専門家コラム「経営者の悩みを解決する中小企業診断士 ~『中小企業白書』に見る経営者の悩み~」(2017年10月)
原 知世
■ 経営者の悩み・経営課題は何か?
中小企業診断士の仕事は何かといえば、中小企業経営者の悩みを解決することにあります。しかし、一口に経営者の悩みといっても人それぞれです。実際に、「マーケティング」「販路開拓」など売上増加をめざすものや、「社内体制の整備」「組織活性化」などの様々な相談があります。「中小企業白書」および「小規模企業白書」が毎年4月・5月に中小企業庁より発刊されています。それには、中小企業の実態をつかむには、大変参考になる内容が記載されています。
中小企業庁の「平成29年度版小規模企業白書」を読み解きながら小規模事業者(※)の悩みを考察します。白書の中では、経営者が重要になったと感じる経営課題は「販路開拓(44.6%)」「人材確保(51.4%)」と回答が多くなっています。販路開拓は「顧客ニーズの把握」と「自社の強みの把握」の把握がポイントです。
※従業員20人以下(製造業やその他の業種)従業員5人以下(商業・サービス業)。
■顧客ニーズの把握
「顧客ニーズを把握」していると回答した会社の方が好調傾向です(好調企業91.9%に対し不調企業81.3%)。これによる効果は好不調の企業ともに「既存顧客との関係強化(56.2%に対し59.4%)」が最も高い回答になっています。一方、「新たな顧客獲得(54.4%に対し38.9%)」や、「既存製品・サービスの改善(51.9%に対し39.4%)」「新製品・サービスの開発(37.0%に対し28.7%)」の項目では好不調企業での回答の隔たりがあります。「新規顧客開拓」「新製品開発の取組み」の成否がさらに業績を向上させている、と考えられます。
■自社の強みの把握状況と把握に向けた取組み
自社の強みを把握している企業ほど、好調傾向です(好調企業94.8%に対し不調企業82.9%)。ではどうやって自社の強みを把握しているのでしょうか。好調企業では、「他の経営者、知人からの評価の把握(45.1%)」や「販売データ、口コミ等に基づいた評価の把握(35.5%)」により把握している傾向にあります。主観的な経営者の過去の経験や感覚だけでなく、客観的な第三者の意見が重要です。本当の強みは自分ではわかりにくいものです。
■人材確保の取り組みの成否
それでは「担い手」である従業員の採用活動は成功しているのでしょうか。
会社規模の大小に差はありますが、概ね採用後は「期待どおり人材を採用でき」、かつ、「定着率も高い」という傾向にあります。どのように採用するかが重要です。
■人材の有効な環境整備
では、どうすれば人材確保に成功する企業になれるのでしょうか。もちろん給与や待遇は大切です。白書では経営者にどの項目が大切かと聞いています。「待遇企業(成功31.4%に対し不成功企業39.3%)」という回答は人材確保の成否に関わらず高い項目です。が、「時間外労働の削減・休暇制度の利用促進(28.9%に対し25.4%)」や「勤務時間の弾力化(26.0%に対し18.0%)」等は、人材確保の成功企業と不成功企業の間で回答に差がつく傾向にあります。つまり、「勤務形態に柔軟性をもたらすこと」が、「待遇改善」より、人材採用や人材確保に向けて、有効な取組みと言えます。シニアや女性は重要な戦力になり得ますが、彼ら彼女らの採用・定着を図るには就業環境の整備が必要です。
●略歴 原 知世(はら ともつぐ)
中小企業診断士 中小企業の経営計画の作成や販路開拓などのコンサルティングを行う。
新規事業の構築で、売上アップを狙う。