専門家コラム「良い人間関係を作って幸せへの近道を築きましょう」(2013年2月)
「あのとき人を見る目があったら、失敗しなかったのに!」と自分の判断の甘さに悔んだことはありませんか。ビジネスの現場では、すぐに人に関わる判断を迫られる場面が多く、即断即決の状況に遭遇し、待ったなしに追い込まれることは日常茶飯時です。
「この人なら間違いない」と思って保証人になった直後に連絡が取れなくなり、借金を肩代わりし人生を棒に振った。「これこそ当社が求めていた人材」と思って惚れ込んで採用したら、とんでもない食わせ者で、巨額のお金を使い込みされた。相手の担当者が好感を持ってくれていたので、「受注間違いなし」と上司に報告したとたん、他社に注文を奪われてしまった。このように、数え上げたらきりがないぐらい大勢の人たちが「人を見抜く目」に関する問題で悩み苦しんでいます。
右肩上がりの時代であれば、リスクの高い判断は先延ばしにする逃げの姿勢が取れましたが、市場規模が縮小し顧客数が減少する現在は、物事に前向き、積極的に取り組まなければチャンスを逃してしまします。だからこそ、人を見抜く目(能力)は今まで以上に重要になってきます。
しかし人を見抜く目(能力)を身に付けるためには、場数が必要になりますが、忙しい経営者の皆様方にはミスは許されず、その上経験を得るための時間がありません。そこで、小職が一読した「5分で人を見抜く:武田哲男著(PHP文庫)」を参考に人を見抜くノウハウを紹介します。
■交流分析を人間関係に活かす
人を見抜く前にまず自分が見抜かれても差支えがないように、他の人とより良い友好関係を築くことが必要です。そこで参考になるのが、アメリカのエリック・バーンという精神科医によって考えられた交流分析です。この交流分析では、人は誰でも「P:ペアレント」、「A:アダルト」、「C:チャイルド」の三つの自我を持っていると考えられています。自我の内容は以下の通りです。
P:自分の父親、母親、あるいは自分を育ててくれたその他の人たちの考え方や感じ方を取り入れた部分
A:物事を自分で冷静に判断して行動する部分
C:自分が幼い頃にしたのと同じように感じたり考えたりしている部分
交流分析では、この三つの自我を使い分けることで、人間関係をスムーズに保てるとアドバイスをしています。たとえば、相手が子どものようなわがままな態度(C)をとったときは、こちらが冷静に受け止めて対応する(A)といったようなことです。
ここで、おもしろいエピソードがあります。
交流分析の研究では日本で第一人者の杉田峰康先生がアメリカのある大学病院で心理療法の訓練を受けている際、一人の男性患者と面接をすることになりました。その患者は部屋に入ってくるなり開口一番、「先生、タバコを一本くれませんか?」と切り出しました。先生は初対面の時からなんて失礼な奴だと思ったそうですが、気を取り直して、「私はタバコを吸いません」と答えました。そしてその日は型通りの診察を終えましたが、その患者はその日以来二度と診察に来ませんでした。後になって先生は他の教官の精神医に次のようなアドバイスを受けました。「心理療法にやってくる患者は、つねに治療者に受け入れてもらえるかどうか不安に思っています。受け入れてもらえるという安心感を持ちたいのです。あなたの場合、患者にタバコを与えることの是非が問題じゃなくて、患者が遠まわしに何を求めていたか、それに気が付かなかった点が問題なのです。このことで先生は、相手の一見何気ない言葉も、なんらかの心理的な含みを持っていることを学んだそうです。それ以降、患者が診察室に入ってきて「この部屋は明るくて気持ちがいいですね。」というと「あなたに気に入ってもらってよかった。」と答えるようにしているそうです。つまり不安を持っている相手に対して、親切なP(ペアレント)の態度を見せることで、親身な交流ができるように心掛けているのです。
■上手なストロークの使い方
杉田先生は、人間関係をうまく運ぶためのストローク(人間関係のなかでやりとりをする言葉と理解してください)を次の①~④のポイントとして挙げています。
①必要とされるストロークを惜しみなく他人に提供すること
ストロークの出し惜しみをしないことです。
たとえば相手の服が似合っていれば、こちらから積極的に「その服似合うね」と言って褒めてあげることです。
②欲しいストロークが来れば喜んで受け取る
日本人は謙虚や謙遜を美徳としますが、相手に褒められれば、「いやいや、そんなことはありません」などと言わずに、「ありがとう」「そう言っていただけると嬉しいですよ」などと、肯定的に受け取り、表現することです。
③欲しくないストロークは上手に受け止める
「君はセンスが悪いなあ」などと言われたら、「なるほど、今度からは少しセンスを磨くように努力しましょう」といったふうに、A(アダルト)の自我で冷静に受け止めるようにします。
④自分に良いストロークを与える
自信を喪失したときなど、「あのとき上手にやれたじゃないか」と自分自身をほめてあげることです。
これらのストロークの使い方を参考にして、他の人とより良い友好関係を築いてください。
■信用できる人かどうかを見抜く
自分から相手の方に接する基本ができれば、次は相手の見抜き方です。
第一印象で、その人が信用のおける人物かどうかを判断することは、きわめて大切なことです。一般的にいえば、あまりハッタリのない人、こちらの目を真っ直ぐに見る人、言葉が穏やかでとげのない人、自分の意見を慎重にかみ締めながら話す人、こちらの話をさえぎらずに最後まで聞こうとする人、これらのタイプは、ある程度信用がおけます。
逆に、どこかそわそわしている人、声や態度が大きくハッタリを感じる人、こちらの目を見て話そうとしない人、態度にどこかイライラしたものを感じさせる人などは、あまり信用がおけないことが多いようです。
もっとも、これらはあくまで一般論であり、穏やかでハッタリがないように見えても、実際はとんでもない詐欺師タイプの人や、反対に声や態度が大きく、一見詐欺師タイプに見える人が、本当は結構誠実で信用のおける人であったりもします。では、それ以外の判断基準はなんでしょうか。その最大の基準は、「時間」と「お金」にあると考えています。
①時間にルーズな人は信用しない
約束した時間を守るかどうかが判断基準です。
会社と会社の付き合いを例にとれば、そこには必ず納期がついて回ります。納期をきちんと守る会社は、取引先から信用されるし、納期が杜撰な会社は信用されません。
個人の場合でも、約束の時間を守る人は信用がおけるし、しばしば遅刻するような人は信用がおけません。
なんだ、そんなことかと思われるかも知れませんが、このことを理解していない人が案外多いのも事実です。会議の席に平気で遅れてくる、取引先への訪問時間にルーズ、友達との約束時間を平気で破る。こんな人は周りから決して信用されることはありません。
「あの人は時間にルーズだが、信用のおける人間だ」などと考えて付き合っていると、必ずひどい目に遭うと考えていたほうがよいと思います。
会社であれ個人であれ、「あの会社(あの人)は、日頃から時間や期限に非常に正確だ。約束した期日には必ず納品してくるし、約束の時間には必ずやってくる」このような積み重ねが相手の信用を得ることにつながるのです。
②自腹を切れない人は信用できません
もう一つの判断基準は、お金です。これも会社であれ、個人であれ同じです。取引先との間で最初に支払額・支払い条件を決めたなら、必ず守ることが基本です。金額を決めておきながら、支払いの時になると値切ったり、支払い条件を悪くしたりするような会社は決して世間から信用されません。個人でも、お金を借りるようなことがあれば、必ずきちんと返済します。また仲間と飲みに行った際は、自分が負担すべきお金はきちんと支払う、これでこそ周囲から信用のおける人だといってもらえるのです。
悪い例では、自腹を切らないことが習慣になっている人がいます。どんな時でも会社の経費で落とそうとする、それができないときは、なんとか相手に費用を出させようとする。何かの集まりの時に用事もないのに顔を出して、飲み食いだけして帰る人がいませんか。あの人は、いつも中身が何もない雑談だけして、飲み食いをしていつの間にか姿を消している。そんな評判が立ったら、誰からも信用してもらえませんね。
お金と時間に関してきちんとしていることが、信用を勝ち取るための最低条件です。逆に、その人や会社が信用できるかどうかを見抜こうと思えば、時間とお金にきちんとしているかどうかを見ればよいのです。
③信用が信頼につながる
信用と信頼は少し意味合いが異なります。人であれ会社であれ、最初は信用を積み重ねていくことが大切で、その積み重ねのなかから信頼は生まれます。信頼というのは最初から得られるものではなく、時間とお金にきちんとした態度をとることで周りから信用されることになり、その信用してもらえる状態を一定期間続けることで、初めて信頼を得ることができます。周りから信頼される状態になれば、たとえトラブルが生じても決して悪くはとられません。たとえば、たまたまその日に仕事の都合で待ち合わせに遅れても、相手の人は「あれだけ時間に几帳面な人が、なぜ約束時間に到着しないのか」と逆に心配してくれます。このように心配して頂けるのも、あなたが相手の人に信用・信頼してもらっているからです。人間社会の中では、時間とお金を正確に守らなければ、信用も信頼も存在しないし、それを見極めるためには時間がかかるということなのですね。
■20種類のタイプから人を見抜く
上記で紹介した以外で時間をかけずに人を見抜く方法もいくつかあります。その中の一つが今回紹介する、20種類のタイプで「外面から内面を判断」する基準です。
もちろん人は一面的ではありませんので、決めつけはできませんし、その判断の背後には、これまでの付き合いの長さ、相性、利害関係などが複雑に絡んできます。以下に紹介する判断基準も相手の人との関係などから、あなたなりに修正を加え、参考にしてください。
①服装がだらしない人
よくいるビジネスの場で、よれよれの上着を着ていたり、ネクタイが曲がっていても全然頓着しないタイプです。ひどいときには、社外の人との打ち合わせの場にも、ゆるめたネクタイで、上着を肩に引っ掛けて現れたりします。
この手の人は、見かけ通りにどこか一癖あるタイプです。性格は豪放で、人情味もあります。人間的には「情にもろい」のが欠点です。このタイプの方に相談を持ちかけるときは、ビジネスライクに話を持っていくよりも、情を絡ませたほうが力になってくれます。「実は本当のところは、こうなんです。」「あなたには全てお話してしまいますが」「全部お任せしますから、ぜひとも力を貸してください」といった頼み方です。逆にビジネスライクに接すると、ヘソを曲げてしまいますのでご注意ください。
②やたらと目をしばたく人
話をしているときに、やたらと目をパチパチとしばたたかせる人がいます。この手のタイプは気が小さく、あまり頼りにはなりません。とくに目をしばたたかせる頻度が高いときは、腹に一物があることが多いようです。
ただ気は小さく、それほどに悪人にはなりきれないので、あまり大きな悪事を働くことはありません。ビジネス上の交渉の相手としては比較的組みやすいタイプです。心の内が表情に出やすく、表情を見ていれば考えていることが大体判断できます。こちらが多少強く出れば、一歩引くところもあります。その意味では、交渉や依頼、相談などで遠まわしな言い方はあまり適用しないタイプです。人が良いのでニコニコ聞いてくれてはいますが、結局、話の内容は理解してくれていない事が多いようです。「ズバリ言うと、こういうことなのです」「○○さんを見込んでお願いします。ぜひこうしてください」とストレートに用件をぶつけるほうが、効果的です。
③じっとこちらを見据える人
恋人同士ならともかく、ビジネスの場においてこちらを強い視線で見据える人は、かなり警戒心の強い人です。相手の言い分をじっくり聞いてやろうという姿勢の表れでもありますが、あまりに視線が強い場合は、最初からこちらに対して猜疑心、警戒心、不信感を抱いているケースが多いようです。こうした視線を感じた場合は、あまり感情を交えず、できるだけビジネスライクに話をしたほうが上手くいきます。下手な冗談を言って、外れると、猜疑心、警戒心、不信感が決定的なものになりかねません。できるだけ淡々と、道筋を立ててネゴシエーションを行うことです。「お願いの主旨は三つあります。一つ目は、・・・・。二つ目は、・・・・。」といった具合です。
ただし、強い視線の中に「柔らかみ」を感じる場合(表現するのは難しいのですが、表情はきついし、じっとこちらを見据えてはいるが、視線は決して冷たくない)は、好意的に話をじっくり聞こうという姿勢の表れだと考えてもよいようです。誠実に一所懸命にこちらの気持ちを話せば伝わることが多い、「目は口ほどにものをいう」のパタンですね。
④目を閉じながら視線をそらす人
話をしているときに、相手が一瞬目を閉じて、視線をそらす場合があります。この表情は、相手への拒絶を意味しています。相手がこうした表情をした場合は、要するに「目を閉じた」のではなく「心を閉じてしまった」と考えるべきです。何か交渉事をしているのであれば、成果を得るのは難しいでしょう。目を一瞬閉じながら視線をそらすのが癖になっている人は、プライドが高く、人見知りをするタイプです。よくいえば自分に対して自信を持っています。悪く言えば傲慢で、「自分以外はみんな馬鹿だ」考えるところがあります。
この手のタイプは、相手が気に入ると、とことん受け入れようとします。ただし、気に入るか気に入らないかは、直感で決め付けるので、こちらとしてはあまりテクニックを弄するべきではないことです。そして交渉相手としては難人物です。その理由は、ちょっとした言葉の表現で、急に気に入らなくなったりする傾向があるからです。最初にこうした表情に気が付いたときは、おべっか、おだてなどは通用しないと判断することです。交渉や相談などの場合でも、むしろ少し距離を置いて接したほうがよい結果が出ることが多いようです。あまりずけずけと相手の領域に踏み込むような接し方は、この手のタイプには禁物です。お伺いを立てながら一歩ずつ進めていったほうがよい場合が多いようです。
⑤口元を意識的に締めている人
口元の両端(口角)をぎゅっと締めて話を聞く人がいます。極端に「へ」の字なっているときは拒絶の印ですが、そうでない場合は、相手の話に関心を持っている印です。
この場合は、その後に質問、異論、疑問などが発せられます。つまり、相手の話をじっくり聞いて、その後で自分の意見を話そうと考えているときに、この表情が表れやすいのです。ビジネス・ネゴシエーションの場で相手がこの表情を見せたときは、少なくともこちらの話に無関心ではないと判断してよいでしょう。
⑥やたらと声の大きい人
要するに地声の大きい人です。声というのは意外にその人物の本質を表しています。か弱い声は小心者、甲高い声はお調子者、低く落ち着いた声は太っ腹といった具合です。
地声の大きな人は、存在感があり、自己主張が強く、自信家です。ビジネス上でもそれなりの実力を持っていることが多く、人見知りをすることもなく、いつでも堂々とした行動をとり、誰とでもすぐ仲良くなります。声の大きさに対して、周りの人が本能的に「力」を感じ取り、向こうから寄ってくる一面もあります。自分に自信を持っていますので、プライドをくすぐられると弱い面があります。「本当にあなたと会えてよかった」といった一言で、他の人以上に素直に喜んでくれます。ただし、プライドが高いだけに、下手な「くすぐり方」をすると逆効果なので注意してください。
⑦吃音で話す人、たどたどしくオドオドと話す人
極端な場合は別として、多少吃音で話す人の中には、気が小さくて頭のよい人が多いようです。言いたいことが次々と頭の中に浮かんできて、そのスピードに口がついていかない反面、気が小さいのでオドオドしながら、たどたどしく話す癖があります。知識が豊富で、判断力に優れている場合が多く、頭がよいので、下手な小細工は通用しません。逆に、たとえばある専門的なことに関して相手が非常に豊富な知識を持っていれば、途端に尊敬してしまう一面も持っています。要するに、相手の知的レベルを瞬時に判断し、以後の付き合い方もその時の判断によって決めてしまうタイプです。頭はよいが、意外に何かに対して劣等感(学歴、育ち、容貌、話し方、等)を持っているタイプで、ある意味では繊細で神経質なので、付き合う側としては言葉を選ぶ必要があります。
交渉・以来の時には、論理的に話すことです。あまりくどくど話すのではなく、「今日はこの件についてお願いに上がりました」「あなたには、この点についてお力を借りたい」と単刀直入に話を持っていくことです。
⑧顔のつやがよくて、声に張りがある人
顔のつやには、その人の身体と心の状態が如実に表れます。肌につやがなく、黒ずんだ感じで、とくに額の両側のところが小判状に黒ずんだ様子は、お金に相当困っていることを示しています。相手がこのような状態にある場合は、貸したお金はまず返ってこないと考えたほうがよいと思います。
逆にいつ見ても顔のつやがよくて声に張りのある人がいます。表情がよいから仕事がうまくいくのか、仕事がうまくいっているから表情がよいのかわかりませんが、いずれにせよこのタイプの人とは、こちらからお願いしてもお付き合いさせてもらうべきです。吉相の人のそばにいるだけで、こちらも吉が訪れることが少なくないからです。
⑨表情を変えない人
ビジネスの場では、喜怒哀楽を露骨に表すことは好ましいことではありません。しかし、それも程度の問題で、多少の感情表現は必要です。感情の起伏が激しいということではなく、嬉しいときに嬉しい顔、困ったときに困った顔をするタイプの人は、ビジネスの場でも好感をもたれることが多いのです。
ところが、中にはほとんど表情を変えないタイプの人がいます。このタイプは、短時間で親しい関係になろうと考えないことです。むしろ、時間をかけて少しずつわかり合い、最終的に信頼関係を築くやり方を考えるべきです。あまり表情を変えない人は、理論的思考の持ち主であることが多いのです。よくいえば、筋道を立ててじっくり考えるタイプ、悪くいえば常に第三者的立場でものをいう評論家タイプ、海千山千の人物です。何か依頼しても、「よし、俺に任せろ」「わかった。なんとかしてやろう」という話にはなかなかなりません。むしろ、困ったときは、第三者的立場で意見を聞かせてもらうといった形で力を借りるほうがよいと思います。下手に物事を頼んで、逆に利用されることが起こるのもこのタイプです。
⑩体格はよいが声のトーンが高い人
体格のよさは威風堂々としたイメージを周りの人に与えます。このタイプは、知らず知らずのうちに周りに存在感を与えるという意味で、体格ゆえに得をしています。ただし体格がよくても、たとえば顔つきが軟弱であったり、猫背であったりすると、途端に存在感は薄れます。むしろ体格がよいのが災いして、欠点・弱点が強調されてしまいます。逆に、体格がよい人で、声がやたらに大きかったり、行動が粗雑だったりする場合も、周りからは嫌われます。
では、体格がよい人でビジネスに成功するタイプはどんなタイプでしょうか。色々と条件はありますが、そのひとつに「声がやさしい人」が挙げられます。体格がよくて迫力がある一方で、意外とものの言い方がソフトで、声もやさしい。こうなると、周りの人はその人物に好感を持ちます。実際に体が大きく声がソフトで温もりのある人には、好人物が多いのです。
⑪見た目がいかにも温厚そうな人
ビジネスの場では、うわっつらだけで相手のタイプを判断できないことは、既に述べた通りです。いかにも温厚そうな人が、実際に温厚かどうかは、よく観察しなければわかりません。また「温厚である」ことの意味も、相手によって違ってきます。たとえば、ある人に頼み事をすると対応は温厚そのもので拒否はしません。ところが、実際に何か行動をしてくれるかというと、まず自分から動こうとしない。この手のタイプは波風を立てないこと。敵を作らないこと、失敗をしでかさないこと。つまり何もしないという自己保身しか頭にない人です。相手にするなら、本当に実力があって、しかも当たりの柔らかい人でなければなりません。「温厚さ」に騙されてはいけないということです。
⑫気弱そうな目をしている人
気弱そうな目をしている人は、本当に気弱であることが多いです。つまり目に関しては、人間は嘘をつきにくいのです。だから、怒り、喜び、悲しみなど相手の心を読もうと思えば、表情や態度でなく、目に注目するのが一番なのです。
この手のタイプは、気弱だからといって、高圧的な態度に出ては絶対にいけない。「窮鼠猫をかむ」ではありませんが、気弱な人というのは自分が気が弱いと知っているだけに、そこを突いてくる人には猛烈な反感を抱きます。もちろん反感を抱いたからといって、それをストレートに表に出してくることはありませんが、後で陰湿な方法でしっぺ返しをする恐れがあります。気弱そうな人には、むしろ他の人以上に気を遣った接し方をするべきです。
⑬やたらと自慢話をする人
やたらと自分の自慢話をする人がいます。自分を認めてほしいというのは、人間の根源的な欲求ですから、自慢話をしたくなる気持ちはわかります。自分の力を誇示するだけでなく、「あの有名芸能人と俺はツーカーの仲だ」といった類の話まで始めます。これも結局、そうした有名人と対等に付き合える自分をアピールしたいためです。この手のタイプは自己顕示欲が人並み以上に強く、無視されることに耐えられない劣等感を持ったタイプです。
さて、この手の人とはどう付き合うのがよいのでしょうか。結論からいえば、黙ってお話を拝聴することです。下手に茶化して、相手の気分を害すると、後でこじれて困った事態なりかねません。とりあえずお話拝聴で、相手をよい気分にさせておきましょう。
⑭目を必要以上に見開いて話す人
ときどき相手を威圧的に見据えてしゃべるタイプの人がいます。先に述べた「③じっと見据える」タイプと似ていますが、異なるのは必要以上に目を見開いている点です。この目は高圧的で、何が何でも自分の意見を通そうとしている目です。この手の人と議論をするときは、同じ目で臨んではなりません。ぶつかり合うこと必須だからです。むしろ、相手が威圧的に出れば出るほど、心を落ち着かせて淡々と話すことです。目を見開くのは、気弱さの裏返しでもあります。つまり、目を通じて自分の心の内を見られたくないという意識が、必要以上に目を見開かせるのです。そう考えれば高圧的な視線も気にはならなくなりますね。
このタイプの人とは、お互いの考えを出し合って議論をすることは諦めたほうがよいかも知れません。「よしわかった。君の意見が正しい。その方法でやってみよう」とはまずいわないタイプだからです。上手に質問して意見を聞き出し、相手に結論を出させるように仕向けることです。
⑮指をしきりに動かす人
話をしているときに、机の上などをしきりに指で叩く人がいます。この場合は、判断に迷っているか、早く話を終えて欲しいとイライラしている状況を示しています。
相手の話を聞いているときにこの仕草をしたら、その人は何かいいたいことがあるか、次のスケジュールが迫っているかどちらかです。この場合、こちらから質問をする形でうまく意見を引き出すのがベストです。あるいは、「お時間がなければ、また改めてお伺いしましょうか」と提案したほうがよいですね。一方、話しながらこの仕草をする人は、考えがまとまってない証拠です。
指を組んで話をする人は、自分の誠実さを相手にアピールしようとしています。なんとしてもでも話を聞いてもらいたいという気持ちが、仕草に表れます。相手が指を組んで話を始めたら、大切な依頼、真剣な相談などだと考えたほうがよいです。聞き手の側が指を組む場合も、かなり真剣に話を聞いてくれている証拠です。「さあ、聞きましょう」という意思表示です。商談の席などで相手がこの仕草をすれば、少なくともこちらの話に無関心ではありません。強気に押してみれば、意外と成功する確率は高いはずです。
⑯すぐに否定的なことをいう人
日頃の話ぶりを見ていると、いつも否定的なことしか言わない人がいます。何か新しいことを提案しても、「それは難しいんじゃないか・・・・・」「やっても駄目だと思うよ」といった否定の言葉がまず口をついて出てきます。そのくせ、「だからこうしよう」という代案は絶対に出てきません。要するにマイナス思考、否定的姿勢がすっかり身についてしまっているのです。
この手の人は、あまり深入りしないのが得策です。もし商談の席にそういう人が出てきたら、いくら攻めても無駄です。早めに引上げ、別の商談相手を探すのが賢明です。また、運悪く自分の上司にこの手の人が就いたら、とりあえず守りの姿勢でミスを出さないようにして、上司の異動を待つことです。野球で言えば投手戦、点を取ることよりも、点を与えないことを考えるしかありません。
ビジネスの場では、できれば「それはおもしろい。ぜひやってみよう」といったプラス発想の人と仕事をしたいですね。
⑰笑顔のよい人
厳しい表情、締まった表情は案外簡単につくれます。しかし、よい笑顔はそう簡単にはつくれるものではありません。役者の世界でも、泣く演技は比較的簡単ですが、笑う演技は難しいといわれています。それだけ笑顔に関しては演技をしにくいということです。だからこそ笑ったときの表情に、その人の本質的な内面が見えるともいうのです。
笑顔と一口でいっても、いろいろな種類があります。追従笑い、つくり笑い、皮肉っぽい笑い、などなど。そのなかで、本当によい笑顔をする人がいます。
いつもはビジネスの最前線でバリバリ働いてキリッと締まった表情をしていますが、何かの拍子に子供のような天真爛漫な素晴らしい笑顔を見せる人がいます。こういう人は、その笑顔を見ただけで「信用がおける人物「」素直な人間」「包容力のある人物」だと思えてしまうから不思議です。
人物判断に際しては、笑顔に注目することです。皮肉っぽい笑顔をする人は皮肉屋であることが多いし、つくり笑いばかりしている人の多くは裏表のある人です。逆に、その笑顔を見ると心まで和む人、天真爛漫な笑顔を見せる人は信用のできる人です。
⑱馴れ馴れしい口をきく人
それほど親しい中でもないのに、やたらと馴れ馴れしい口をきいてくるタイプの人がいます。親しく振舞うことで、人間関係をスムーズにしたいという考えがあるのでしょうが、ビジネスの場でこういう振舞いをする人は、あまり信用できないと考えたほうが無難です。馴れ馴れしい態度に、ついこちらが気を許すと、次から次へと要求をしてくるようになります。はっきりいって、相手がやたらと馴れ馴れしい態度で接してくるのは、こちら側が「なめられている」からです。「この人なら俺が馴れ馴れしい態度をとっても大丈夫だ」「気が弱そうだから、うまく言いくるめてやろう」「俺のほうが上手だから、この程度の口のきき方でいい」。つまり相手はこちらを組みしやすい人だと判断しているわけです。そうした気持ちが、馴れ馴れしい態度となって表に現れてきているのです。
この手の人に利用されないためには、はっきりとした態度をとることです。不愉快に感じれば、はっきりと態度に出すことです。このタイプは、意外と小心者ですので、相手が強く出ると急に態度を改めたりするものです。要は相手の馴れ馴れさに迎合してはいけないことですね。
⑲うわ目遣いに相手を見る人
なんとなく、うわ目遣いに相手を見るのは、自信のない証拠であり、こちらの出方をうかがっている態度です。ネゴシエーションの場でこの手の人が出てくれば、こちらは(もちろん礼を失しない程度に)強気に出てもよいです。筋道を立ててこちらが主張すれば、相手は自信がないだけに、納得してしまう可能性が高いのです。何かの商品を売り込んだり提案する場合は、こちらは自信満々といった態度を決して崩してはなりません。
「絶対にこの商品がお買い得です」「これ以上安くなることはありません」とこちらが明確に答えることで、迷いがなくなり、決断をするのがこのタイプです。
⑳相手を見下すような目で見る人
相手を見下すような目で見る人は、うぬぼれ屋です。自分の才能に自信があり、相手は自分よりレベルが低いと思っています。あまり相手の気持ちをおもんばかるといったことがなく、ずけずけと物をいうことが多く、敵を作りやすいタイプ、嫌われやすいタイプです。
もしこのタイプの人と付き合わなければならなくなった場合は、ともかく相手を立てることです。ずけずけ言われることに対して反論したり、腹を立てたりするのは愚の骨頂です。「いやあ、恐れ入りました。あなたのおっしゃる通りですよ」と軽く受け流してしまうのが、最良の付き合い方です。こんなふうに受け流されると、相手はいつの間にかあまりずけずけとしたものの言い方はしなくなります。ムッとしたり、反論したりすると、次に会った時も同じように辛辣なことをいってきます。ただし、さらなる自信家はますます図に乗ってくるので、この人の場合は敬遠し、とにかく相手にしないことです。
以上のように、相手の本質をつかみ、それを人間関係に役立てていくためには、直感や経験ばかりでなく、人間の心理や行動の原理を知り、それを体系立てて理解しておくことが必要です。その場だけの判断でわかったつもりになっていては、永遠に「人を見抜く」目を持つことが出来ません。今回紹介させていただいた一例を参考にしていただき、皆さま方の環境に合わせて判断判基に修正を加え、より確実に「人を見抜く」目(力)を高め、信頼関係を強化していただくと共に、ビジネスに成功されることを願っています。
今回参考にさせていただいた書籍
「5分で人を見抜く(仕事がうまくいく人間判断術)」武田哲男著(PHP文庫)
■石川 秀朝(いしかわ ひでとも)
中小企業診断士
ITコーディネータ
事業再生アドバイザー