勤務先エンジ会社担当業務での経験と最近の海外出張から

・羽田空港再拡張裏話と海上油田掘削用のPlatform

2010年10月に羽田空港の4本目滑走路D-Runway(以下「Dラン」と言う。)が供用開始となり、首都圏からの国際線出発空港は、成田と羽田の2空港が、既に利用者の「常識」となっています。写真はDラン建設開始直後と完成後の姿であり、多摩川の河口部にクロスする全長3,500mの新滑走路島の「1/3相当」が桟橋構造であることが分かります。(浦安方角に延びる「2/3相当」が埋立て構造)

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この桟橋構造は海底の砂岩支持層まで届く深さの数十m長の先行杭(約20m長の鋼管を複数本、長尺溶接した鉄の巨大なストロー形状のモノ)を海上に垂直に施工した箇所に、ジャケット鋼構造物(=写真で紅白の起重機船が吊上げているモノ)を198基、突き刺して日本の国土面積を広げたものです。施主の国土交通省から100年耐用仕様を求められており、海洋鋼構造物としては干満飛沫帯(splash zone)には高耐蝕性のスーパーステンレスをジャケット脚部(leg)の鋼管に巻付け、ジャケット上部構造部の下面はチタン製カバープレートで除湿空間を確保し、常時エアコンで除湿しています。(エアコン電気代は空港利用料で回収と想像します)また海中部のleg鋼管には、(皆様が中高生時代に化学で学習した元素のイオン化傾向を応用した電気防触)アノード(アルミ陽極)を外付しており、海中で溶出したアルミで鉄を腐蝕から守る技術です。
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私は勤務先のエンジニアリング会社でエネルギープラント系のプロジェクト調達を担当した後に、国から15社JVで元請として再拡張工事を施工する羽田空港再拡張プロジェクト班のメンバーとしてジャケット鋼構造物の製作(の専用工場の造成、調達、アドミ総務業務)に携わりました。

当該ジャケット鋼構造物は、もともと国際石油資本や産油国国営石油会社が開発権益をもつOil & Gasの世界で海上油田掘削用Platformとして用いるジャケットが原型でした。(1938年(昭和13年)世界最初の米国ルイジアナ州沖のメキシコ湾岸油田の海上油田Platformは木製でした!)海上油田フィールドでのこの鋼構造物の脚部leg鋼管の位置を確定した後に、当該鋼管の同心円で内径の小さい後行杭を打ち込んで定位置に固定する施工順番が、あたかも人間が上着の袖に腕を通す動作に似ていることから「ジャケット」構造と言います。

写真06_Platform組立作業

<Platform組立作業>

写真07_部品倉庫

<部品倉庫>

写真08_安全掲示板

<安全掲示板>

ご承知の通り、1985年(昭和60年)先進5か国首脳会議(G5)で米ドル高是正がプラザ合意され、1USD=240JPYの為替レートが160JPYの円高ドル安に急激に変化しました。それまで勤務先鉄鋼会社の北九州(若松)工場で製作していたPlatformが、コスト競争力を失うこととなった為、シャム湾のOil field にも近く、円換算高コストを回避できるタイ(子会社)にPlatform製作拠点を移したものです。

上の写真は、本年3月末時点で欧州石油メジャー等の施主のPlatform(約1,800トン/基)を数基連続製作する様子です。同工場は、1,000名以上の作業員が従事しており、日本式の5Sや安全活動がきちんと根付いている現実に、それらが「ものづくり」の世界標準となっていることに日本人として誇らしい感慨を覚えました。正に診断士一次試験科目の「運営管理」中の生産管理で学習した論点の実工場展開でした。過酷な海上環境で精度を確保する為の機器類、配管資材が部品倉庫に整然と保管されていることはもとより、外国人作業人の皆が、安全通路や作業標準を遵守している様子、毎朝の日本の工場運営方式の朝礼とラジオ体操や安全保護具、安全看板(英語・タイ語併記)の設置が印象的でした。施主の検査官もInspectorという表示のビブスを付けた完全装備で立ち会っていました。

写真09_係留中の海上施工船

<係留中の海上施工船>

写真10_Singaporeリゾートマンション群

<Singaporeリゾートマンション群>

写真11_バタム島行きフェリーターミナル

<バタム島行きフェリーターミナル>

写真12_Platform製作

<Platform製作>

写真13_Platformの艀への横持ち輸送

<Platformの艀への横持ち輸送>

写真14_Platform海上施工①

写真15_Platform海上施工②

<Platform海上施工>

写真16_タイ子会社工場全景

<タイ子会社工場全景>

写真17_朝礼・ラジオ体操風景

<朝礼・ラジオ体操風景>

今回、3月末の勤務先エンジニアリング会社業務での出張は、インドネシア(バタム島)、シンガポール、バンコク、デリーの海外調達4拠点の現地ナショナルスタッフ向けに、調達契約にまつわるコンプライアンス(会計不正や私的利得の防止)を啓発する為の漫画解説付き「適正取引ハンドブック(英語版)」を説明する機会でした。説明会後の受講者アンケートを回収し、相応の成果を確認することができましたが、説明教材の選定とその英語解説プレゼンや質疑応答での反省点は(日本語でもなかなか難しいものですが)、講師を担当した私には貴重な経験になりました。

・最近の上海事情

4月中旬に、私は同様の現地ナショナルスタッフ向けのコンプライアンス説明を中国上海の調達スタッフにも(日本語版で)説明する機会を得ました。既に駐在経験もお持ちで中国通の診断士の皆様には釈迦に説法と存じますが、私が2度目の上海訪問で感じた印象を次に述べます。

中国経済を牽引するメトロポリスとしてよく知られる上海は、次表の通り2016年、2017年の世界のコンテナ量取扱ランキングで4,000万TEU超えの第一位を維持しました。上位20港中8港が中国。中国の上位港は欧米の主要港もしのぎ、日本は東京港28位、横浜、神戸や名古屋、大阪は遥か下位と中国断トツの姿が分かります。

(※)TEU=20フィートコンテナ換算個数のこと

写真18_2017年コンテナ港ランキング

昔、学生時代に開発経済学系の概念で習った「後進性の利益」(Latecomer’s advantage)

は、ガーシェンクロン(A.Gerschenkron)が見出した経験則であり、後発国は先発国の開発した新技術を導入しながら工業化を推進する為、潜在的には後発国の技術進歩は急速であり、従って経済成長率も先発国を上回る高さを示す。という内容です。

写真にある上海高速道路の緑ナンバー車は電気自動車(EV)であり、ハイブリッド車を飛び越えたEV台数の結構な普及度を実感しました。また浦東国際空港と上海市内の30km区間を7分20秒で走行するリニアモーターカー(磁浮Maglev)は最高速度431Km/h運転が10秒ほどとのことですが、現に公共交通機関として営業されている様子には驚きを隠せませんでした。更なる延伸をしていない訳は周辺住民の反対の声によるとのことでしたが真意はよくわかりませんでした。

写真19_和平飯店からの外灘夜景

<和平飯店からの外灘夜景>

写真20_緑豊富な街並み

<緑豊富な街並み>

夕食懇談時に上海在勤スタッフから伺った日常消費生活でのスマホでのデビットカード決済(キャッシュレス社会)の普及の速度も驚愕の事実でした。写真や映像で見る上海の高層ビルが林立する新興エリアは、上海市全体から見ればほんの一部にすぎず、上海万博跡地が公園やコンベンションセンターとして活用されている他、低層階の住居と高層ビルが混然と同一区画に所在し、街中の植栽(緑)が東京よりも豊富である印象を受けました。

中国工商銀行ビルは1924年に旧横浜正金銀行(=旧東京銀行)上海支店ビルとして竣工したビルですが、本年4月から三菱東京UFJ銀行が「東京」の2文字を廃止したことと併せて近代西洋建築として今日も活用されている様が、印象的で感慨深いものでした。

写真21_緑ナンバーEV車

<緑ナンバーEV車>

写真22_東方明珠塔と森ビル

<東方明珠塔と森ビル>

写真23_中国工商銀行

<中国工商銀行>

写真24_リニアモーターカー(磁浮Maglev)①

写真25_リニアモーターカー(磁浮Maglev)②

写真26_リニアモーターカー(磁浮Maglev)③

<リニアモーターカー(磁浮Maglev)>

 

■横山 茂生(よこやま しげお)

東京都出身、一橋大学商学部卒。新日本製鐵㈱で購買部門に従事(輸入鉄鉱石、資機材調達)、会社分割後のエンジニアリング会社でプロジェクト調達業務(羽田空港再拡張プロジェクト班含む)に従事。東京協会中央支部国際部。2016年3月中小企業診断士登録。2017年9月「与信管理実務研究会」で「海外取引先信用管理(買いの与信管理)」の講師を担当。日本能率協会バイヤー資格 CPP B級。ビジネス英検Grade A。貿易大学(Institute of International Studies and Training Business Administration)卒。第一種衛生管理者。