専門家コラム「FinTech利用の身近な事例」(2016年7月)
大根田 陽介
IOTやAIと並び、最近耳にする機会が増えているFinTech。金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語で、金融におけるITの活用を意味します。
実は米国では1990年代から使われてきた言葉で、最近のbuzzwordとはちょっと違います。
かつては金融機関が莫大な投資をして開発・普及してきたこの分野も現在ではアイデア一本勝負のスタートアップや
個人事業主なども参入して活況を呈しています。
中核技術である「ブロックチェーン」などは一般的に利用するのはまだまだハードルが高そうですが、ここ数年で身近な
スマートフォンやタブレットを使って誰もが簡単に使えるFinTechのサービスがたくさん出てきています。
特に少額決済分野では複数のサービス業者がしのぎを削るHOTな場となってきています。
毎年5月に行われる中央支部のカンファレンスでは2015年、2016年と受付業務改善をして参りました。
その一環としてのFinTech(少額決済システム)利用例として手前みそながら紹介させていただきます。
中央支部の受付業務は伝統的に支部経理部が担ってきておりました。
しかし、近年において参加人数の増加に伴う様々な問題が出てきており、受付業務改善が喫緊の課題として浮上してまいりました。
受付業務改善の中での大きなテーマは業務負荷の軽減・分散でした。中でも毎年300名近くが参加するイベントでの現金の取り扱いは現金受領(お釣り渡し)~保管~支部口座への入金まで気が抜けません。
なるべく当日の現金の取り扱いを少なくする方法を考えていました。
【2015年受付時クレジットカード決済導入】
受付での現金取扱額を減らすためにクレジットカードでの決済ができるようにしました。
通常、店舗などでクレジットカード決済ができるようになるまでは事前の加盟店審査、加盟金、カード対応のレジ端末の準備
などに時間とコストがかかり、入金までのサイトも15日~45日くらいかかります。
年1回のイベントのために気軽に導入できる仕組みを探し、スマートフォン、タブレットでカード決済できる4社を比較検討し、
Squareを導入しました。
2015年カンファレンスでの決済では約1割の会員にクレジットカード決済を利用していただきました。
受付業務改善としては名札裏に領収証、半券での入場管理などで効率化が進みましたが、現金の取り扱い軽減の効果はそれほどありませんでした。
【2016年クレジットカードでの事前決済導入】
前年入場者の分析をしたところ、事前申込をしたにもかかわらず当日欠席した人が既存会員で13.8%、未入会員だと33.3%にも上ることが判明。
事前申込者の欠席率を下げるためには事前申込と同時に事前決済もできる仕組みが有効と考えました。さらに参加費支払いのタイミングも当日集中
から、分散させることもできます。(途中経過の管理の手間は増えますが)
マイページやカンファレンス特設サイトからリンクして事前決済がすぐできるサービスを提供している5社を比較し、一番シンプルに運用できそうなSPIKEを導入しました。
法人向けのビジネスプレミムプランもありますが、月額固定利用料が発生する事や東京協会としての年契約が必要となることなどから今回はフリープランでの利用としました。
3月下旬の運用開始からすぐに決済に利用していただき、2016年カンファレンスにおいては事前決済をした方の2/3がSPIKEでのWEBクレジットカード決済を利用。銀行振込と合わせて当日現金の取り扱いは1/4まで減り、予想以上の効果が得られました。
欠席率は既存会員で3.5%(10.3ポイントの改善)未入会員で12.0%(21.3ポイントの改善)まで劇的に改善することができました。
【今後の問題点】
取り扱いカードブランドがSquareだとAMEX、VISA、Master、SPIKEではVISA、Masterと限られています。日本国内において一定のシェアを持つJCBを使えるように
するには、Squareだと5,000円の追加料金、SPIKEではビジネスプレミム契約が必要となります。
競争も激しくなってきており、競合各社のサービス内容も頻繁に変わってます。Squareのカード読み取り端末も無料配布の磁気リーダーが今年4月から使用できなくなり、
有料のICカードリーダーしか使えなくなっています。
次年度またこれらのサービスを利用する場合にも複数のサービスからスポット利用に適したサービスを見極める必要はありそうです。
【企業支援への応用】
Squareは小規模事業者や個人事業主の小売業や飲食店などでの利用が広がっています。決済手段が増えることによって機会損失を防いだり拡販につなげやすくすることも可能です。
SPIKEは自社Webサイト上でのショップ展開や低コストでのWebショップ開店が可能です。
私自身、支援している料理教室やエステサロンのイベントでのカード決済やWEBサイトでの物品販売でもこれらを導入・活用しています。
【導入する上での留意点】
FinTechの中でもスマホ・タブレットを利用する少額決済分野のこれらサービスは導入ハードルも低く、誰でもすぐに利用可能です。
ただ単に導入するだけでなく、業務の中の改善したい部分ときちんと関連づけて「仕組み化」しながら導入したほうが良いかと思います。
優先されるべき本来の集客、売上拡大、負荷軽減、コスト削減のためのあくまで一つの手段としてとらえて使うべきだと考えます。
【まとめ】
各社多様なサービス続々と出てきており、クラウド会計ソフトとの連携、月額課金対応、AIとの連携など、もしかしたらビジネスとの組み合わせによってはアイデア次第で
大きく「化ける」可能性もはらんでいます。FinTechの中でも一般に拡がりやすい分野でのサービスなのでこれからもしばらくは目が離せない状況が続くと思われます。
今後は協会や支部のイベント、各会費などの決済にも展開できる可能性を検討していきたいと思います。
【参考URL】
Square
https://squareup.com/jp
SPIKE
https://spike.cc/
■大根田 陽介
中小企業診断士
弥生認定インストラクター
東京都中小企業診断士協会 中央支部 経理部長
おおねだ中小企業診断士事務所(フレームワークスLLC)代表