付を行っている場合には、原則として5%の税率が適用されます。
(3) 特定新規設立法人の納税義務免除の特例
資本金1000万円未満で法人を設立する場合に、①課税売上高5億円超の事業者、②特殊な関係にある法人の課税売上高5億円超の者等の大規模事業者等が50%超出資して設立された特定新規設立法人については、設立1期目から課税事業者となります。
2.法人税
(1) 中小企業の交際費が800万円まで全額損金算入
平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度に、中小企業が支出する交際費については定額控除額が600万円から800万円まで引き上げられると同時に10%損金不算入措置が廃止され、全額損金算入されます。
(2) 従業員数を増加させた場合の減税限度額を40万円に拡大
平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度に、従業員数を増加させた場合、その増加人数に応じて法人税額から控除できる雇用促進税制について、その税額控除限度額が1人当たり、20万円から40万円に引き上げられます。
(3) 給与を増加させた場合の減税制度の創設
平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度に、青色申告書を提出する法人が、国内従業員に支給する給与等について、給与等支給総額を基準年度より5%以上増加させた場合、その増加額の10%を税額控除できます。
(4) 商業・サービス業等投資減税制度の創設
平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に、青色申告書を提出する中小企業等で、認定経営革新等支援機関等から経営改善の指導等を受けて行う店舗改修等に伴う器具備品及び建物付属設備の取得等をして、商業・サービス業用等とした場合に、取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除ができます。
(5) 設備投資促進税制の創設
平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度に、青色申告書を提出する法人が、国内事業用生産等設備の投資額を前年度に比べて10%超増加させ、その投資額が当期の償却費を超える場合に、その生産等設備のうち機械装置について、取得価額の30%の特別償却または3%の税額控除ができます。
(6) 中小企業技術基盤強化税制の税額控除額の引上げ
平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度に、中小企業者等が支出した試験研究費について、控除税額の上限を当期の法人税額20%から30%に引上げられます。
(7) 事業承継税制の要件緩和
非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、平成27年1月1日以降、後継者を親族以外でも可能し、先代経営者は代表を退任するだけで、役員として残留できるなど、適用要件が緩和されます。
3.所得税
(1) 所得税の最高税率の引上げ
平成27年分以後の所得税について、課税所得4000万円超の部分に45%の税率が適用されます。
(2) 住宅ローン減税の延長と控除額の拡充
消費税引上げに伴う対応の一環として、その適用が平成29年12月31日まで延長されます。
(3) 金融証券税制
平成25年12月31日をもって上場株式の譲渡及び配当についての10%分離課税が廃止され、来年1月からは本則の20%課税となります。
これに伴い、平成26年から10年間について毎年100万円を上限にISA口座での購入が可能となり、ISA口座で購入した上場株式等は、配当金・分配金・譲渡益等について最長5年間非課税となります。
4.相続税
(1) 相続税の基礎控除の引下げ及び税率構造の見直し
平成27年1月1日以後の相続について次の改正が行われます。
① 基礎控除の引下げ
基礎控除が、5000万円+1000万円×法定相続人数から3000万円+600万円×法定相続人数に引き下げられます。
② 最高税率の引上げと税率構造の見直し
最高税率が55%に引上げられるとともに、税率区分が6段階から8段階に改正されます。
③ 小規模宅地等の特例適用の拡充
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算特例について、特定居住用宅地等に係る特例対象面積が240㎡から330㎡に拡大されます。
(2) 贈与税の税率構造の見直し
平成27年1月1日以後の贈与について、相続時精算課税制度の対象とならない贈与財産にかかる贈与税率の最高税率が55%に引上げられるとともに、税率区分が6段階から8段階に改正されます。
(3) 相続時精算課税制度の適用要件の見直し
平成27年1月1日以後の贈与について、贈与者の年齢要件が60歳以上に引き上げられ、受贈者の範囲に20歳以上の孫が追加されます。
(4) 直系尊属から子・孫への教育資金1500万円一括贈与が非課税
平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、子・孫(30歳未満の者に限る)の教育資金に充てるため、その祖父母等の直系尊属が金銭等を出し、金融機関等に信託等をした場合、受贈者1人につき、1500万円までの金額については、贈与
税が非課税されます。
■垣本 容子
税理士・中小企業診断士・行政書士・ITC
垣本税理士事務所
(株)YKMS