グローバル・ウインド 「国際派診断士と外国語を巡って ~アンケート結果より見えてきたこと~」(2017年4月)
Global Wind (グローバル・ウインド)
「国際派診断士と外国語を巡って ~アンケート結果より見えてきたこと~」
中央支部 永井 廣
本件は昨年(2016)9月度のワールド・ビジネス研究会(WBS)定例会にて、私より報告させて戴いた内容ですが、今回はこれをベースに、語学力の方に焦点を当てて整理してみました。
1.はじめに
当初の報告主旨ですが、「WBSは国際派診断士の集まりだが、診断士として国際貢献に必要な要素、及び語学との関係を明らかにしよう」というものでした。そのため、会員の皆様にアンケートをお願いし、「語学を巡る状況、及び国際派診断士としての課題」を回答して戴きました。結構ボリュームのあるアンケートでしたが、36名の方々から御回答戴き所期の目標を達成出来ました。
報告会においては、「国際派診断士としての課題」についてもアンケート結果を整理すると同時に、私の私論を述べさせて戴きましたが、そちらは語学力とは次元の異なる要素を含み、診断士として御活躍の皆様には「釈迦に説法」にもなりますので、今回は「語学を巡る状況」をメインに書かせて戴きます。
尚、報告会での発表要旨は、WBSのHPに収録されておりますので、宜しければこちらを御参照下さい。http://www.worldbusinesssociety.com/column/20160923.html
2.我が国際経験と語学遍歴
元々は技術屋であり、最初は石油化学メーカーの現場技術者でした。同時に、国際業務への憧憬があり、幸い20代半ばで旧ソ連(3ヶ月)、30代前半にアルジェリア(1年)で働くチャンスを得、その後はビジネスマンを志向して米国にMBA留学しました。
帰国後は別の化学メーカーに移り、欧米企業のM&A、東南アジアでの合弁や現法設立に携わり、現地駐在はしませんでしたが、海外関連企業の運営管理や英文契約書作成に従事して参りました。
基本的に英語がメインですが、アルジェリア時代に仏語と接点が出来、その後30年以上のブランクを経て一昨年から、まず仏検三級に挑戦し、昨年夏には漸く二級に合格出来ました。近い将来、仏語圏で働きたいと思いますので、二級に甘んじず準一級を目指すつもりでおります。
3.アンケート内容と結果の要約
3-1. アンケートの内容要約
Ⅰ.外国語(≒英語)の取組み状況について
(1)個人的状況:年齢層、TOEICスコア、海外経験、語学は好きか、英語の活用状況
(2)英語の学習動機等:学習動機、勉強方法、実践英語の本格的開始時期、現状満足度
Ⅱ.英語以外の外国語経験について
(1)個人別の状況:第二外国語経験、非英語圏での現地語学習、第二外国語活用状況
(2)第二外国語学習の位置付け:個人的見解、今後の第二外国語学習予定
Ⅲ.国際派診断士としての自分の課題
(1)語学関連の課題 自分の主観で完璧を100とした場合の自己評価
評価項目は、語学力(読む、書く、聴く、話す)、専門性、文化/教養の6要素
(2)語学関連以外の課題 各自で記入願ったが以下のような例示を記載した。
①異文化交流の壁、②診断士なる資格の国際的知名度、③国際支援事例の活用
3-2.アンケート結果の要約
Ⅰ.英語力の到達レベル、関連する項目
(1)回答者中、TOEICスコアを開示下さった方が29名おり、平均スコアは990点満点中840点と、一般的には非常にハイレベルな集団でした。1980年頃までの英語教育は「読み書き」中心であり、畢竟若年層の方がハイスコアの傾向かと思いきや、年齢層による差は殆どありませんでした。結果を図1.に示します。
(2)また、語学が好きなグループほど平均点が高く、「好きこそものの上手なれ」が成り立つ模様でした。(図2.参照)
英語圏に限らず、海外での居住年数とスコアには、強くはないものの、正の相関が見られました。(図3.参照)
(3)英語の活用状況では、仕事での活用度は高いものの、私的には然程でもないようです。
具体的には、大半が英文でビジネスレターが書け、英語でネゴ出来、情報ソースとして英語サイトを活用していますが、ペイパーバック等での小説購読や、字幕に頼らぬ洋画鑑賞は殆どしていないようです。
(4)学習動機は「仕事で必要性を痛感した」ケースが最多でした。従って、本格的な英語学習は早いケースだと学生時代から、遅くとも30歳前後で始めたというケースが大半であり、早く始めた程TOEICスコアも高い、という明確な傾向が出ていました。
(5)勉強法はOJTが最多であり、市販教材やラジオ/TV講座の活用、TOEIC・英検等資格試験の活用が多かったのですが、英会話学校に通っていたというケースは少なく、ある意味で意外でした。
(6)現時点での到達レベルに関わらず、殆ど全員が更なるレベルアップを望んでいます。
Ⅱ.第二外国語の必要性、活用状況等
(1)回答者36名中24名が非英語圏での居住経験があり、現地語もそれなりに修得して来た模様です。学習内容は、単に語学だけに止まらず、文化的領域にまで及びます。
(2)最も習得者が多いのが中国語であり、学習動機は「自発的」が15名中13名おり、学習方法は独学が10名で最多乍ら、通学も8名存在します。(複数回答可とした)
(3)中国語以外では、フランス語(仏)、スペイン語(西)、ポルトガル語(葡)が多く、特に西葡では上級者も存在します。(表1.参照)
注:①初級は日常会話レベル、②中級は一般会話と、読み書きレベル、③上級は専門的な会話と同時に、読み書きはネイティブレベルとしました。
(4)第二外国語の位置付けとして、有用性を認める回答が多数派でしたが、一部には英語を更に磨く方が重要という、地に足が着いた意見もありました。
(5)但し、第二外国語の有用性は認めるものの、学習には中々繋がらないというのが現実のようです。
(6)各言語ともに初級レベルが多いのですが、英語を補完して現地交流には役立っているようです。
Ⅲ.国際派診断士としての課題(外国語コミュニケーション能力の自己評価結果)
図4.のレーダーチャートに自己評価結果を示しますが、語学力(読む・書く・聴く・話す)、及び専門能力では、「読む力」を筆頭に、自己評価で65%前後のレベルですが、文化/教養面では56%と、10%近く相対的に低いレベルにあります。
皆さん謙虚な方が多いせいか、辛めの評価になったとも考えられますが、文化/教養面では他の要素に比べて自信がない、というのが一面の真理なのかも知れません。
結局、この要素が、国際派診断士として、自信を持って仕事をして行けるか否かの分水嶺になるように思います。この問題を、如何にして打開して行くかにつき、最後の部分で纏めてみようと思います。
4.国際派診断士と語学を巡る状況
まず、国際派診断士の必要条件とは、国際的な環境においても国内同等の仕事が出来ることですが、これを論じる前に、診断士の役割を明確にしておくべきだと思います。
4-1.診断士の役割
これは私論に過ぎませんが、診断士の役割とは、「人や組織に対して働き掛け、好ましからざる行動パターン(仕事の進め方)を改めてもらう」ことだと考えます。と言うことは、事実と論理に基づいて支援先の方々を説得し、納得を得ねばなりません。
然し乍ら、事実と論理に基づけば納得が得られるかと言えば、そんな甘いものではありません。私は、この間を補完するものこそ「人間力」であり、それは「診断士としての基本的能力=人間力」になるのだろうと思います。
「人間力」は、①専門性、②管理/統率力(コミュニケーション力)、③文化/教養力、の三要素からなりますが、この内、①専門性は国内で通用するなら問題なく、結局のところ、②コミュニケーション力、③文化/教養力が、国際的に通用するか否かが問われることになるのでしょう。
4-2.国際コミュニケーション能力とは
昨年のアンケートでも、語学力の指標としてTOEICのスコアを提示して戴きましたが、これは飽くまでも語学力の指標であり、国際コミュニケーション能力の指標ではないことを御認識下さい。
一方、国際コミュニケーション能力は、図4.のレーダーチャートで示したように、語学力(読む、書く、聴く、話す)、専門性、文化/教養の6要素から成り、これは結局「人間力」と概略オーバーラップします。
要するに、国際コミュニケーション能力は最終的に「人間力」の、③文化/教養面の能力が重要になり、これがあってこそ「異文化対応」への備えが整う訳です。
結局、コミュニケーションの成立には、「語るべき何か」が自分の内部になければならず、単に「読む、書く、聴く、話す」が出来ても駄目なのです。カンバセーションなら出来ますが。
4-3.文化/教養面の能力とは
では、「文化/教養面の能力」について、具体的に考えてみましょう。
<私論:文化/教養について>
(1)知識は左脳、教養は右脳が支配的である。単なる知識は、結果を伝えるのみ。
例:ベートーベンの三大ピアノソナタは何?と聞かれて「悲愴・月光・熱情」と即答出来る人もいますが、これを以て「教養がある」とは言えません。「それで?」と言われて何も返せなければ、話は終わりです。右脳から発する「感動」を伝えられないからです。
(2)教養は独自の「創造・工夫」を通して身に付くものであり、感動や感銘を伴う。
例:「博士の愛した数式」という映画がありました。オイラーの公式からeπi=-1となるのですが、この素晴らしさ(無理数と虚数から整数が生まれること)に感動できますか? また、マクローリン展開とフーリエ級数を使って、オイラーの公式を説明出来たら大したものです。
(3)現地文化は「料理」に凝縮され、それを喜んで食べることから異文化交流が進む。
例:和食しか受け付けないようでは、国際人にはなれません。教養とは、偏見なしに、何でも自分の肌を通して相手を理解しようとすることでもあります。自国の料理を外国人が喜んで食べることで、相手は自国文化が受け入れられたと受け止め、そこから溝が埋まって参ります。
要するに、文化/教養には、言葉の奥にある情緒レベルで共感を生む力があるのです。優れた芸術作品(美術、音楽、文学、映画、演劇等)、料理、歴史、風景等は、感動と感銘を呼び起こし、それを共有した者同士が、ノン・バーバルなレベルで分かり合えるのです。
我が人生の中で感銘を受けたものの一つに、「真に日本的なものは国際的である」という言葉がありました。この言葉から、私が真っ先に閃くのは「日本刀」です。元々は武器だった刀ですが、日本の刀工の手にかかると至上の芸術品となり、本物の価値が分かる人には、洋の東西を問わず「感動と感銘」を呼ぶのです。あの刃先から発する、青白く凄みを帯びた光には、思わずゾクッとするものがあります。
我々60代の世代は、中高生の頃にビートルズを聴き、映画「卒業」を見て、多感な時代を過ごしました。これは一例ですが、時代毎に優れた作品は、地球規模で「感動」をベースにシェアされて行くのです。こういったものの個人レベルでの蓄積こそが、分化/教養だと思います。
そして、「文化/教養面の能力」とは、右脳レベルで物事を受け止め、「感動」を伝え、且つ他人が発する「感動」を共感出来る能力なのだと思います。これがあるからこそ、先に述べた蓄積をベースに、異言語・異文化の壁を越えて、真のコミュニケーションが可能なのでしょう。
以上、纏めますと、国際派診断士として海外でも国内と同等の仕事をして行くためには、専門知識や語学力と並んで、「文化/教養面の能力」が重要であり、これは右脳レベルで物事を受け止め、素直に「感動」をシェアして行くことで、高めて行くものだと考えます。
尚、昨年9月の定例会では、後半のディスカッションの中で「日本人としての誇りを持ち、日本の立場や歴史・文化を堂々と話せること」の重要性が提起されたことを、申し添えます。
以上
■ 永井 廣(ながい ひろし)
・1951年 茨城県古河市にて出生 3歳の時から世田谷区在住
・1975年 早稲田大学理工学部機械工学科卒業
・1987年 サンフランシスコ州立大学経営大学院卒業(MBA)
・2012年 診断士試験合格 翌年4月に診断士登録
・2012年 (公財)東京都中小企業振興公社常勤嘱託
都内中小企業様約70社に対する経営支援に従事
・2016年 公社を退職し、海外業務をメインにフリーランス
診断士として活動中