AI(人工知能)は敵か味方か(2016年8月)
「人工知能がプロ棋士に勝利」
10年は無理だろうと言われていた碁の世界で、いよいよコンピュータ囲碁プログラムの「AlphaGo(アルファ碁)」が囲碁棋士を破り勝利したことが大きく報じられました。その後もメガバンクがAIを活用したロボットを採用、自動車は自動運転が現実となり、ペッパーを始めとするロボットブームもあり、手塚治虫の描いた未来社会がすぐそこに迫ってくる勢いです。自動運転で交通事故が減る世界、AIで自動化、コンピュータ化が進むことにより人手不足が解消される世界。そんな明るい未来が期待される反面、現在の人の仕事がコンピュータやロボットにとってかわられるのではないかとの不安の声も聞かれるようになりました。
大企業の工場ではどんどん自動化が進み、さらなる生産効率の向上が追及されています。しかしAI技術により、従来のコンピュータ=効率化、単純作業という区分けが変わり始めています。近い将来、現在は知的業務といわれているプロフェッショナルな業務もコンピュータ化するとも言われています。その理由はAIが機械学習(ディープラーニング)により、多くの過去事例を蓄積すればするほど知識を増やし賢くなるからです。この状況から将来のAI対象業務として期待(?)されているのが弁護士補助や、銀行の融資係等の知的労働業務です。
ではこのコンピュータ化、AI化の波は大企業や一部の知的ホワイトカラーへの影響だけでしょうか。本コラムでは、中小企業におけるAI活用の期待と不安について考えてみたいと思います。
「AIへの期待」
中小企業経営者にとっての大きな悩みの一つが人材不足です。受注を取りたくても人がいない。新入社員の採用も厳しい。万年の人手不足のため女性も育児休職が取りづらいという話も耳にします。現在の業務をもう一度見直し、コンピュータでもできること、AIを活用すればできることは徹底的に自動化する。従来のプログラミングが必要な機械化と違い、機械学習をうまく活用すれば生産効率を大きく向上できるかもしれません。従業員数で大企業を追い越すのは難しくともAIを活用したコンピュータで中小企業の作業効率を一気に上げることができるかもしれません。
では人は何をするのでしょう?定型業務ではなく、よりクリエイティブな業務や顧客とのコミュニケーションを必要とする業務。これら人と人とのつながりが重視される分野。これは独自性、個性の発揮が必要とされる中小企業が得意な分野であり、より個性を強調した差異化戦略をとることができるようになるはずです。
「AIへの不安」
しかし良いことばかりではありません。うかうかしていると前述のとおり従来人が行っていた業務はコンピュータや人工知能にとってかわられてしまうかもしれません。
親企業から指示される仕様書通りにただ作るだけの定型業務ではコンピュータにとってかわられ、近い将来仕事がなくなってしまうかもしれません。そうならないためにも今から自分たちの会社のアイデンティティを明確にし、ビジョンを立て他にはないオンリーワンを目指しましょう。
「AIは敵か味方か」
結果としては、AIは自分たち次第で敵にもなり味方にもなるということです。ほかにない技術、ほかにない商品、ほかにないサービスはいつの世も差異化としてオンリーワン企業の強みとなります。コンピュータはそのための手段にすぎません。同じ手段なら、どうぞ有効に活用して一歩先に進みましょう。
■尾崎 多佳代(おざき たかよ)
東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員、総務部副部長
システムアナリスト