専門家コラム「10数年ぶりの下請法改正に考える、取引関係の再構築」(2017年5月)
中央支部 高橋力也
昨年末頃に、10数年ぶりに下請法の改正が行われたという事を知ってますでしょうか。
この改正の内容、色々調べてみると大手・中小企業に関係なく、今までの取引関係を見直す良い機会なのかなと感じております。
【そもそも、下請法とは何か】
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、中小企業庁のHPには、「下請事業者の利益を保護し、取引の適正化を推進するために」とあり、「親事業者が下請事業者に物品の製造、修理、情報成果物(ソフトウェアなど)の作成又は役務(運送、情報処理、ビルメンテナンスなど)の提供を委託したときに適用」される法律です。
適用される親事業者・下請事業者は、以下の表の通り、お互いの資本金額によって決まります。
※中小企業庁HPより抜粋:http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/daikin.htm
【なぜ10数年ぶりに改正が行われたのか】
公正取引委員会の公表資料によると、平成27年度の下請法に絡む是正指導件数は5,980件と過去最多(平成28年度は上半期で3,796件)となったことが、改正要因と考えられます。
また、中身を見てみると、違反行為の類型別件数は、期日までに支払いを行わない「支払遅延」、通常支払われるべき対価に比べて著しく低い価格での取引を行う「買いたたき」、勝手に取引価格を引き下げる「減額」が上位を占めております。
その中で、注目する内容としては、平成25年度までは類型別の件数順が「支払遅延(1,488件・66.1%)」⇒「減額(228件・10.1%)」⇒「買いたたき(86件・3.8%)」なのに対し、平成27年度は「支払遅延(3,131件・66.7%)」⇒「買いたたき(631件・13.4%)」⇒「減額(373件・7.9%)」となり、「買いたたき」が約7倍と急増していることです。
※(参照)公正取引委員会:平成27年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組(概要)
【では、改正の内容とは】
今回の改正点の内容として、中小企業庁の周知資料によると、親事業者・下請事業者が守るべき改正基準として、以下の5点が書かれております。
1.親事業者者と下請事業者は共存共栄で!
2.一方的な原価低減要請は禁止
3.労務費の上昇した影響を価格に反映
4.金型・木型の保管コストは親事業者が負担
5.支払条件の改善(現金払いの要求・手形割引料の親事業者負担)
この中で注目すべき内容としては、下請法の違反行為として急増している「買いたたき」の増加する可能性があることです。
なぜなら、今までの「買いたたき」の考え方として、「通常支払われるべき対価に比べて著しく低い価格での取引を行う」ことを禁止しておりました。対して、今回の改正では、「一方的な原価低減目標数値を提示」や、「原価低減要請に応じることを発注継続の前提」とすることだけでなく、下請事業者からの労務費上昇に起因する取引価格の見直し要請に対し、十分な協議なく、一方的に据置価格での取引を行うことも「買いたたき」が該当する可能性があるからです。
【そもそもなぜ値下げ交渉に応じるのか】
「買いたたき」が急増している背景として、なぜそもそも値下げ交渉に応じるのでしょうか。
要因は色々考えられるが、最な要因としては、下請事業者の売上に占める、親事業者の売上シェアが高いこと、つまり親事業者への売上依存が高いことが挙げられます。
親事業者のシェアが30%を超えているのであれば、それだけ親事業者からの値下げ交渉に応じる必要があるのです。
親事業者からの値下げ交渉に応じる場合も、応じない場合も共に、下請事業者の経営リスクには大きな影響があります。
この経営リスクを抑えるためには、取引先の多角化を行うことも検討していくべきだと思われます。
是非、皆様下請法の改正というこの機会に、自社の今後の取引関係を見直してみるのはいかがでしょうか。ご質問や気になる点がございましたら、是非中小企業診断士に相談してみることをお勧めします!
(追記)
下請事業者の価格交渉力強化を目的として、中小企業庁から「価格交渉ノウハウ・ハンドブック」及び「事例集」が改訂されております。是非ご参考にして頂けます様、宜しくお願いいたします。
※中小企業庁HP:http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2017/170127support.htm
略歴
高橋 力也(たかはし りきや)
中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員/ビジネス創造部 副部長