Global Wind (グローバル・ウインド)
「いまさら聞けない貿易協定」

中央支部・国際部 小泉 岳利

1.FTA、EPA、TPPって?
 トランプ米大統領が就任し、選挙中からの公約通りTPPからの離脱を表明したことで改めて注目された感がありますが、これらの貿易協定についてどこまでご存知でしょうか?思い起こせば、私自身も中小企業診断士試験の1次試験「経済学」のテキストで学んだ記憶がありますが、実際に実務を行うことになるまでは、単に記憶していただけのように思います。

 まずは、言葉の定義を確認します。
 アルファベット3文字の略号は経営情報システムにも多くあり、診断士試験の時にとても混乱した記憶があります。ここで改めて、おさらいしてみたいと思います。

1)FTA:Free Trade Agreement 自由貿易協定
 私は経営情報システムのFTP(File Transfer Protocol)とよく混同しましたが、こちらは特定の国や地域の間で関税の撤廃や削減を定めたものです。
経済学で下のような図を勉強したと思います。まさにこの世界ですね!

【図1】
201707GW_KO1

2)EPA:Economic Partnership Agreement 経済連携協定
 私は化学系なので、ついつい青魚由来の油であるエイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid)をイメージするのですが、貿易においては関税だけではなく知的財産の保護や投資ルールの整備などを含めた協定となります。

【図2】
201707GW_KO2

3)TPP:Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ
 FTAやEPAが二国間交渉で合意するものが多いのですが、多くの地域と協定を結ぶのはさすがに非効率です。でも、WTO(World Trade Organization 世界貿易機関)のように全世界で合意することも難しいです。そこで、地域でまとまって交渉することが発生してきました。TPPには太平洋を囲む12か国が参加していますが、経済産業省によると、他にも3つの地域間交渉が行われているようです1)。

2.貿易協定の流れ
 最近の貿易協定の流れの源流は1947年に署名されたGATT(General Agreement on Tariffs and Trade 関税及び貿易に関する一般協定)にさかのぼると思います。GATTは、二国間通商協定を推し進めたことが諸国の経済対立を激化させ、これが第二次世界大戦の一因となったとの反省からできたものですが、暫定的な組織であったため1995年に国際機関として設立したWTOに引き継がれていきます2)。
 しかし、WTOでの議論では先進国と途上国が衝突して交渉が停滞した結果、現在は再び「二国間の交渉」が主流になってきています。歴史が繰り返さないといいですね。

3.日本が締結している貿易協定
 経済産業省によると、日本が締結している貿易協定はFTAが15件、TPPが署名済みという状況です。そのほかに8件が交渉中とのことです3)。

【表1】

 国・地域  発効  主な対象輸入品  主な対象輸出品
 シンガポール 2002 年 ・一部の石油・石油化学製品

・マンゴー,アスパラガス,カレー調製品,えびなど

 -
 メキシコ  2005年  ・牛肉、豚肉、鶏肉、オレンジなど  ・自動車部品、インクジェットプリンタ用紙、みかん、りんご・緑茶
 マレーシア  2006年  ・熱帯果実、林産品 ・温帯果実

・鉄鋼、自動車、自動車部品

 チリ  2007年 ・鉱工業品、精製銅

・ギンザケ・マス、ワイン、牛肉、豚肉、鶏肉など

・林産品

・鉱工業品、自動車/一般機械/電気電子製品

・緑茶、ながいも、柿、日本酒など

 タイ  2007年  ・熱帯果実、えび・えび調製品、鶏肉・鶏肉調製品  ・鉄鋼、自動車、自動車部品
 インドネシア  2008年 ・鉱工業品

・熱帯果実、林産物

・えび,えび調製品

・ソルビトール

・鉄鋼、自動車、自動車部品、電気・電子機器

・温帯果実

 ブルネイ 2008年 ・鉱工業品

・アスパラガス、マンゴー、ドリアン、野菜ジュース、カレー調製品

・林産品、えび

・自動車、自動車部品、電気・電子機器

・ほぼ全ての農林水産品

 ASEAN全体  2008年  -  -
 フィリピン  2008年 ・バナナ、パインアップル

・キハダマグロ、カツオ

・鉄鋼、自動車

・温帯果実

ベトナム 2009年 ・鉱工業品

・ドリアン、オクラ、冷凍ほうれん草、スイートコーン、天然はちみつなど

・林産品

・えび/えび調製品、冷凍たこ及び冷凍たちうお等

・自動車部品

・熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板及び冷延鋼板など

・フラットパネル、DVD部品、デジタルカメラ,カラーテレビなど

スイス 2009年 ・鉱工業品

・インスタントコーヒー、アロマオイル、食品添加物(ペクチン)など

・ナチュラルチーズ、チョコレートなど

・ワイン

・鉱工業品

・清酒、盆栽、長いも、メロン、干し柿、味噌など

インド 2011年 ・鉱工業品

・ドリアン、スイートコーン 、カレー、紅茶、製材、えび、えび調製品

・鉱工業品

・鉄鋼、自動車、自動車部品、電気・電子機器、産業用機械

・盆栽 、ながいも、桃 、いちご、柿

ペルー 2012年 ・鉱工業品

・鶏肉・鶏肉調製品、アスパラガス、とうもろこしなど

・製材など

・アメリカおおあかいかなど

・乗用車/二輪車等の自動車、自動車部品

・鉄鋼製品

・電気・電子製品

・医薬品,

・ボールペン など

・ながいも、りんご、梨、柿、緑茶、清酒 など

オーストラリア 2015年 ・鉱工業品

・小麦、牛肉、乳製品

・砂糖

・ボトルワイン

・自動車、自動車部品

・鉄鋼

・一般機械・電気電子機械

・全ての農林水産品

モンゴル 2016年 ・鉱工業品

・牛肉調製品など

・ペットフード

・自動車、自動車部品

・一般機械

・切り花、果実、味噌/醤油など

・清酒及び焼酎

(TPP) 2016年

(署名)

※:インドネシアを除く

4.関税優遇を受けるには
【表1】に示す国・地域に対象品を輸出入する場合、おおむね以下の手順で作業を進めることになります。

1) EPA、FTAの調査
 外務省が発行済・署名済みのEPA・FTAの内容をウェブサイトにまとめています3)。まずはここで調べることになると思いますが、慣れないと結構大変です。JETRO(日本貿易振興機構)では貿易相談4)などを行っているので、悩んだら相談するとよいと思います。

2)HSコードの調査・決定
 HSコードとは、「商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約(HS条約)」に基づいて定められたコード番号です。貿易する物品にこの番号を付けることで、そのものが何であるのか世界各国で共通して理解できます。過去、同一品を輸出/輸入したことがあれば、その時に税関が許可した輸入許可証に記載されているので、これを使用します。初めて輸出/輸入する場合は、「品目分類の事前教示5」」で調べたコードを使用します。
 このHSコードは5年毎に改定されていますが、EPA締結国によって使用する版が異なりますので注意が必要です。

3)税率を調べる
 税率も各協定の内容から調べていきます。外務省のウェブサイト3)でも調べられますが、JETROのウェブサイト6)が便利だと思います。

4)原産性の確認
 EPA税率の適用を受けるためには各EPAで定められる原産地規則に基づいた原産性を有していなければなりません。すべて国内産のものであればいいのですが、一部に海外産の材料や部品を使っていたりすると、原産性の確認には手間取ります。また、各EPAにより原産性の条件が異なるので、ある国に対しては原産性を有していても別の国に対しても適用できるとは限りません。

 これ以降の手順は輸出と輸入で少し異なります。
 まずは輸出の場合。

5)一般/特定原産地証明の受給・発送
 原産性の確認ができたら、そのエビデンスを以て原産地証明書を受給します。原産地証明には一般と特定の2種類がありますが、EPAに基づくものであれば「特定」になります。ちなみに、これらの書類は発給する組織が異なり、「一般」は各地の商工会議所、「特定」は日本商工会議所となるので注意が必要です。
 初回は、企業登録や判定作業が必要なため、申請書が受理後1週間ほどで発行されます。その後は、同一の品物であれば半日~1日程度で発給されます。ただ、郵送などはしてもらえないので、日本商工会議所に取りに行くのが手間です。あとは荷物の発送の都度、原産地証明書を受給し、荷物と共に輸入者に送ります。

 次は輸入の場合です。

6)輸出者に原産性を問い合わせ
 輸出者に原産性を満たしていることを確認し、特定原産地証明書の発送を依頼する。

7)輸入申告
 荷物が到着後、輸入申告書に特定原産地証明書を添付して税関に提出する。

5.まとめ
 いかがでしたか?同一の品物を送っているのであればあまり手間はかかりませんが、初めての輸出だったり、新しい品物を輸出したりする場合は難儀します。私は輸出企業にいたので、HSコードの調査と原産性の確認に手間取っていました。多くの部品や材料を購入して生産したものの場合は、メーカーにそれらがどこの原産なのか問い合わせるだけでも一苦労です。
 JETROなどに相談すれば親身に教えていただけますが、“そこまでは…”という場合は気軽にお問い合わせください。私の経験した内容で良ければ、ご支援できると思います。

6.参考文献
1)【60秒解説】TPP、EPA、FTA・・・何が違う?(経済産業省)
(http://www.meti.go.jp/main/60sec/2015/20151109001.html)
2)WTOとは(外務省)
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/gaiyo.html)
3) EPA/FTA/投資協定(経済産業省)
(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/index.html)
4) 貿易投資相談(JETRO)
(https://www.jetro.go.jp/services/advice/)
5) 事前教示回答事例(品目分類関係)(税関)
(http://www.customs.go.jp/searchsv/jitsv001.jsp)
6) 世界各国の関税率(JETRO)
(https://www.jetro.go.jp/theme/export/tariff/)

■小泉 岳利(こいずみ たけとし)
1966年生まれ。千葉大学工学部工業化学専攻修了後、総合化学・アルミ加工メーカーを経て工業用接着剤メーカーに勤務。工場で品質保証・環境管理を長く担当後、生産技術,購買,総務等の間接部門の業務に従事。その後、本社で管理会計や海外現地法人の管理業務、受注業務を担当し、2017年3月に退職・独立。「製造業の未来を明るくするお手伝いをしたい」をモットーに活動中。2015年5月中小企業診断士登録。