井村 正規

1)商店街が創る魅力ある街

シャッター商店街という言葉が一般化して久しい。大型駅前スーパー等の大規模小売店の進出により、昔ながらの商店街がすたれてゆく傾向は今もって強いと言わざるを得ない。しかしながら一方で活力のある商店街も数多く存在していることも事実だ。
この違いは何であろう?
活気ある商店街の一例として東京台東区にある谷中銀座商店街http://www.yanakaginza.com/ を挙げてみたい。谷中銀座商店街は山手線日暮里駅から徒歩5分、地下鉄千代田線千駄木駅からも徒歩5分かかり、けっして駅前の便利な場所とは言えない。しかし休日ともなれば、客がごった返す魅力あるまちづくりに成功している。下町の風情を生かした町並みと単なる階段を「夕焼けだんだん」と名付けて夕陽の名所に昇華している。

コラム谷中看板  コラム谷中だんだん

谷中銀座商店街のロゴ         夕焼けだんだん

店主の方々も下町育ちのお人柄もあるのだろう、顧客にも気軽に話かけ、下町という固有のイメージを増幅させるとともに、顧客との距離感を縮め、訪れた人に温かみを感じさせる、なんとも魅力的な商店街の本来あるべき姿を具現化している。
そんな谷中にも千代田線開通による顧客動線変化による通行量の激減、大型スーパーの進出、コンビニの台頭等、大きな危機は複数回訪れている。

コラム谷中古  コラム谷中新

昔からのお店も大繁盛          新たな出店も

コラム谷中メンチ

食べ歩きで行列

しかしながら、そのたびに割引、夏祭り開催、スタンプポイントによるディナー招待等、商店街が一丸となって、危機を乗り越えて現在に至る。
谷中を訪れた方はご存じのことだが、2代目・3代目が引き継ぐ古くからの老舗店舗と若者がオープンした新しい店舗が混在し、商店街としての事業承継も奏功している。商店街が一体となった街づくりが、若い経営者・起業家を呼び込み、街の新陳代謝がうまく回っている好例といえるだろう。

 

2)気仙沼仮設商店街

2011年の東日本大震災では地震と津波及び流出した石油に引火したことによる広域火災が気仙沼で発生したことは記憶に鮮明である。人口約7万人の気仙沼市であるが、総務庁消防局のデータでは平成26年3月現時点での死者は1,214名、行方不明者220名に及ぶ甚大な被害となっている。

市内の飲食店も7割が被災したとされている中で、仮設店舗をマーケットプレイスに集積した復興商店街、復興屋台村が開設され、プレハブ仕立ての仮設店舗で、地産地消型の港町気仙沼のにぎわいを取り戻すための前向きな展開が行われている。

http://www.fukko-yatai.com/

コラム屋台村昼  コラム屋台村夜

プレハブの屋台村          夜はにぎわいを見せる

3)「気仙沼バル」という復興支援活動

この気仙沼の復興の力になれないかと立ち上がった診断士たちがいる。復興支援緊急提言からつらなる一連の活動は気仙沼の仮設商店街で街バルを開催しようと奔走し、多くの観光客、地元のお客様に復興中の気仙沼を楽しんでもらうための「気仙沼バル」http://kesennumabar.com/ という形で結実した。

コラム盛り上がる  コラムほやぼーや

バル:盛り上がる店内         ゆるキャラ ほやぼーや

コラム仲間

運営した診断士と気仙沼の仲間

「バル」とは「BAR」のスペイン語での読み方で、語源は英語のバー(BAR)に由来するが、スペインで「バル」というと、喫茶店と居酒屋が一緒になったような飲食店を指す。朝はコーヒーを、昼には軽食とビールを提供し、夜はタパスやピンチョスといった小皿料理と酒を提供する店が多い。「バル」は生活に欠かせない存在であって、地域の情報交換場所として使用されている。各自ひいきの店を「はしご」するという楽しみ方が日常的に行われている。「気仙沼バル」はチケットを購入して、楽しく食べ飲み歩き、お土産ものを買うために参加店舗を「はしご」するグルメイベントだ。第1回気仙沼バルは、「食でつながる、街がつながる、笑顔がつながる」をテーマに2013年4月20日に開催され、本年4月には5回目となる気仙沼2016年春を実施した。年々参加店は増え、今年は5仮設商店街の60店舗余りが参加し、満開の桜のもとで過去最高の960人の来場者を迎え、3時間余りのイベント中の売り上げも2百万円を超える結果を得た。

 

4)商店街の活性化の施策としての街バルのすすめ

気仙沼バルが成功裏に完結している背景には、多くの店主の強い参加意識、気仙沼市役所の支援、そして裏方としての中小企業診断士のきめ細かな企画運営能力にあると考えている。気仙沼市の一大イベントである椿マラソンの前日という日程設定により、集客を増加させることも成功要因の一つであると思われるが、東京から訪問してくれたお客様からはマラソン大会は別の場所でも開催されるが、バルが楽しみで毎年参加しているという声も頂き、運営した我々としては非常にうれしい限りだ。

商店街の個々の店は小規模企業の域を出ず、単独での頑張りには限界がある。しかしながら、街バルを契機に商店街全体が一体化する力を結集できれば、街は変わっていく。地震・津波という人間の力ではコントロールできない災害に打ちひしがれた人々は、復興に向けて強い力を発揮した。冒頭の谷中銀座商店街も多くの存続の危機を商店街が一体化することで、現在のような活気にあふれる人を呼び寄せる魅力のある街づくりが実践されている。

本稿をご覧の商店街経営者の方々にはぜひ中小企業診断士の応援を求めて頂きたい。小さな力を集めて大きな変化につなげることは我々の得意分野であるから。

 

筆者紹介

コラム筆者

■井村 正規(いむら まさのり)

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。双日株式会社勤務。入社後一貫して財務畑を歩むが、大連・ニューヨーク・シンガポール・香港・北京・上海の海外勤務時代は財務のみならず、会計/リスク管理/経営企画等々の管理部門を統括する。2010年診断士登録。診断士試験合格後に開設したブログ「中小企業診断士一発合格道場」では初代JCとして多くの受験生の支持を得る。診断協会中央支部執行委員、国際部副部長、マスターコース「経営革新のコンサルティング・アプローチ」運営団体BCNG幹事、診断士三田会幹事長代理、双日診断士会会長。

連絡先:imura.rmc@gmail.com