専門家コラム「お客様視点を活かす経営」(2012年6月)
先日、家族の誕生日でレストランに行った際、店側がちょっとしたプレゼントを用意してくれていました。思いがけないプレゼントに、想像以上に楽しい時間になりました。今度は友人と行こうかと計画中です。
さて、私たちはどのような店に「また行きたい」と思うのでしょうか。
レストラン等の飲食業では、「料理を食べに行く」という目的がある訳ですから、メニューの豊富さ、料理の味とボリュームに対する価格感が評価対象になるのはもちろんです。しかし、それだけではありません。立地、店舗の造り、雰囲気等の要素も利用者の満足感に影響します。それに加えて、挨拶に始まり、お客様の個別の問題や要望への親切な対応等、店員の接客態度が大きく影響します。
これらの要素を「商品自体」、「提供プロセスのハード部分」「提供プロセスのソフト部分」に分けて考えると分かりやすくなります。
たとえば、飲食業でいえば、料理のメニュー、品質、ボリューム、価格が「商品自体」、立地、店舗の造り、雰囲気等の環境が「提供プロセスのハード部分」、店員の接客などの人的対応が「提供プロセスのソフト部分」になります。
これらのすべての項目にお客様は満足、不満足を感じる訳です。
競争軸を考えるポイントとしてどの要素を重視するかということについて、いわゆる「お客様満足度」から考えてみたいと思います。
お客様満足度は「お客様の期待」と「提供価値」の相対比較で決まります。長時間待ったのに良いサービスを受けられないと腹が立つのは、長時間待ったのだからそれなりのサービスが受けられるだろうと期待してしまうためです。
メニューや料理の味などの「商品自体」、立地や店舗の雰囲気などの「提供プロセスのハード部分」はある程度事前に調べられますし、想定し易いので、期待と結果のズレは比較的小さいですが、人的対応、接客の良し悪しという「提供プロセスのソフト部分」は、事前に想定し難い分、期待と結果の間に大きな差が出ます。
これは、飲食店に限ったことではありません。業種共通に言えることです。
よく、感動を呼ぶサービス、お客様の心をつかむ等、通常のサービスの期待を大幅に超える、想定外の親身な行動の例が紹介されています。一例を挙げると、ある衣料品販売で、お客様の必要とする商品が自店に無い場合に自店で代替のものを勧めるのでなく、他社他店の該当するものを紹介した例です。当面の売上は逃すことになりますが、お客様は自分のことをそこまで考えてくれた店員の態度に感心し、その後、その店の固定客になったそうです。販売よりも「お客様満足」を優先する姿勢がそこにはあります。結果的に、お客様の獲得につながったのです。
また、トラブルが生じたときこそ、素晴らしいサービスを行うのもポイントです。
トラブルが生じている場合、お客様はその店舗・企業に対してマイナスイメージを持っています。言い換えれば、期待値が低い状態にあります。このような時にこそ、お客様のご意見をじっくりと聞き、即座に誠意を持って対処する等、お客様の期待以上の謝罪(これもサービスの一つと言えるかもしれません)を行なう必要があります。上述の「お客様の期待」と期待以上の謝罪という「提供価値」の相対比較から言えば、まさに「お客様満足度」が高まりやすい場面です。
実際に、トラブルに対する親身で迅速な対応にお客様が好感を持ち、逆に信頼を得る機会になった、そして他のお客様へ紹介までしてもらえるようになった、という例も少なくありません。
各社、各店舗で、どの項目・競争軸で勝負していくか考え、経営を進められていると思いますが、これまでに述べた「お客様満足度」の視点から言えば、軽視されがちな「提供プロセスのソフト部分」である人的対応の向上に重点を置き、その施策を進めることがお客様獲得・維持に有効です。
■橋本 博之
中小企業診断士
ITコーディネータ