専門家コラム「CX(顧客体験)で差別化を・・・」(2018年07月)
尾崎 多佳代
「CXとは」
CX(Customer Experience)とは、日本語で「顧客体験」と訳されています。お客様に最高の体験をしていただくことにより、ずっと自社を使い続けていただく。顧客サービスを重視した経営戦略の一つです。
以前のように物理的な「モノ」が重要視された時代には、高性能で高機能、あるいは誰もが知っているブランドが重視されました。しかし、世の中には物があふれ、欲しいと思えばいつでも買うことのできる現代社会においては、人の物への執着(物欲)が低下しています。「モノ」から「コト」へ。目に見える「モノ」よりも、五感で感じる、一度しかできない経験や、そこでしか味わうことのできない体験が、今の消費者からは求められているのです。
「今は、まさにデジタル・ビジネスの時代」
一方、その「モノ」ですら、わざわざお店まで行かなくとも、ネットで気軽に、簡単に購入できる時代です。ここで重要になってくるのがお客様との関係性です。まずはお客様に認知していただくことが必要ですが、「モノ」の時代と違って、一等地に出店すれば目に付くということではありません。ネットの世界で新規の顧客を見つけるためには、宣伝・広告や、SEO対策、有名な集客サイトに登録するなど、それなりの投資が必要となります。そんな中、既存のお客様を大切にし、リピート顧客となっていただき、他に真似できない顧客体験で、自社のファンになっていただく。さらには口コミで新規顧客を呼び込んでいただく。ネットの世界でも、リアルの世界でも、ビジネスの根幹は同じだと思います。ただし、リアル世界の場合は、物理的な距離や時間、人材が壁となり、中小規模の企業には実現が難しい現実もありました。が、しかし、デジタル・ビジネスであれば、時間を超え、空間を超え、より広い世界にビジネスを拡大していける新たなチャンスがあります。
「そしてサービス・ビジネスへ」
よく紹介される事例に小松製作所様のKOMTRAX(コムトラックス)があります。今までトラクターを販売していた企業が、「モノ」の販売ではなく、使っている時間だけ課金する、サービス型にビジネスモデルを変えました。サービス型に変えたことによって、多くの事実が分かったそうです。どの地域でいつ建機が稼働しているのか、休んでいるのか、建設現場での本当の課題は何なのか、等まさに顧客の立場に立ったサービス提供だと思います。
製造業も、自分たちの作った製品を売って終わりの時代ではありません。その製品をどうお客様は使っているのか、何のために使っているのか、その真の目的を知ることが重要です。
マーケティングの世界で有名なドリルの話があります。「お客様はドリルが欲しいのではなく、ドリルであける穴が欲しいのだ」。まさしく、真にお客様が欲しいものを提供するためには、自社の製品をどうやって買ってもらうかではなく、お客様は自社の製品を使って何がしたいのか、何を求めているのかを知ることが重要です。そこをよく考え、お客様に最適なサービスを提供していかなければ、企業は生き残っていけない時代になってきました。お客様の目的が気持ちよく達成できた時(例:あけたかった穴が簡単にきれいにあいたとき)、これこそが顧客体験(CX)となり、また次も引き続きこの企業のサービスを受けようとなるのではないでしょうか。そしてこの体験が続けば続くほど、お客様はこの企業から離れられなくなります。なぜなら自分のことを一番よくわかってくれており、いつも自分に合った最適なやり方をサービスとして提供してくれるからに他なりません。
そんなお客様に選ばれ続ける企業に皆様がなれるよう、微力ながら支援させていただきたいと考えております。
■ 尾崎 多佳代(おざき たかよ)
東京都中小企業診断士協会中央支部
システムアナリスト