遠藤 孔仁

 サービス産業は、我が国GDPの約70%、従業員の約75%を占め、日本経済において大きなウエイトを有している一方、その生産性が効率の低さを改善するための施策として、ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金をはじめとして、サービス産業の高付加価値化や生産性向上のため、様々な施策に取り組んでいます。
 加えて、サービス経済化、製造業のサービス化という言葉からも、従来のサービス産業のみならず、モノづくりについてもその製品が有する機能に着目して、その機能が顧客にどのように使用されるかという視点から製品を定義するという流れもあり、プロダクトアウトから、マーケットイン、カスタマーインをいかに実現するかが重要な視点となっています。
 一方で、顧客志向を進めるうえで、顧客の声に耳を傾けることが一番わかりやすい施策ではありますが、やみくもに顧客の声に対応することにより、その声に振り回され、本来自分たちが製品・サービスを提供すべき相手に、正しく届かなくなってしまうケースを耳にすることがあります。

 そこで、自社が提供したい製品・サービスについて、自社の視点からではなく、顧客側の立場に立ち、どのように使われるか、改めて見直してみることで、新しい発見や気づきを得られることができますので、一度実践してみてはいかがでしょうか。

 実践のポイントは次のとおりです。

(1) 自分たちの顧客となる対象を特定する。
すべての顧客に同じサービスを提供して全員に満足頂くことは困難なことです。自分たちが提供したいものは何かを定義し、それが求める顧客が誰なのかを特定することが重要です。

(2) その顧客の環境や状況から、感情やニーズを探る。
特定した顧客がその製品やサービスを必要とする背景や場面を考え、その時の感情やニーズが何なのかを探ってみます。

(3) 各場面での目的を設定する。
顧客が満足する状態をゴールとして設定することにより、その場面で行うべき行動を明確にします。

(4) どのようなアプローチをするかフローを作成する。
顧客と接する場面において、どのようなコミュニケーションをとり、おもてなしをすればよいかについてのフローを作成する。

(5) 目標となる指標を設定する。
計画時に明確にした目的と、実際にアプローチした結果がどのようになったか振り返るための指標を設定する。

そして、こちらを行うことで、得られるメリットとして、次のことが挙げられます。

(1) 顧客目線で業務を考えることができる。
自社、もしくは担当している部署の都合で考えがちな仕事の流れを、自社の制約からいったん離れ、顧客の立場から業務を見直すことにより、顧客が真に求めている製品やサービスとはどういったものか考えることができます。

(2) 社内で共通の認識を持つことができる。
顧客への対応フローを視覚化することにより、各場面において何を提供すべきかに関する共通の認識を持つことができます。

(3) 施策の運用がスムースになる。
同じ共通認識を持つことによって、なぜその施策を行うかという意図も共有でき、施策を進めることがスムースになります。

(4) 業務に対する動機づけすることができる。
顧客と接することのない部署においても、自部署の業務がどのような形で顧客満足に貢献するかを視覚化するため、業務に対する動機づけを行うことができます。

(5) 業務改善につなげる機会にできる。
自社都合で考えていた業務フローから、顧客視点で何が求められているかを考え、それを実現するためには、業務フロー自体を見直すことも必要となります。

 一度顧客の立場に考えてみると、自社都合で業務を見ていた部分が多いという気付きを得ることができるでしょう。そこから業務を見直すスタートにしてみてはいかがでしょうか。

■遠藤 孔仁(えんどう こうじ)
東京都中小企業診断士協会 中央支部 広報部 部長