専門家コラム「タテか、ヨコか、それともシボルか」(2012年4月)
◆中小企業の現場から
震災後、回復途上にあった中小企業の業況がここにきて足踏み状態にある。先日都内のある区の中小企業を巡回・訪問している時に、このようなことを耳にした。それは、「過去の景気回復期の中小企業の業況はグラデーションのようであったが、今は最初から白黒(好不調)がハッキリしている」ということである。色の濃淡が段階的に少しずつ変わっていくように業況も徐々に変わり全体に波及していったが、今回は良いところは最初からどんどん注文が来るが、悪いところは全く来ないという意味である。良いところの特徴として、何か変わったことをしている、いままでと違う取組みをしている、つまり「動いている」との話である。
◆「動き」の3つのパターン
それでは、「動いている」とはどのようなことか?どうも動き方は3つあるようだ。第一は「タテに動く」、第二は「ヨコに動く」、そして第三は「シボル」ということである。
第一の「タテに動く」とは、自分の事業を中心に上流または下流に進むことである。卸売業であれば、上流、つまりメーカー機能を持つことであり、また下流は小売機能を備えることである。第二の「ヨコに動く」とは、自社のエリアを広げるか、品揃えを広げるかである。他県に進出する、海外に出る、商品の再編集を行い取扱商品の幅を広げる、このようなことがあげられる。そして第三の「シボル」とは、得意分野、他社と差別化できる製品・商品に特化することである。
◆「タテに動く」ことに取組んでいる事例
最近お付き合いさせていただいているある製造業では、生産を廃止し(工場を撤廃)、強みである企画・デザイン力を活かしたインターネット直販事業を強化している。また、小売店舗を設け、自社企画の商品を販売するかたわら、個々のお客様の注文に応じ、オリジナルな商品を提供している。また店舗では、自社の商品展示のほか地域のイベントなどの情報提供を行っている。このように下流への進出に取組んでいる企業がある。
また、ある広告制作会社は、広告代理店の注文を受けてその注文どおりにコンテンツを作るだけではなく、代理店・クライアントの企画会議に出席し、皆でプランを練るなどの動きをしている。これは上流に動くことに該当する。
◆「ヨコに動く」ことに取組んでいる事例
エリアの拡大事例として海外進出がある。これも製造業の取り組み事例であるが、成熟化しつつある国内市場、またユーザーの低価格での製品供給に応えるべく、ASEANのある国に生産能力の大半をシフトさせようとしている。既に原材料の購入を海外から行っており、その海外取引のノウハウを活かした取り組みとなっている。
また、ある物流企業は、長距離配送ルート上にある他県に倉庫・流通加工を備えた物流拠点を設置し、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)に取組んでいる。
「品揃え拡大」としては、今回の震災や消費者の震災への不安への対応として、日用品小売業が震災グッズの品揃えを充実させ、震災マニュアルを添えた震災パック販売により売上を伸ばしている、このような事例も見られる。
◆「シボル」ことに取組んでいる事例
モーター部品を生産している企業が中国製品との価格競争を避けるため、モーター部品の中でも最も重要な鉄心部分に着目し、鉄心構造の設計や試作品分野に注力している。このことで、従来からのメーカーのお客様に加え、機械関係の商社との取引が開始されたとのことである。
またこれも製造業の事例であるが、従来から手がけているマシニング加工の分野を研究開発や基礎研究機器に絞り、安定的な注文を獲得している。当社の社長は「汎用品は低コストの海外勢に負けてしまうことは明らか。彼らに出来ない分野に進出する。結果、付加価値が高まる。」と強調している。
◆「動く」ことで現状を打開する
以上、3つの動くパターンをみてきたが、いまハッキリいえることは、動かなければ何も始まらないということである。取り巻く環境、その企業の立ち位置などにより、どのパターンがよいかはそれぞれ異なるが、景気回復に期待するだけでは厳しい環境を乗りきることはできない。中小企業の皆様が知恵と工夫で「動く」ことで、この難局に立ち向かうことを期待したい。
■鳥海 孝(とりうみ たかし)
ビジネス・ソリューション研究所 代表